6-25 アップデートのお時間です
「い、いやぁ、我々的に友好を深めよう的な……」
「それであわよくば欲望も満たせればな的な……」
ウシワカとベンケイが床に正座し、モニョモニョと言い訳を口にする中で、レイは腕を組み、仁王立ちをしながらその姿を見下ろす。
「そんな感じには見えなかったけど?そもそも何しようとしてたのさ」
「ちょっと、きて欲しい服がござって……」
「こちら【魔法少女なりきりセット】という装備なのでありますが……」
・あー
・確かに見てみたい説あるな
・絶対似合う
そう言ってウシワカが取り出したのは、青色の大きなリボンが付いた水色のワンピースであった。白色のフリルも拵えられた、まさしく『女の子が着る服』を前に、レイは呆れたような声を漏らす。
「完全に趣味じゃん。それをほぼ無理矢理着せようなんて最低だよ?」
「ぬぅ……」
「グゥの音も出ないであります……」
忠告に対し、しゅんと落ち込んだ様子を見せる二人。レイの後ろでは、何とか難を逃れたぺケマルがほっとした様子を見せていたが――。
「でしょ?その服は後でぺけ丸に着てもらうとして、節度を持った距離感で望むように。うちはお触り厳禁だからね」
「……え?レイさん?」
「「了解!」」
・お、そうだな
・ん?あれ?
・どうした?おかしいことは言ってないだろ?
続くレイの言葉に思わず首を傾げて問いかける。だが、まるで決定事項と言わんばかりに大声で敬礼をしたウシワカとベンケイによって、疑問の声は掻き消されてしまっていた。
視聴者も困惑の声を上げる者とそれを押し潰そうとする勢力で別れており、それを見てますます混乱するぺけ丸の方へとレイは体を向ける。
「さて、言われてた通り【堅牢な砲角】持ってきたよ」
「あ、ありがとうございます。いや、それはいいんですけど……」
「さ、これで作れるよね?どれくらい時間がかかりそう?」
「え?あれ?え?」
「ぎゃう……」
視線は合うものの、話は全く噛み合うことはなく、もはや先ほどのやり取りが夢だったのではないかと錯覚してしまう程にレイは平然と話を進めている。
明確に拒否することすらできず話は流れ、隣で『諦めろ』とでも言いたげにじゃしんが肩に手を置き首を振っている姿を見て、ぺけ丸は動揺を隠せなかったが、気を取り直すように、レイの質問に答えた。
「じ、時間としてはそこまでかからないかと。幸いこのクランハウスに生産用の施設は整っているみたいなので」
「え?そうなの?」
「えぇ、ツヴァイ氏の武器のために作ったのであります。最近は使ってないので埃をかぶってしまっているでありますが」
「へぇ」
ぺけ丸の回答にレイがウシワカの方を見れば、クランハウス内にあるとある扉を指さす。
おそらくそこが、生産用の設備が整った部屋なのだろう。そう判断したレイは納得するように何度か頷いてから、ぺけ丸へと視線を戻す。
「そうですね、ゲーム内で一日いただければ終わらせてみせます」
「ん、じゃあよろしくね」
そうして話がとり纏まると、レイはメニューから〈アイテム〉を開き、【Crescent M27】の装備を解除してからぺけ丸へと渡す。
それを受け取ったぺけ丸が〈アイテムポーチ〉へと大事そうにしまった後、ふと思い出したかのように提案する。
「あ、そうだ。【星空の修道女】も置いていってもらっていいですか?」
「【星空の修道女】を?どうして?」
「メンテナンスついでに強化できないかみてみます。あれから色々スキルも覚えましたし」
「え?いいの?」
ペケ丸の言葉にレイはなるほどと思案する。彼女にしてみればメリットしかないため、すぐさま装備を切り替えると、【星空の修道女】をペケ丸へと渡すついでに、他の装備やアイテムもテーブルへと広げる。
「そういうことなら。そうだ、この辺の装備使えそうなら使って」
それはワールドクエストで手に入れた【海賊王のコート】や【消エヌ炎ノ羽衣】など、手に入れたはいいが使えない装備や、〈アイテムポーチ〉の肥やしとなっている不要な素材であった。
それをみたぺけ丸は目を丸くさせて、申し訳なさそうに尋ねる。
「え?いいんですかこれ使っちゃって」
「うん、だって持ってても装備できないからさ。もし使えなくても持って帰ってくれていいよ。私が持ってるよりかは有効活用してくれそうだしね」
・確かに
・そりゃそうだ
・宝の持ち腐れってやつ
「ぎゃう〜」
レイが肩をすくめて返して見せると、視聴者からも同意のコメントが飛び交い、ぺけ丸の隣にいたじゃしんも腕を組んで何度も頷いている。
それに対し、少しだけ萎縮した様子を見せたぺけ丸だったが、やがて意を決したように覚悟を決めた瞳でレイを見据える。
「わ、分かりました!頑張ります!レイさんの期待に応えられるように!」
「うん、任せた!できればかっこいい奴頼むよ!」
「はいっ!」
真っ直ぐな瞳に、満面の笑みで返したレイは、やる気になっているぺけ丸を少し茶化すように口を開く。
「まぁ正直そこまで疑ってないけどね、ぺけ丸ならきっとすごいもの作ってくれるでしょ」
「確かに、あの設計図を一目見ただけで理解してたでありますからなぁ」
「もしかしたら、生産職の中でもトップレベルと言っても過言ではないのでござらんか?」
「ぎゃう~」
・コンテスト優勝者だからトップで間違いない
・武器も作れるとか中々チートよな
・ぺけ丸くん有能すぎ
「そ、そんなことないですよ」
一度称賛の声が上がれば、それに追随するように周囲からも称賛の声が聞こえ始め、ぺけ丸は恥ずかしげに顔を伏せる。
「ほう、そこまでか」
「ん?」
「あっ!」
その時、突然クランハウスの扉が開かれる。
「であれば、我が愛剣も見てもらえないだろうか。何分、久しく遭逢が無かったせいか、拗ねてしまっているようでな」
声をした方をレイが見れば、全身を黒いコートで身に包み、白と黒、二振りの剣を腰に携えた青年がこれ以上ないドヤ顔で扉の入口に立っていた。
[TOPIC]
ARMOR【魔法少女なりきりセット】
かつて魔法少女を渇望したとある偉人が作成したとされる意欲作。強い憧れの表れか、細部まで拘り抜かれており、途方もない労力が窺える。
要求値:-
変化値:〈知性〉100
効果①:SKILL【アーマーチェンジ】




