6-23 予定通りは夢のまた夢
・おめ
・流石……なんだけど
・じゃしんの扱いよ
かつての宿敵である【スカルドラゴン】を圧倒したレイだったが、目に入るコメントには称賛の中にどこか責めるような空気が混ざっていた。
「何言ってるの、これがチームプレイでしょ。おーい、じゃしん」
「……ぎゃう」
「あれ?」
それに対してレイは馬鹿にするように言葉を返す。
当然相棒も同じ気持ちだろうとじゃしんに近づけば、返ってきたのは同意ではなく、非難するような目つきであった。
「いや、いつものことじゃん。なんで?」
・いや、違くね?
・レイちゃんの攻撃に巻き込んだよね?
・流石に酷いと思うよ
「ぎゃう」
それに心底不思議そうに首をひねれば、視聴者から若干咎めるような言葉があがっており、じゃしんもそれに同意するようにしきりに頷いている。
「うっ、分かったよ。なるべく味方の攻撃には巻き込まないようにするよ、それでいい?」
「ぎゃう……」
・親しき仲にも礼儀ありかな
・一件落着か
・じゃしんは知らなかった、もっと酷い扱いを受けることに…
思わずたじろいだレイが妥協するように提案すれば、じゃしんは渋々といった様子で頷く。
視聴者の中では不要なフラグを立てている者もいたが、ひとまずは状況が落ち着いたため、レイが視線を先へと向けると、レイ達が来た反対方向、【スカルドラゴン】を挟んだ反対側の扉が開放されており、その先に進めるようになっていた。
「ま、ここは通過点だしさっさと抜けちゃおうか」
「ぎゃう!」
レイが歩き出せば、じゃしんも気を取り直したのか元気な返事をしてその後に続く。
階段を上がり、次の階を目指す道すがら、レイは念のためじゃしんに対して注意を促す。
「じゃしん気を付けてね、ここから登場するモンスターは強くなるから」
「ぎゃうっ!」
・この階は何が出るの?
・アイアンマンみたいな名前のやつ
・それは次、ここはトラマリだった筈
「そうそう、【トラップマリオネット】っていって、罠をつくって捕まえた敵を連れ去って袋叩きにするっていうモンスターだね。まぁ罠自体はわかりやすいから分かってれば問題は――」
21階にたどり着き、ひとまず道を直進したレイは、目の前にある分かりやすいワイヤーのような糸を避けて進む。
だがそれを抜けた先で、背後からガシャンと何かが囚われるような音が聞こえた。
「ぎゃう?」
・あれ?
・罠ってこれか?
・レイちゃんこういうの?
「そうそう、こういうの――っておい!」
レイが振り返れば、まさしくじゃしんがワイヤーに引っかかり、天井から降ってきたと思われる鳥籠に捕まっていた。
その奥からは不気味な仮面をした下半身の見えないモンスターが宙に浮いており、じゃしんの籠に触れるとそのままどこかへと持ち去っていく。
「ぎゃう~!」
「ちょっ、待って!」
連れ去られていくじゃしんを慌てて追いかけるレイ。かろうじて間に合ったレイがそれを何とか取り返しても――。
「ぎゃうっ!?」
「ちょっ、また!?」
「ぎゃーうー!」
「何で!?私の後ろ歩けって言ったじゃん!」
「ぎ……う……」
「だから見えてる地雷に突っ込むな!」
再び見えているワイヤーに引っかかったり、続く階では【ダイソンヒル】と呼ばれる巨大なヒルに吸い込まれそうになったり、さらに先では【スワンプスライム】の作り出した沼に溺れかけたりと、考えうる限り最大の足をじゃしんは引っ張っていた。
「はぁはぁ、疲れた……」
「ぎゃう……」
・おつかれ
・じゃしん…
・やっぱもっと痛い目見た方がいいわ
ただ、満身創痍になりつつもレイの努力のおかげで階層は上がれており、目的地である24階へは辿り着いていた。
どっと疲れた体に鞭を打ち、レイは息を整えつつ気合を入れ直す。
「まぁいいや、とりあえず辿り着いたから。後は手に入るまで粘るだけ!」
・何がいるんだっけ?
・堅牢な砲角。巨砲虫からとれる
・巨砲虫ってそもそも何?
「えーっと、あぁ、あれだね」
レイはキョロキョロと辺りを見渡すと、前方奥の通路にて、大砲のような立派なツノを携えた、レイの身長ほどの大きさのカブトムシを指差す。
「砲身から大砲の弾みたいなのが飛んでくるから、それにさえ気をつければ勝てない敵ではないかな」
調べてきた情報を口にして、後は単純作業だとたかを括ったレイは、【巨砲虫】に気づかれないようゆっくりと近づいていく。
「よし、いくよ」
「ぎゃうっ」
そうして射程圏内に入ったタイミングで、じゃしんへと声をかけると、反対方向を向いている【巨砲虫】に向けて一気に駆け出す。
「よし、もらっ――」
完全背後を取り、勝利を確信するレイ。だがそこで【巨砲虫】は思わぬ行動を見せた。
「うわっ!?」
「ぎゃ――」
・じゃしーん!?
・クリーンヒットだぁ!
・今日散々だな
戦車のように上部がぐるりと一回転すると、砲身が一気にレイの方へと向く。それをすんでのところで躱したところ、背後にいたじゃしんが対応できずにそのツノに顔をめり込ませる。
「危ないな!でもそのご自慢のツノはもう使えないでしょ!」
意外な行動だったものの、当初の目的通り懐に潜り込んだレイ。そのまま手に持った銃を押し付けようとして――またしても予想外の出来事が起こった。
「は?」
・飛んだ!?
・なぁ、これってゴキ……
・それ以上はいけない
背中にある翅を高速ではためかせ、宙へ浮かぶ【巨砲虫】。その姿にレイが一瞬呆気に取られると、砲身の先端をレイへとセットする。
「そんなの聞いてないっ!?」
「ぎゃう~!」
・じゃしーん!?
・(本日n度目)
・もう逆に笑えてきた
すんでのところでレイが前転して場所を変えると、元いた場所――ダウンしているじゃしんの元へ砲撃が降り注ぐ。
「クッソ、距離を取らせちゃダメだ……!」
喧しい翅音を響かせながら宙に浮いて後退する【巨砲虫】。その間にもツノの先端から砲弾を発射しており、レイは必死で避けながら射角から逃れるために前方へ走る。
「よし、捕まえた――」
そして十字路に差し掛かった時、ようやく【巨砲虫】の真下に辿り着き、――そこで右の通路から登場したもう一体の【巨砲虫】と目が合った。
・あ
・ハーイ
・そりゃ二体目もいるよね
「て、撤退ー!」
「ぎゃうっ」
その瞬間、全速力で来た道を引き返し、ぷすぷすと煙を上げて地面に倒れるじゃしんを掴んでは、降りる階段を目指す。
その道中では【巨砲虫】二体による翅音と砲撃音が響いていたが、なんとか階段に転がり込むと、その音も次第に遠ざかっていった。
「はぁはぁ、これ倒せるの……?」
・何とかしないと
・周回だから神の憑代使えないしな
・ちなみに入手確率はどれくらいなの?
「……確か3%だったかな」
・あっ
・これは……
・長 期 戦 確 定
階段で座り込み、改めて状況を考え直すレイ。先ほどまであったこれから先は消化試合であろうという淡い期待は一瞬で崩れ去ったようだった。
[TOPIC]
MONSTER【巨砲虫】
別名『天然の戦車』と呼ばれ、複数が群れを作れば街ですら容易に落とすとされている。
昆虫種/機甲系統。固有スキル【砲撃】。
≪進化経路≫
<★>ビームワーム
<★★>鉄砲虫
<★★★>キャノンビートル
<★★★★>巨砲虫
<★★★★★>電磁双角虫




