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6-21 宿敵との邂逅


 ジリジリと照りつける太陽。遮られることなく降り注ぐ日光は宝石のように煌めく砂に反射し、そこを歩くものを蝕んでいく。


「ぎゃう~……」


・辛そう

・暑いの苦手そうだもんな

・うちの犬もそんな感じだわ


 あまりの暑さにじゃしんが舌を出しており、だらんと脱力しながらもなんとか空を飛んで前へと進んでいる。


 その姿に苦笑したレイが気を紛らわすように声をかけた。


「【渇望】だっけ?私の代わりにありがとね」


「ぎゃう~……」


「あー、こりゃ重症だね」


 レイのからかいの言葉にも反応は薄く、もはやお手上げだとでもいうようにレイが両手をあげる。


 ただ、その時に遠目にうっすらと塔のような影が見え始め、レイは話題を変えるようにその肩を叩いた。


「ほら、あれが【バベル】だよ」


「ぎゃう?ぎゃう~!?」


・でっっっか

・これがバベルか

・雲よりも高いじゃん


 天を貫く灰色の塔はひどく無機質な雰囲気だった。


 窓一つなく、外界からの侵入手段を最大限排除した造りをしており、何者にも犯されることなく悠然と佇んでいる。


 そんな巨大建造物を目にしたじゃしんは、今までの疲れが吹き飛んだかのように目を見開いて驚いた様子をみせた。


「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃう!?」


「すごいよね、これ。ゲームなのは分かってるんだけど、誰がなんの目的で建てたか気になっちゃう」


・分かる

・背景ストーリーとか見てみたいよね

・そのうち小説化しそう


 興奮した様子でレイと【バベル】に視線を行き来させるじゃしん。レイも傷一つないその塔を見ながら感心したように呟く。


・めっちゃ人いるな

・そりゃあれだけ話題になればね

・レイちゃん効果か


 そうしてその麓までたどり着くと、多くのプレイヤーでごった返しており、レイは肩をすくめてみせる。


「まぁ流石にか。でも順番とかはないから大丈夫だと思う」


 そう言ってレイは、多くの視線に晒されながらもまっすぐ【バベル】に向かって進む。そうして唯一の入り口となっている扉へと辿り着いた。


「よし、じゃしん準備はいい?」


「ぎゃうっ!」


 見た目とは裏腹に探索者を歓迎するかのよう解放された扉には【ポータルステーション】の時と同様、別世界へと続くポータルのようなものがあった。


「ここが【バベル】の中か」


 石で作られた内部は冷たく不気味な雰囲気でレイ達を待ち受けていた。


 後ろを振り返れば、先程までのプレイヤーの姿はみえるものの、全く音が聞こえず、別世界へと隔離されたかのようにレイは感じる。


「ぎゃうっ……」


「そう身構えなくても大丈夫だよ、下の方は大したことないみたいだから」


・もしかしてレイちゃん調べて来た感じ?

・あのクッソ見にくいwikiを?

・各々が好き勝手やってるんだよな


 視聴者の言う通り【バベル】に関する情報をまとめたサイトも当然ネットには存在する。しかし、ただでさえ閉じコンな上、謎の選民思想が蔓延っており、理解することも一苦労なようだった。


「うん、でも今は結構見やすくなってたよ?そんなことより、ひとまず登場するモンスターを……あー、外れかな」


 視聴者のコメントに頷いて見せたレイは周囲の索敵を開始する。すると、蠢く人型のモンスター、【グール】を発見した。


「じゃあやり直しっと」


・え?なんで?

・そうね

・欲しい素材が手に入るモンスターが出ない


 それを見た瞬間踵を返したレイに向けて、視聴者から疑問の声が上がる。次いで、それに返答する形でコメント欄が流れ、レイはそれに乗っかる形で説明を開始する。


「そういうこと。ここって入ったタイミングで登場するモンスターが確定するんだよね。今回は【巨砲虫】が出るテーブルに入りたくて、それには一階に【ステップラビット】が出ないとダメなんだ」


・ほぇ~

・なるほどなぁ

・ランダムなのか


 視聴者に説明をしながらも、レイは【バベル】に出たり入ったりを繰り返す。そうして何回か行ったところで、ようやくお目当てのモンスターを見つけた。


「あ、来たね」


「ぎゃう!?」


 白い体に赤い目をした馴染みのある兎を見つけ、レイはほっと胸を撫で下ろす。隣で威嚇するじゃしんを捕まえながら【バベル】の中へと足を進めた。


「よし、じゃあ目標は24階だから、さっさと駆け抜けるよ。……あいつとも戦うことになりそうだしね」


「? ぎゃうっ!」 


 首を傾げたじゃしんを引き連れて、レイは【バベル】の中を疾走する。


 その足で動き回ることで、マッピングを繰り返していき、上へと続く階段を見つければノータイムで駆けあがっていく。


 登場するモンスターは次第に強くなっていくが、レイはその全てと戦闘を避け、ただひたすらに上へと目指し、あっという間に20階へと続く階段へと辿り着いた。


「よし、クリアっと」


・ナイス

・結構余裕そうだったな

・なんだ、大したことないじゃん

・※レイちゃんがおかしいだけです


「まぁここまではね。問題は次なんだよなぁ……」


 余りの呆気なさに視聴者が能天気にレイを褒める。ただ、当の本人はあまり浮かない顔をしていた。


・問題?

・確かに

・というと?


「20階はね、ボス部屋なんだ。しかもちょっと変わった、ね」


 答えつつも、レイは階段をゆっくりと上がっていく。それはまるで、覚悟を決め、次に起こる激戦へと備えているようで――。


「ボスモンスターとして登場するのは、挑戦プレイヤーが一番負けてきた相手(・・・・・・・・・)。もちろん、それを利用して軽く突破する人もいるんだけど、私の場合は残念ながらそうもいかなくてさ」


 残念そうな声音でそう呟くレイの顔はどこか笑っているようであった。そのまま20階の扉に手をかけると、思いっきり押し開ける。


・え?

・コイツってまさか!

・キターーー!!!


「あの時とは違うってところ見せてあげるよ、【スカルドラゴン】!」


 【Crescent M27】を握りしめ、レイは目の前にいる化け物を睨みつける。そこには白い巨体をゆっくりと動かす骨の龍の姿があった。


[TOPIC]

WORD【バベル攻略wiki】

『ToY』の世界に存在する【バベル】というダンジョンの攻略情報が集められたサイト。

開設当初はページを整える有志が存在し、まだ見やすい物であったが、過疎化が進んだことでその人物もいなくなった。

その影響か、次第にページが荒れ始め、wiki内に同一内容のページが3つ以上存在したり、そもそも真偽の怪しい情報が大量に記載されていたりと、初心者が見ても何一つ理解できないものとなっていた。

ただ、再び【バベル】が注目され始めたことで、有志による整備が始まり、全盛期ほどはないが情報を集めやすくなったようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全裸になって一番弱い敵に殺されまくれば個々のボスはそいつになってむしろ休憩所になる感じか・・・ 流石にデメリットデカいけどw
[一言] 更新お疲れ様です! まぁあのもっふもふ具合だとそうなりますよねぇ… 砂漠に突然現れる塔とかそれなんてロマンの塊何でしょうか…!! なるほどテーブル固定ですか。ステップラビットも懐かしいですね…
[一言] ゾンビアタックしてたのが懐かしい
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