6-19 二限目『魔導武具』
「いいもん……どうせこうなると思ってたし……」
「レ、レイ氏!気を確かに!」
「そうでござる!まだ他に方法はあるはずですぞ!」
「ぎゃうぎゃう!」
膝を抱えて地面に「の」の字を書くレイを、男三人が必死で励ましている。じゃしんに至っては先ほどまで書いていた落書きのような絵を、『これやるから元気出せ!』とでも言いたげにレイに差し出していた。
「ふふっ、所詮は高望みだったってことか……滑稽だね……」
・毎度ながら可哀想
・でもじゃしんのステータスなら魔法も強そうじゃね?
・それだ!
「それなら殴ったほうが早いもん」
・……確かに
・ぐぅの音もでないわ
・万事休すか……
ただそれでもレイは自虐するかのように儚く笑う。視聴者でさえかける言葉を失い、重たい空気が流れる――かと思いきや、突然ウシワカとベンケイがきょとんとした顔でレイへと尋ねた。
「レイ氏。一つ伺いたいのですが、どうしても魔法が使いたいというわけではないのでござるか?」
「話を聞く限り、何やら他の戦い方でも問題ないと言った口ぶりでありますが……」
「え?ロックスから聞いてないの?」
思わず顔を上げたレイだったが、本当に分かっていないのか首を傾げているウシワカとベンケイ。
その様子を見たレイはロックスが行った紹介に疑問を持ちつつも、新しい戦闘手段を探しており、その中で魔法に目を付けたことを説明した。
「なるほど、我々は『魔法を使いたい奴がいる』としか聞いておりませんでした故、盲点でありましたぞ。であれば、ウシワカ氏?」
「分かってるでござるよ。レイ氏、一つご紹介したいものがあるのですが、よろしいか?」
「う、うん。大丈夫だけど」
レイの言葉を聞いた二人は顔を見合わせると、何やら机の上に紙を広げる。
・なになに?
・銃っぽい
・設計図だよな、これ?
「これは一体?」
「こちら、現在我々が研究している『魔導武具』と呼んでいる武器であります」
びっしりと描かれた図面の中央には銃の形状をしたモノが描かれていた。その周囲の言葉は専門的であり、理解できそうになかったため、レイはベンケイの解説へと耳を傾ける。
「私事でありますが、我々にはもう一人同志がいたのでござる。名を、ツヴァイというのですが、聞いたことは?」
「ツヴァイって確か、【両利き】の……」
レイの記憶にあったそのプレイヤーの名前。かつて視聴者から聞いたそれを思い出すかのように呟けば、ベンケイはそれに頷いて言葉を続ける。
「実はそのツヴァイ氏がこのクランの発起人でござるよ。当初の目的は魔法を極めることではなく、別の部分――【聖剣】と【魔剣】の力を解明することにあったのでござる」
「【聖剣】と【魔剣】……って確か最初に見つかったユニーク武器だっけ?」
「いかにも。剣でありながらステータスを有していた二対のユニーク武器、その謎を解明するために協力をお願いされ、我々は快諾したのでありますよ」
・なるほど
・確かに一理ある
・それでなんで魔法に?
「その、どちらも【光魔法】に【闇魔法】というスキルが使えたのでござる。それぞれ使うだけなら珍しくないのでありますが、武器にそれが宿るのは珍しいなどというレベルではない。故に、我々はまず魔法から極めることにしたのでござるよ」
「なるほど……それで、これは?」
レイと視聴者の質問に淀みなく答えるウシワカとベンケイ。一通り聞いたレイは、改めて差し出された図面に目を向ける。
「こちらはそのユニーク武器を研究していた際の副産物として考案致しました、魔法を使える武具であります!」
・魔法を使える……?
・スキルとして持つってこと?
・それもうユニーク武器なんじゃ……
ウシワカの説明にざわつく視聴者に対し、ベンケイがそれを否定するように手を振りながら補足を加える。
「あいや、【聖剣】と【魔剣】のように永続的にスキルとして持つわけではないでござる。【魔法書】という物は知っているでござるか?」
「【魔法書】?【魔導書】じゃなくて?」
「えぇ、『魔法』でござる。えっと確かこの辺りに……ありましたぞ」
物が積みあがったテーブルの一角からあるアイテムを取り出したベンケイはそれをレイへと渡す。
「これが【魔法書】でござる。効果を確認して下され」
「えっと……」
ITEM【魔法書】
ある魔導士が死の間際に後世に残した本。残された魔力の残滓が再び命を吹き込む。
効果①:SKILL【炎魔法『ファイアーボール』】
効果②:SKILL【光魔法『ライトヒール』】
効果③:登録なし
そう言われ、手元にあるアイテムの効果を確認すれば、そこには見慣れぬ記載があった。それに首を捻ると、すぐさまベンケイから解説が入る。
「このアイテムには3つまで魔法を登録しておけるのでござる。しかも、MPを消費することなく再度放出することも可能の優れ物!」
「おぉ!なんか凄そう!」
「ぎゃう!」
得意げに演説するベンケイに、レイとじゃしんは思わずどよめく。だがそこへ水を差すようにウシワカが待ったをかけた。
「アイテムとして取り出さねばいけない性質上片手が塞がるのに加えて、威力はプレイヤーの〈知性〉依存でありますから、思ったより扱い辛いアイテムではありますが」
・そうそう、結局魔法使いじゃないと使えないんだよな
・しかも魔法使いなら自分で撃った方が早いという
・いうてヒールストックとかは強いぞ
「使い道はありそうだよね。それで、これを見せた理由は?これだけじゃ流石に意味ないと思うけど……」
その言葉に賛同するように視聴者達も声を上げ、それに対して議論を交わしている。そんな意見を目にしつつも、レイは結局の所何が言いたいのかを問う。
「もちろん、我々はその性質を利用して、別の事に使えないかと考えたでござる。例えば、弾丸などに使えたら夢があると思いませぬか?」
「弾丸?……まさかっ」
ニヤリと含みを持たせて笑うベンケイに、レイはハッとして驚きの声を漏らす。
「そう言うことでござる!こちら魔法を纏った弾、『魔法弾』を発射できるという超かっちょいい武器なのでござる!」
「うおぉぉぉぉ!!!」
「ぎゃうぅぅぅ!!!」
拳を上に突き上げて熱弁したベンケイに合わせて、レイとじゃしんも叫びながら右手を掲げる。
「こちらレイ氏にぜひ使っていただきたく!どうでござろうか?」
「もちろん大歓迎だけど……。でもいいの、そんなすごい発見なのにさっき知り合ったばかりの人間に渡して」
「何をおっしゃいますやら」
そうしてヒートアップした状態のままベンケイが提案をすると、流石に申し訳ないと感じたのか、少し冷静になったレイが遠慮がちに答える。
ただそれを二人は豪快に笑い飛ばした。
「我々は魔法を愛する、いわば同志でありましょう?であれば、喜んで協力するであります!」
「それに量産できればそんなことは杞憂に終わるでござる。むしろ、これからの未来のためにこちらから協力してほしいでござるよ!」
「――うん、わかった!よろしくね!」
親指を突き立ててサムズアップする二人に、レイも笑顔で同じ動作を返す。
閉ざされたと思っていた扉からは、再び光が漏れだしたようだった。
[TOPIC]
PLAYER【ベンケイ】
身長:155cm
体重:93kg
好きなもの:アニメ、フィギュア、ラノベ
大きな瓶底眼鏡にぶかぶかの白衣を着たオタク気質な青年。リアルでも親交のあるウシワカと一緒にゲームを始めたため、『キャラメイクしたら弄られる可能性がある』という半ば強迫観念のようなイメージを抱いたため、ほぼ現実の姿でアバターを作成したら親友共々周囲から浮くという結果になってしまった。
どうせならと口調まで寄せようと、頓珍漢な提案をしてしまったために余計浮くことになっているのだが、本人達は意外と楽しんでいるらしい。




