6-18 一限目『魔法学』
「ではまず、『魔法』とはなんぞやというところから」
黒いテーブルを挟み、席に座るレイとその横でクレヨンを持ち、何やら落書きしているじゃしんに向けてベンケイが説明を始める。
「レイ氏は既に【魔法使い】、であればスキル【初級魔法】は覚えているでござろう?使用したことは?」
「いや、まだないかな」
「では早速使ってみるであります」
そう促されたレイは言われるがままスキル【初級魔法】を発動する。すると、目の前に見たことのないウィンドウが表示された。
・なにこれ?
・出た
・これ楽しいんだよな~
「その画面はいわば魔法のカスタマイズ画面であります。右下にポイントがあるのが分かるでござるか?」
「ポイント?あぁうん、あるね」
説明を受け、レイが改めて画面に目を向ければ、右下には『10』という数字と、画面中央には『Range』、『Power』、『Speed』、『Cost』、『Shape』、『Type』という六項目が存在した。
「なるほど、そういうことか」
「お、もう理解したでござるか?」
「うん、要するにこのポイントを割り振って自分好みの魔法が使えるよってことね?」
それを見て感覚的に仕様を把握したレイは実際にポイントを動かし始める。
『Range』と『Power』、『Speed』、『Cost』についてはポイントを割り振ることで数字が増減し、『Shape』と『Type』では一定のポイントを使うことで項目が切り替わるようになっていた。
「『射程』、『火力』、『速度』、『消費』、それから『形状』と『属性』かな? これ以外の項目は無いの?」
「あるでありますよ。ただ、それには上級職への転職が必要であります」
「じゃあ当分は無理そうだね……。じゃあこのポイントはどうやったら増える?」
「そちらは【魔力錬成】のスキルを確認していただければ分りやすいと思いますぞ」
SP【魔力錬成】
内なる気を用いて昇華せよ。それこそが魔を極める第一歩なり。
効果①:BPポイントを魔力ポイントとして変換することが出来る
「え、ダメじゃないこれ?」
・ダメだね
・レイちゃん増えないなこれ
・盲点だった
その効果に不安げな表情を浮かべたレイ。そこへ目の前にいた二人から慌ててフォローが入る。
「いやいや安心して下され。レベル上げでも上がりますぞ!……まぁ極僅かではありますが」
「レベルアップで1しか増えませんからなぁ……」
ただそのフォローもあまりフォローになっておらず、レイはがっくりと肩を落とす。とはいえ、まだ完全に使えない訳ではなく、フォローできる範囲であると考えたレイは、気を取り直して気になったことを口にする。
「まぁ、増えないよりかはマシか……。おすすめの設定とかあったりします?」
「もちろん!運営が作ったプリセットについては、魔法名を叫ぶだけで出せるであります!」
「しかもこれはカスタマイズとは別枠となりますから、基本的な【魔法使い】はこちらを使っておりますなぁ」
・カスタマイズは玄人向けって事か
・俺もそっち派だな
・プリセットで事足りるんだよなぁ
どうやら【初級魔法】というスキルでわざわざ魔法を作成せずとも使用できるものがいくつか存在するようだった。それを聞いたレイは頭を抱えて悩む素振りを見せる。
「どうせなら設定したいけど……でも現状自由度少なそうだし、そっちでもいいかも……」
「いやいや、カスタマイズ設定はして損はないでござる!それに、プリセットより効果の高いものも紹介できますぞ!」
「しかも自分好みの詠唱まで設定できるであります!すごいでありましょう!」
「え、詠唱!?」
身を乗り出して熱演する二人のとある言葉に、レイも同じように身を乗り出して反応する。その期待で膨らむ瞳を見て、二人はメガネをきらりと光らせる。
「お、いい反応ですな?レイ氏もこっち側でござったか……!」
「ネタに振るもよし、感情の赴くまま叫ぶもよし、敢えて無詠唱もよし!なにをしても様になる、それが魔法であります!」
「う、うおおおお!!!」
・うるさっ
・過去一のテンションで草
・咆哮するほどか?
「ぎゃうっ……?」
興奮のあまり雄たけびを上げたレイを少し冷めた目で見つめているじゃしん。だがそれに気付いていないのか、レイは早口で捲くし立てる。
「ど、どうやって設定すれば!私も詠唱したいです先生!」
「ふっふっふ、ではここをこうして――」
そうしてレイはベンケイの指示通りに魔法を設定していく。そしてぶつぶつと何かを呟いたかと思えば、もう待ちきれないといった表情で、ダメージ測定用のゴーレムに体を向けた。
「さて、触りはこれくらいにして。早速実践とまいりましょう!」
「レイ氏、お好きなときにどうぞでござる!」
「『電鳴よ、我が怒りを轟かせ!』【サンダーボルト】!」
レイが呪文を唱えれば、前へと突き出した右手から雷が放出され、ゴーレムへと突き刺さる。そしてバチィ!と激しい音を響かせると、ゴーレムの頭上には『40』という数字が浮き出していた。
「うっひょー!かっこいいでござるレイ氏!」
「センスありますな!素晴らしい!」
「ぎゃうっ!ぎゃうっ!」
「これが魔法……!」
大はしゃぎする三人の姿を他所にレイは呆然と呟く。輝いた瞳からは確かな手応えを感じ取っているのが窺えた。
「そうであります!他にも【中級魔法】、【上級魔法】とスキルが上がるにつれて扱える幅も大きくなりますし、特殊な『魔導書』と呼ばれるアイテムを使用することで手に入る魔法もありますからな!」
「しかもMPさえ消費すれば発動できるので、クールタイムが存在しないのでござる!スキルが弱体化傾向にある中、まさにホットなジャンルでござろう!」
・それはいいな
・俺も魔法使いになろうかな
・確かに熱い
力説するウシワカとベンケイに当てあられたのか、視聴者の中でも魔法の評価が上がっている。もちろん、レイの中でも同様であり、不敵に笑みを浮かべた。
「これで〈信仰〉と〈知性〉を入れ替える【勤勉家のロザリオ】さえ手に入れば……!」
・あ、それ前言ってた奴?
・って事は次はそれ目標か
・ん?それってそんな効果だった?
「【勤勉家のロザリオ】?」
レイが視聴者に向けて話しかけると、ウシワカが首を傾げて反応する。話の内容を聞いたうえで不思議そうな表情を浮かべると、〈アイテムポーチ〉に触れて何かを取り出した。
「レイ氏が言っているのはこのアイテムの事でありますか?」
そういってレイに見せてきたのは十字の中央に茶色の宝石がはめられたロザリオ。それを手に取ったレイはその効果を確認する。
ACCESSORY【勤勉家のロザリオ】
とある牧師が肌身は出さず携帯したロザリオには、努力の証である文字の跡が微かに残っている。
効果①:〈信仰〉と〈知性〉を入れ替える
「そうこれ!持ってたの!?」
それはまさしくレイが望んでいたものであった。だが、勢いよく顔を上げた先ではウシワカとベンケイが微妙な表情を浮かべており、くるりと背を向けて何やら相談を始める。
「あー、まぁ。……ウシワカ氏、これはもう使ってもらった方が早いでござるか?」
「そうでありますなぁ……。ごほん。レイ氏、これは差し上げますので、装備してからもう一度【サンダーボルト】を使用するであります」
「え、いいの?」
ぶつぶつと何か小声で呟く姿に不安を覚えたものの、レイは遠慮なく【勤勉家のロザリオ】を装備し、再びゴーレムに向けて【サンダーボルト】を放つ。――だが。
「あ、あれ?何で?」
・さっきと変わらないな
・どういうこと?
・ちゃんと装備した?
ゴーレムの頭上に表示された数字は先ほどと同様『40』という数字であった。その事実にレイが困惑した様子を見せると、ベンケイが少し憐みの視線で解説する。
「実はこの入れ替えるというのは、『参照する効果の対象を入れ替える』ということなのでござるよ」
「ど、どういうこと……?」
「例えばこちら、【ブレインドリンク】。こちら〈知性〉を上昇させる効果なのでござるが、飲んでみて下され」
「う、うん……」
言われるがままオレンジ色の液体を飲み干すレイ。そして〈ステータス〉画面を開いたところで、ベンケイの言わんとしていることを理解する。
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NAME じゃしん
TRIBE【神種Lv.5】
HP 666/666
MP 666/666
腕力 666
耐久 666
敏捷 666
知性 666
技量 666
信仰 999(666*1.5)
SKILL 【じゃしん結界】【じゃしん賛歌】【じゃしん捜査】【じゃしん硬貨】
SP【別世界ノ住人】【摂理ノ外側】
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「信仰が上がった……」
「ぎゃう?」
その光景に目を見開き、呆然自失といった様子でじゃしんを見る。それに対して、じゃしんは不思議そうに首を傾げ見つめ返す。
「そういう事であります。〈信仰〉のステータスが上がる効果を〈知性〉に、〈知性〉の場合は〈信仰〉に。そういう意味での入れ替えなのであります」
「我も最初は騙されたでありますなぁ……」
「そ、そんな……」
・分かりづらっ
・これは勘違いするわ
・勘違いっていうか悪意ないこれ?
考えていた『俺の最強コンボ』が破綻し、レイは目の前が真っ暗になってふらふらと揺れ出す。
「やっぱりダメじゃん……」
そして、我慢できなくなったのかドサァ……と膝から崩れ落ちた。
[TOPIC]
SKILL【初級魔法『サンダーボルト』】
消費MP:5
電鳴よ、我が怒りを轟かせ!
効果①:雷属性魔法ダメージ
『Range』⇒ 3
『Power』⇒ 1
『Speed』⇒ 4
『Cost』 ⇒ 0
『Shape』⇒ -
『Type』 ⇒ 雷(2)




