1-16 月の光に激しく昂る①
「お、落ち着こう!まだ慌てるような時間じゃない!」
「ぎゃ、ぎゃう!」
突然現れたウィンドウを前に1人と1匹は狼狽した様子で頷き合う。とりあえず現状を把握するためにレイは今持っている情報を整理することにした。
「まずそもそもの確認なんだけど、これじゃしんがなんかしたわけじゃ無いんだよね?」
「ぎゃう!」
問いかけに対してものすごい勢い首を縦に振るじゃしん。それをみてレイは嘘はついてないだろうと確信する。
「ということは【満月の首飾り】の条件を満たしたってこと?多分だけど『場所』が【スーゼ草原】で、『時』が満月の夜とかそのあたりだったのかな」
レイはそう考察すると、じゃしんから【満月の首飾り】を外してその手に持つ。その光は未だに強く輝いており、ある方向に向かってまっすぐ伸びていた。
「この先に進めってことか」
左右にある程度移動してもその光は一方向のみに向かって放たれているため、何かを目印としてとんでいっていることにレイは気付く。
「行かないわけにはいかないよね……」
その呟きに答えてくれる人は誰もいない。コメントがないことがこんなにも不安になるとは思いもしなかったレイは、改めて普段の状況がいかに恵まれていたかを認識する。
「……行こう」
「ぎゃう!」
自身を奮い立たせるとそれに同調するようにじゃしんも声をあげる。威勢のいいその一鳴きがレイの不安をかき消してくれるようだった。
◇◆◇◆◇◆
しばらく歩くと光は正面ではなく下を指し示すようになっていた。
「えーと、ここかな?なんもなさそうだけど……」
付近をうろつくとその光はほぼ真下を示し始める。だがレイが辺りを見渡してもそこにあるのはなんの変哲もない草原で、特に変わった様子は見受けられない。
「まだ何か必要なのかな?」
「ぎゃう!」
腕を組んで悩むレイに対して、じゃしんはふんふんと犬のように鼻をひくつかせると、急に吠えて地面を掘り始める。
「え、急にどうしたの――ってあぁ、そういうこと」
「ぎゃう!」
急な奇行に引き気味だったレイも現れたモノを見てなるほどと納得をする。満足げに振り返ったじゃしんの下には不自然に正方形の窪みが出来た地面が現れていた。
レイが上に乗っていた土を払い除けると、正方形の中心部にも十字に切り込みが入っており、その中心部には水晶のようなものが設置されている。【満月の首飾り】から放たれる光はどうやらその水晶に向かっているらしい、レイがそのことに気づくとカチッと何かがハマるような音がした。
ゴゴゴゴゴゴ……
「おぉ」
「ぎゃう」
それに続くように地響きのような音を立てると、その窪みに切り込みが入って割れていき、やがて階段が姿を現す。その先は薄暗い一本道となっているようで、かなり奥まで繋がっている。
「こういうギミック嫌いじゃないなぁ」
何が起こるか分からない不安を抱えつつも、少しワクワクしながらレイはその階段を下っていく。
カツ、カツと靴の音を鳴らしながら下った先は洞窟の様な場所だった。
かろうじて松明があるだけで左右上を見ても岩肌が剥き出しになっており、まともに整備されていない様子が窺える。ただ地面にだけは赤いカーペットが敷いてあり、そのアンバランスが凄い違和感を醸し出していた。
「じゃしん、そばにいてよ?」
「ぎゃう?」
弱気な発言を聞いて『まさか怖いのか』と意外な目で見るじゃしんだったが、それに対してレイは何食わぬ顔で答える。
「いや、とっさの攻撃には盾が必要でしょ」
「ぎゃう!ぎゃう!」
『そんなことだろうと思った!』と言わんばかりに地団駄を踏むじゃしんに対して、レイの気持ちが少し和む。いつも通りのやりとりをしたおかげか、精神的な余裕を取り戻したレイはじゃしんに礼を言った。
「でもじゃしんが居てくれてよかったよ。一人だったら流石に心細かったからね」
「ぎゃう!」
へへっと鼻を擦るじゃしんにレイは笑みを浮かべる。そうしてすっかりと元の調子に戻った二人は松明に照らされた一本道をズンズンと進んでいった。
「あ、扉だ」
そうして暫く歩いた先に、レイは鉄の扉を発見する。
「さてと。鬼が出るか蛇が出るか……」
そのままなんの躊躇いもなくドアノブに手をかけ――背後から殺気を感じて振り返った。
瞬間、カチャッと銃を構える音が重複して聞こえる。レイが後ろから迫ってきた曲者の頭に銃を向けたように、相手もまたレイの眉間に銃を向けた音だった。
「兎……?」
レイが曲者を見た第一印象はスーツを着た赤色の兎だった。 一見すると以前に戦ったビッグフットのような雰囲気もあるが、それよりかは幾分かスリムで、より人間に近い見た目をしている。
「良ク気付イタナ」
「いや隠す気なかったでしょ。で、君は何者?」
「フン、此方ノセリフダ」
レイのことを見下ろしながら上から目線で話し出す赤兎。それに対抗してレイも喧嘩腰で返答する。
「答えになってないけど?あぁ、兎だから理解できないのか。もっと簡単な言葉を使った方がいい?」
「……弱イ犬ホド良ク吠エル」
「ははっ、犬に狩られる側のくせに」
「ぎゃうぅ……」
まさに一触即発の雰囲気でバチバチにやり合う二人を見たじゃしんは『こいつらヤバいって!』と言いたげな表情でオロオロしていた。
しばらくの間、お互いに銃を構えながら睨み合っていた2人だったが、突如としてレイの後ろの扉がガチャリと開く。
「おい、やめねぇか。客人だぞ」
背後からドスの利いた渋い声が聞こえてくる。途端にレイとにらみ合っていた赤兎は銃を下ろした。
敵意がなくなったのを感じたレイは少し不完全燃焼な気持ちになりながらも、赤兎と同じように銃を下ろして背後に振り返る。
「客なんていつぶりだ?まぁいい、よく来たな。歓迎しよう」
その視界の中では扉の奥で豪華な椅子に腰をかけた、目元に傷のある白い兎がニヒルな笑顔で笑っていた。
[TOPIC]
AREA【朧月のアジト】
選ばれし時、選ばれし者の前にしか現れない隠し部屋
そこには伝説の狩人達が住むと言われている




