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6-16 歴史の続きを


 誰一人言葉を発しない気まずい沈黙の中、カツカツと革靴の音だけが響く。


「ぎゃう……?」


 その一定のリズムと揺れを感じ取ったのか、レイの頭上にいたじゃしんが目を覚ます。


「じゃしんおはよう、よく寝れた?」


「ぎゃうっ!」


「それは良かった。とっても羨ましいよ」


 元気よく返事をしたじゃしんに嫌味を口にするも、当の本人に気にした様子はない。


「ついたぞい」


「え?行き止まりだけど?」


 リブロが急に立ち止まったことで、レイはつんのめるように動きを止める。そうして改めて前を向けばそこはなんの変哲もない本棚の前であった。


 それをレイが指摘してもリブロが振り返ることはない。黙々といくつかの本を引き抜いたと思うと、それがトリガーとなったのか、本棚に変化が訪れる。


 ズズズ、と音を立てて押し込まれた本棚はそのまま右の本棚に隠れるように重なり合うと、その先に地下へと続く階段が現れた。


「うぉぉ……!」


「ぎゃう〜!」


・カッコいい

・隠し扉!?

・こんなギミックあったのか……


 映画の中で見るようなロマン溢れる光景に、レイとじゃしん、それから視聴者が目を輝かせている中、リブロがくるりとレイの方へと振り返った。


「この先じゃ。その先の本を手に取れい」


「この先の本って?」


「この先じゃ。その先の本を手に取れい」


「……ダメだ。行くしかないってことか」


 突然ボケたのか、同じ言葉しか話さなくなったリブロに対し、レイは諦めるように階段に目を向ける。


 先は暗く、何が待っているか分からないため、少し緊張しつつも、レイは一歩足を前へと踏み出す。


「これは……」


 足元すら見通せないほどの黒に染まった一本道。それをただひたすらに降っていった先には小さな小部屋があった。


 視界の悪さは先程と変わらない。だが、その中でも唯一青い光を放つ本がみえる。


「『Re:Code』……?」


 レイは中央の台座に置かれた、青い背表紙の本に書いてあるタイトルを呟く。


 少しだけニュアンスは違うものの、先程読んだ『RECORD』と似た雰囲気を感じ取っており、またそれとは別にどこか神聖な空気を纏っているようだった。

 

「……じゃあ、いくよじゃしん」


「ぎゃう!」


 少しの間その本が持つ空気に飲まれ、見惚れてしまっていたことに気が付いたレイは、ぶんぶんと首を振って気持ちをリセットすると、意を決して本に手を伸ばす。


 滑らかな肌触りの背表紙を少し撫で、ゆっくりと本を開けば――レイの中に『世界』が広がった。


「うわ……」


 それは『RECORD』に記されていたこの世界の歴史の全て。それが映像となってレイの目の前に現れてはすぐさま通り過ぎていく。


「これは一体……」


『我が名はデコード。ここに君がいるということは再び世界に災いが降り掛かろうとしているのだろう』


 圧倒的情報量にレイが困惑していると、目の前に光が集まり、やがて人の姿を為す。


『君は既に知識を手に入れている。後は力を示さなければならない』


 顔は分からないが、その声音から察するにおそらく男性なのだろう。一方的に話しかけてくる様子に対話は不可能だとレイは悟ると、黙って続きを待つ。


『新時代の勇者よ。この世界で最も天に近い場所を目指せ。そこに私の友人が待っている』


 そこまで口にして、デコードはふっと空気を緩め、優しい声音に切り替わる。


『少し気難しい奴だが、きっと君を導いてくれる。仲良くしてやってくれ――頼んだぞ』


「ちょ、ちょっと待って!」


 一方的に言い切ったデコードの体が次第に遠のいていく。


 それにレイが手を伸ばそうとも、その動きが止まることはなく、周囲の流れも加速していき――。


「――う!ぎゃうぎゃうっ!」


「……え?じゃしん?」


 そしてレイは、気を取り戻す。


 目の前には自身の顔を心配そうに覗き込むじゃしんの姿があり、ぼーっとした脳内でゆっくりと状況を整理する。


「い、今のは……」


・レイちゃん大丈夫!?

・何があった?

・ぼーっとしてたみたいだけど


「ぼーっとしてた……?どれくらい?」


 視聴者曰く、3分ほど固まっていたらしい、全く自覚のないレイはそのことに驚きつつも、先ほど得た情報に一つあたりをつける。


「そうなんだ……。でも分かったよ。次にやるべきこと」


 そう言ったレイは片道をまっすぐ戻る。階段を上りきればそこにはロックスが腕を組んで待っており、レイへと声をかけた。


「どうだった?」


「またそれ?でも、言いたいことは分かったよ【バベル】攻略ね」


「はぁ、やはりその結論になるか」


・バベルってあのバベル?

・なんでそうなったん?

・教えて教えて!


 経験した二人だけが通じ合っているようで、視聴者は説明を要求する。だが、それにレイが答える前に、ロックスが周囲にいるギャラリーへと声を張り上げる。


「聞いたか!バベル攻略者にワールドクエストの道が開かれる!ならばお前達がすることはなんだ!勝利を勝ち取れるのは一人だけだぞ!」


 その声に突き動かされたのか、我先にと図書館から駆け出していくプレイヤー達。それを見たレイとじゃしんはニヤリと笑ってロックスの顔を覗き込む。


「図書館では静かにじゃなかったの?」


「ぎゃう〜?」


「うるさい、これが一番わかりやすいだろう」


 少し照れたように顔を背けるロックスにレイとじゃしんは顔を見合わせてはくすくすと笑う。


「確率を上げるの意味がやっと分かったよ」


「そういうことだ。我々も早速向かうか」


「いやちょっと待って。私の目的済ませてからでいい?」


 そうして動き出したロックスの背中をレイは声をかけて止める。


「問題ないが……。一体何をするんだ?」


「ちょっと魔法を覚えたくて。あ、そうだいい本見繕ってよ」


 この日を境に、多くのプレイヤーが【デテル砂漠】に存在する【バベル】へと集いだす。その原因となった二人は周囲の流れに逆らい、ひとまず図書館の中へと戻っていった。


[TOPIC]

NPC【デコード】

肖像画がなく、本の著書による名前のみ後世に伝わるNPC。

千年前に生きた学者の一人で、一番の知識人だったとされており、その文献はとても貴重であるとされている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何を見たんだろうなあ
[一言] 更新お疲れ様です! じゃしん…(ジト目 そして本棚裏の隠し扉とか、ロマンの塊じゃないですかヤッター! そしてイベント…そして凄い演出だなぁ… 最も天に近い…知識と関連があるもの。 バベルの塔…
[一言] 頭の上で寝ぼけてるじゃしん・・・くそぅ可愛いじゃないか・・・
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