6-15 勉強の後は復習を
【修正のお知らせ】
【じゃしん表裏】→【じゃしん硬貨】
最初に考えていた設定と齟齬が出ることが判明したため、かなり悩みましたが変更させて頂きます。
そのせいで投稿も遅れてしまい、大変ご迷惑をおかけしました。
「くぁ〜!読み終わったぁ……」
辞書のような分厚い本をたたみ、レイは大きく伸びをする。
時計の針はとっくの昔に一周し、2週目もそろそろ終わろうかという時間であった。
・お、終わった?
・お疲れ様〜
・こっちも勉強捗ったわ
・この配信定期的にやらない?
「いやぁ、流石にそれはちょっと……」
今まで集中していた影響か、全く眼に入っていなかったコメント欄を見れば、そこにはなぜか次を望むコメントが多数散見される。
それに対してレイが頬を引きつらせていると、ロックスが目の前にカップを置いた。
「どうだった?」
「どうも。どうって、またざっくりと聞くね」
感想を求めるロックスにレイはジト目で返しつつも、本のタイトルである『RECORD』の文字をそっと撫でる。
「でも確かに、気になる点は多かったかな。老烏の言ってた話も入ってたし、意外と面白かった」
「それは良かった……って待て、老烏とは誰だ?まさか聖獣か?」
「まぁそんなとこ」
ポロリとレイの口から出た言葉に、ロックスは目を見開いて再度尋ね返せば、その答えに少し悲しそうな表情を浮かべた。
「何故そいつと話をさせてくれないんだ……? コイツと話してても意味不明な自慢話しかされなかったぞ……?」
「えぇ!?旦那、そんなつれないこと言わないでくださいよ!」
「はは、また今度ね」
隣でうるさくしていたイブルを掴んでベルトを巻いて口を塞げば、落ち込んでいるロックスへと尋ね返す。
「それで、次は?まさかただ見せただけってことないよね?」
「もちろんだ。場所を変えるぞ」
「了解。ほら、じゃしん起きて」
「……ぎゃうぅ?」
ロックスが部屋の扉に手をかけたのを見て、レイは膝の上で丸くなっている自身の召喚獣を起こす。未だ眠いのか擦りながらきょろきょろと辺りを見回すと、そのまま肩を使ってレイの頭の上に乗り、再び寝息を立て始めた。
「……まぁいいけどね」
その様子に仕方ないと溜息を零したレイは、落とさないように慎重に立ち上がり、ロックスの後へと続く。
「あ、『賢者』だ!」
「ワールドクエストについて教えてくれ!」
そうしてたどり着いた先、図書館のメインホールでは、始めて着いた時では考えられない程の人が押し寄せており、レイ達の姿を見た瞬間、我先にと近寄ってくる。
・流石に話題になってるか
・そりゃ一日経ったらこうなるわな
・にしても節操なさすぎじゃね?
「まぁワールドクエストだし、みんな気になるんでしょ」
「――黙れ。静かにしろ」
それを見たレイと視聴者がひそひそと小声で話していると、ピシャリ、とロックスが一喝する。
「後ほど詳細については彼女のチャンネルで配信する。安心しろ、決して隠したりはしない」
静まり返った場に対し、ロックスは淡々と必要事項だけ告げるとその人混みを掻き分けつつ前へと進みだす。
周囲のプレイヤーもこれだけはっきり言われて文句もつけられないようで、それ以上彼等を引き留めることはなかった。
「へぇ、やるじゃん。ただのボッチじゃないんだね」
「だから一言余計だぞ」
レイが小声でその背中に語り掛ければ、どこか不満そうなロックスの声。
二人は部屋の隅にあった階段を上り、テラスとなっている2階部分へと上がると、カウンターのようになった場所へと一直線に向かう。
「ついたぞ。ここ――いや、彼に用がある」
「彼?」
・誰?
・書庫のじいさんじゃん
・リブロだっけ?
そのカウンターの向こう側には目が開いているのかどうかも分からない、しわくちゃの老人の姿があった。
そんな老人を見てコメント欄へと目を滑らせれば、以前視聴者が話していた書庫のおじいさんのことをレイは思い出す。
「聞いたことあるかも。なんだっけ、本を探してくるんだっけ?」
「そうだ。だがそれによって手に入る本はもう読み終わっている」
「……あぁ、そういう」
ロックスの言葉に一瞬眉を顰めたレイだったが、先程読まされた分厚い本のことを指しているのだと思い至り、なるほどと頷いた。
「だから次のステップだ。『RECORD』に記されていた始まりの一節は覚えているか?」
「うん、覚えてるけど」
「じゃあそれを彼に伝えてみてくれ」
その意味は分からないまでも、騙すような雰囲気は感じられないため、レイは覚えている単語を口にする。
「『デコードが、終末の危機に立ち向かった勇者と十二の獣がいたことをここに証明する』」
レイが口にした瞬間、リブロの身体がピクリと揺れる。そしてそのままもごもごと口を動かし始めた。
「『汚された不浄の大地へと降り立った、一の獣は』」
「え?なにこれ?」
「続きを言えばいい。簡単だろう?」
思わずロックスを振り返れば、腕を組んで佇む姿があった。訳が分からず困惑しつつも、レイは再び覚えている一節を口にする。
「『神聖なる木の実を植えて侵攻を防ぐ』」
「『たった一体で世界を圧倒する力を前に、二の獣は』」
「全部で12個ある。間違えたら最初からだぞ」
・クイズってこと?
・めんどくさっ
・俺に苦手だわ……
再び続いたリブロの言葉に、ロックスが説明をする。そこでようやく視聴者も状況を把握し、レイは自身の記憶を引っ張り出して臨む。
「『正面から立ち向かい、硬化した体を貫いた』」
「『世界を覆い尽くすほどの闇に、三の獣は』」
「『その身を割いて敵の軍勢に対抗する』」
「『人々の平和を脅かす悪に、四の獣は』」
「『その脅威を取り除き、安全な地を作り上げた』」
「『分裂した悪しき力の一部を、五の獣は』」
「『惨禍の種となるその力を己の身と共に封印する』」
「『全てを滅ぼすほどの一撃に、六の獣は』」
「『聖女の力を用いて、決壊から世界を守る』」
「『世界中に張り巡らされた策謀を、七の獣は』」
「『その足で世界を駆け、計謀を未然に防ぐ』」
「『邪悪なる神との戦いの全てをその眼に収めた、八の獣は』」
「『一部始終を記録し後世へと残し、虚栄を排除する』」
「『度重なる失敗に憤怒に染まった神に、九の獣は』」
「『聖なる獣の根源たる世界樹を守護し、反撃を許さない』」
「『そして最終決戦を前に、十の獣は』」
「『勇者と共に邪神を打ち倒し、平和と繁栄の道を切り開く』」
「『勇者を育て神の一部を喰らった、十一の獣は』」
「『傷ついた牙を回復するために、その身を隠す』」
「『残された醜い姿の、十二の獣は』」
「『自らを新たな敵とすることで、人類を操作し平和へと導いた』」
・よく覚えてるな
・凄すぎ
・やっぱレイちゃん頭いいよね
「ありがと。でもここは各章の始まりの部分だからそこまでだよ?」
12個の問答を間違うことなく言い終えたレイへと、視聴者から称賛の声が集まる。
それに対して頭を搔き恥ずかしそうにはにかむレイに向け、リブロは突然カッ!と目を見開いた。
「うわっ、びっくりした!」
「いいじゃろう、ついてまいれ」
驚くレイを他所に、リブロはその隣を抜けてどこかへと歩き出す。
「ついていけば分かる」
「あ、うん」
そんなレイの背をロックスが押す。そうして、レイは小さな老人の背を見失わないようについていった。
[TOPIC]
NPC【リブロ】
【英知の書庫】に住む書庫のおじいさん。
しわくちゃの顔で一歩も動かずカウンターに座っているため、置物だと考えているプレイヤーが多い。
ただ、話しかけることで、クエスト【英知に触れて】を受けることができ、かなり面倒だが、報酬がそこそこう美味しいため、知る人ぞ知るNPCとなっている。




