6-14 賢者からの宿題は
なんと今日で投稿から一周年、皆様、お読みいただいてありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますね。
活動報告にて書籍化情報を載せています。そちらも是非。
「何それ、本気?」
「あぁ、もちろん」
余りにも突拍子のない話に、レイは思わず眉を顰める。それには当然理由があった。
「ロックスって『八傑同盟』じゃないの? 【WorkerS】に頼むべきなんじゃ?」
「『八傑同盟』……?」
少し前に甘言に騙されて痛い目にあったという事もあってか、レイは疑うように気になっていることを問いかける。
ただ、それに対してロックスが見せた反応は眼をぱちくりと動かして、不思議そうに首を傾げる事だった。
・え?何その反応?
・忘れてる?
・嘘だろ
「え?結成の時いなかった?ほら、配信してたじゃん」
「配信……あぁ、あれか。そんな名前だったんだな」
それを視聴者とレイから指摘されれば、唸るように考え込んだ後、どこか人事のように呟く。その姿にレイ達はさらに困惑する。
「あれに参加したのは本意ではない。……と言っても信じてもらえないとは思うが」
「意味わからないんだけど、どういうこと?」
「まぁ事情は色々あるんだが……。簡潔に言えば、最初は名前だけ貸してくれと言われたんだ。興味もないし、話半分で頷いていたら気付いた時には参加することになっていた」
「えぇ……そんなことある?」
「ぎゃう……?」
・とんだポンコツじゃん
・これが賢者ってマ?
・ギャップ萌え狙ってる?
淡々とそう言ってのけるロックスの姿に、レイは少し引いた様子を見せる。その横ではじゃしんが信じられないといった眼をしていた。
「前々から【WorkerS】のギークとは情報を取引する仲だったんだ。断って関係悪化するのも忍びないだろう?」
「気持ちは分からないでもないけどさ。それ完全に陽キャに良いように使われる陰キャじゃない?」
・分かる
・『俺らの代わりに出席取っといてよ~w』とかな
・やめろ、その技は俺に効く
「なっ……!?」
「ぎゃう~」
レイの言葉に目を見開いたロックスは自身の行動を省みながらぶつぶつと呟く。その間にじゃしんの視線が『ダメだこりゃ』とでも言いたげな呆れた視線に変わっていた。
「と、とにかく。その『八傑同盟』とやらは気にしなくていい。今まで大して活動していないし、特別集まりもなかったしな」
・あれ?結構ミーティングやってたぞ?
・確かに、配信したりしてたよな
・言われてみれば『賢者』の姿は毎回なかったような……
「……もしかしてハブられ――」
「やめろ、もうやめてくれ」
「ぎゃう……」
言い訳を口にしたロックスだったが、それに対して視聴者から鋭いカウンターが放たれ、思わず手を前に突き出してストップをかける。
それを見たじゃしんはかける言葉がないのか天を仰いでおり、レイも少し可哀想に思いつつも、本題へと戻る。
「でもさ、それなら余計にギークに言うべきじゃない? 今までもそうしてきたんでしょ?」
「あ、あぁ、もちろんこの情報は後で伝えるつもりだ」
「はぁ?何それ?」
「最後まで聞け。正直な話、俺は誰がワールドクエストをクリアしようと興味がない。大事なのはそれで手に入る情報ただ一つだけだ」
その質問に対し、さも当然のように答えるロックス。ただレイはそれを不可解に思い、続きの言葉を待つように、じっとその目を見つめた。
「確率を増やしたいのさ。もちろん、これを聞いた視聴者も挑戦してくれていい。むしろ推奨したいくらいだな」
・マジ?
・いいの?
・ちょっと準備するわ
「随分と寛容じゃん。でもなんで私?」
「そもそもお前以上に適任がいるなら教えてほしいくらいだ。それにもう一つ、聞きたいこともあるしな」
すらすらと答えるロックスの姿にレイが少し疑うような視線を向けるも、決して目を逸らすことはない。
結局、嘘をついていないだろうと判断したレイは手に入る多大なメリットを考え、首を縦に振った。
「いいよ、その話乗ってあげる。でも私は結構わがままだからね、覚悟してよ?」
「OK。交渉成立だな。まぁお手柔らかに頼む」
お互い軽口を挟んだ二人はニヤリと笑う。そうして目標が定まると、ロックスは達成に向けて動き出した。
「話も纏まった所で、最初にやってもらいたいことがある」
「なに?」
「あるイベントの準備をしてもらいたい。そのためにまず――」
そういってロックスは立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出すとテーブルの上に置く。
ドシンッ!
「ぎゃうっ!?」
「この本を読んでもらう。なに、たかだか1000ページくらいだ、1日あれば読めるだろう」
揺れたテーブルとその音にじゃしんが飛び上がる。その原因とも言える本は辞書のような分厚さをしており、レイが引き攣った笑みを浮かべながらパラパラとめくれば、そこにはびっしりと小さな字がこれまたぎっしりと羅列していた。
「……やっぱやめていい?」
「面白い冗談だな。まぁ頑張れ」
レイが心底嫌そうな顔をしてみせれば、ロックスは満足げな表情を浮かべ、ふと思い出したようにレイへと尋ねる。
「そうだ、『聖獣』を呼び出せるんだろう? 話をしてみたいんだが」
「……いいよ。イブル」
一瞬考える素振りを見せたレイは、その願いを聞き入れることにしたのか、腰にある本を取り出してベルトを外す。
「呼ばれて飛び出て!御用はなんでしょうご主人!」
「【簡易召喚】。触媒はこれで」
「あいあいさァ!」
解放された途端、イブルは勢いよく動き出す。ぷかぷかと宙を舞う姿を目にしたレイはスキルの発動を宣言しつつ、【辰の紋章】を渡した。
それを飲み込んだイブルの真下に黒い召喚陣が現れると、そこに紫電が迸る。そうして巻き起こった煙が晴れると、そこには水色のタツノオトシゴが宙に浮いていた。
『……ん?ここは?』
「やっほー、リヴァイ。元気だった?」
目をパチクリさせながら不思議そうな表情を浮かべるリヴァイの名を呼びつつ、レイは簡潔にお願いを口にする。
「説明してあげたいけど、時間がないからさ。あの人とお話ししてあげて」
『ん~、まぁいいよ、分かった』
それに少し悩みつつも、二つ返事で承諾したリヴァイはレイの指さした先――ロックスの元へと向かう。
『やぁ、初めまして!』
「……ん?おいレイ?」
「ごめん、本に集中するから話しかけないで」
挨拶を受けたロックスは、それに返すことなく困惑した眼差しをレイへと向ける。だがレイはそれを無視して本へと向き合う。
「いや、そうじゃなくて。『くるる』としか聞こえないんだが……?」
助けを求める声を徹底的に無視して、レイは本に集中していく。僅かに聞こえる、なんとかコミュニュケーションを取ろうとするロックスの声に、内心で『ザマァみろ』と吐き捨てながら。
[TOPIC]
WORD【RECORD】
【英知の書庫】に所蔵されている辞書の如く分厚い本。
赤い背表紙が特徴的で、全1124ページ、全てが文字でびっしりと埋め尽くされており、【英知の書庫】で最も『重たい』本とされている。
その内容は『ToY』の歴史に関するものであるが、その内容をすべて記憶している者は皆無といって相違ない。




