6-8 試練の終わりと配信復帰
「……ん、まぁいいでしょう。合格」
「よっし!」
手渡された数枚の用紙に目を通した瞳が渋々と言った様子でそう言うと、レイは全力でガッツポーズして喜びを表現する。
「しっかり出来てるのが凄いというかムカつくというか……。今度からちゃんと自分からやりなさいよ?」
「うん!じゃあもう!」
「はぁ。はいはい、どうぞ」
「やったー!」
居ても立っても居られないと言った様子でそわそわとするレイの姿に、瞳は呆れたように嘆息したものの、仕方なくといった様子で許可を出す。
それを聞いた瞬間、玲はリビングから飛び出し、瞳の制止の声を振り切って階段を駆け上がる。
そして勢いよく自室の扉を開けると、その勢いのまま『ToYチェア』へと腰を下ろし、急いで頭上にあるヘッドギアを被る。
力を抜くと感じる眠気に任せて目を閉じると、次に目を開く頃には海の見えるホテルの一室で目を覚ました。
「ぎゃう!」
「じゃしん!久しぶりだね!」
『久しぶりだな!』とでも言いたげに駆け寄ってきたじゃしんへと満面の笑みを浮かべたレイ。およそ二週間ぶりの再会にテンションが高ぶっているようで、すぐにベッドから立ち上がると窓を開けて外の景色を眺める。
「そうかそうか、【グランブルーム】が最後だったね」
「ぎゃう」
肌に感じる潮風と鼻をくすぐる潮の香りで現在地を把握したレイは、ゲームが出来ていなかった間にやろうと考えていたことを思い出しつつ、配信を開始する。
【れいちゃんねる】
【第15回 ご無沙汰してます】
・わこつ~
・久しぶり!
・テストどうだった?
「あはは、久しぶり。テストは何とか乗り切ったよ」
SNSであらかじめ報告していたからか、聞かれる内容はテストについてのことが多く、レイは曖昧な笑みを浮かべつつも話を切り替える。
「今日からはまた配信できそうだからね!もう少しで冬休みだし、ゲーム三昧だ~!」
「ぎゃう~!」
・反動が凄いんよ
・気持ちは分かる
・まぁ楽しそうで何よりだな
自由を得たことで、輝かしい未来を夢想して満面の笑みを浮かべるレイと、その空気を感じ取ったのか同じように両手を上へと突き出して喜ぶじゃしん。
そんな二人の様子を温かい目で見つめつつ、視聴者はこの二週間で彼女がいなかった間に話題となった出来事について話し出す。
・そういえばレイちゃんレイドボス戦見た?
・なんだっけ、たしか【天照大君 魃】だよね
・あー、【WorkerS】の奴だっけ
「うん、それは見た。いと――知り合いが教えてくれたからね」
その話題はテスト前に見たとある配信の話題だった。敢えて誰から聞いたかをぼかすレイに疑問の声が飛ぶものの、それを全て無視して話を進める。
「あれって結局どうなったの?」
・いや、【WorkerS】がクリアしたらしいよ
・トーカがクリアしたって声明出してた
・結局美味しい所は全部主催が持ってたって訳
「ふーん、やっぱりそうだったんだ」
ある程度予想していたからか特に驚いた様子もなく、ことの顛末を聞いて頷くレイ。とはいえその後の話には少し興味深いものもあった。
・ってかトーカ帰ってきたの以外だわ
・トーカってあのセブンとやり合ったって奴でしょ?
・セブンとまた戦うのかな?
・だと思うよ。なんかクランメンバー集めてたし
「えっセブンさんが?クラン?」
そのコメントは予想外で、信じられないものであった。
レイにとってのセブンはまさに孤高の一匹狼と呼ぶにふさわしく、今まで何があろうと誰かと手を組んだりはしなかった。
それが急にクランなどと言われてもどこか信じられず、絶対に何か企んでいるとしか思えなかった。
・もしかしたら【WorkerS】狙ってたりするのか
・ありそう
・戦争ってこと?
「なくはない、かな。むしろそっちの方がしっくりくるかも。……にしても、セブンさんのクランか」
どうやらその思いは視聴者にとっても同じようで、セブンの企みを考察する一同。そんな中、レイはぽつりと呟くと真剣な表情で考えに耽る。
・レイちゃん?
・まさか入るとか言わないよね?
・【じゃしん教】があるでしょ!
「えっ!?い、いやだな~、そんな訳ないじゃんか。あ、あはは……」
「ぎゃう~?」
視聴者の指摘にギクっと肩を震わせると、あからさまに怪しい様子で頭をかく。そんなレイの姿に隣にいたじゃしんが視聴者の気持ちを代弁するかのように、懐疑の目を向けている。
・我々【じゃしん教】も戦争に参加しますか~
・まさかの三つ巴
・それはそれで面白そう
「それって、私がセブンさんと戦うってこと?う~ん……」
視聴者からの言葉にイメージしてみたものの、いまいちピンとこない。勝てる勝てないという算段をつける以前に、レイはセブンと戦う理由が思いつかないようだった。
「ちょっとイメージできないなぁ。ま、本当にやるかも分かんないんだし、その時になったら考えようかな」
・それもそう
・間違いない
・それで、これから何するの?
結局結論が出ないまま、話題は次へと移る。そして、視聴者から尋ねられた内容に、レイは待っていましたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「ふっふっふ、やりたいことはもう決まっててね。ひとまずレベル上げからしようと思ってるよ」
・それだけ?
・まぁ大事だけど
・何だいつものことじゃん
「ちっちっち、レベルを上げた後が違うんだなぁ」
今までも何回か口にしてきた予定に、視聴者は肩透かしを食らったような声を上げる。
だが今回はその後の目標も考えているようで、レイは人差し指を立てて何回か左右に振ると、視聴者に向けて高らかに宣言する。
「私、魔法使いになります!」
・え?
・は?
・魔法使い?
視聴者にとって全く予想していなかった一言にコメント欄は疑問の声で埋まる。
「ぎゃう?」
その隣にいたじゃしんも、不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げていた。
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