6-1 禁止令という名の死刑宣告
レイのキャラデザ公開中です。詳しくは活動報告にてご覧ください。
「お、お母さん、今なんて……?」
11月下旬のある土曜日。
肌に触れる風もすっかり冷たくなり、冬の訪れを感じさせるこの頃。いつも通り昼前に起きたレイは母に作ってもらったチャーハンを食べる手を止め、もう一度聞き返す。
「だから、今日からゲーム禁止ねって言ったのよ」
「どうしてっ!?」
突然の宣告に玲は思わず立ち上がりものすごい剣幕で問い返す。だが、帰ってきたのは無情な言葉であった。
「何でって心当たりあるでしょうが」
「心当たり?」
「そうよ、二週間後テスト。合ってるわよね?」
一度首を傾げた玲だったが、続けられた言葉にギクリと肩を揺らす。
「な、何でそれを……」
「昨日山田さんと会ってね、教えてくれたのよ。あんたまた隠してたわね?」
「うっ」
隠そうと思っていた訳ではなく、聞かれていない以上言う必要もないという判断だったのだが、思わぬ形でそれが露呈してしまい、状況を悪くしてしまっていることに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「残念でした、あんたの悪巧みなんてお見通しなのよ」
「でもまだ二週間もある――」
「何言ってるの?」
それでもなお追い縋ろうとした玲だったが、笑顔の奥の凍てついた瞳が見え隠れしていることに気が付いて口を噤む。
「二週間で許してあげるって言ってるのよ。私の言ってる意味、分かってるわよね?」
「う、うぐぐ……」
どうやら目の前に立ち塞がる母はお冠のようで、それ以上取り合うつもりもないのかレンゲを取って自身のチャーハンを口に運ぶ。
もはや説得は不可能と判断した玲は隣に座っている父――慎一へと縋るような視線を向け……。
「ごめんね、こればっかりは助けてあげられないよ」
「そんなぁ……」
だがそれに対して困ったように笑いながらふるふると首を振る姿を見て、玲はがっくりと肩を落とす。
「という訳で決まりね。もし約束破ったら、分かってるわよね?」
そのやりとりに瞳は勝ち誇った笑みを浮かべ、空になった皿を持って立ち上がると、改めて視線を玲に向けて釘を刺す。
「……はい」
最早ほんの僅かな綻びがないほどに言いくるめられたことを悟った玲はがっくりと項垂れて返事をし、心底悲しそうな顔をしてゆっくりとチャーハンを口に運ぶ。
一見可哀想な様子ではあるが、瞳にとってはいつものことなのか特に気にする様子もない。むしろふと思い付いたように条件を追加した。
「そうだ。今日私達は出かけるから図書館でも行ってなさい。5時くらいには帰ってくるからそれまでは頑張るように」
「えっ、面倒くさ――」
「い い わ ね?」
不満そうな顔をした玲に一音ずつ区切りながら念を押すと、もはや無駄だと悟ったのか渋々と言った表情で玲は頷く。
「よし。じゃあさっさとご飯食べて用意してきなさい」
「はぁ……」
理不尽にもこれからの行動を縛られてしまった玲は悲しみに暮れるようにどっと老けた顔になる。
願わくば夢であってくれと願いながらも、今を惜しむようにちびちびと昼食を口に運んだ。
◇◆◇◆◇◆
「はい、これお金。好きに使ってもいいけど『夕食が食べれない』なんて言い出したら許さないから、そのつもりで考えて使いなさい」
「頑張って。ケーキでも買ってくるからね」
可能な限り行動を遅くして抗ってみたものの、すぐさま出発の時間は訪れる。
勉強道具をカバンに詰め、受け取ったお金を財布へとしまいながらも、玲は瞳へと恨みがましい目を向けた。
「なに?なんか文句でもあんの?」
「イエナンデモ……イッテキマス……」
「よし、いってらっしゃい」
ただそれすらも鋭い視線で咎められ、やがて玲は逃げるようにその場から動き出す。
「はぁ、ゲーム禁止かぁ……」
そうして玲は目的地である市営の図書館を目指して道を歩く。その脳裏にあるのはやはり『ToY』についてのこと。
「二週間は長いって絶対……死んじゃうよ……」
とぼとぼと歩きながらも、誰も聞いていないことをいいことにぐちぐちと不満を口にする。
とはいえ正論なのはどう考えても瞳の方であり、もしやらなかった場合に起こりうる未来を考えれば、拒否するという選択肢を取る訳にもいかなかった。
「しょうがない、頑張るか――ん?」
仕方なく、本当に心の底からそう思いながら気持ちを切り替えた玲。そこへピコンと携帯端末が鳴る音が耳に入る。
「士にぃ?珍しいな、何だろう?」
そこに表示された名前は彼女の従兄弟である深見士のものであった。普段であれば中々見ない(そもそも連絡が来ること自体珍しいのだが)名前を見て、玲は首を捻りながらもその内容を確認する。
[To:深見玲
From:深見士
よう、『ToY』ライフ満喫してる?]
「あ?」
普段であれば特に気にならない言葉も現在の玲には到底許容できるものではなく、こめかみに血管を浮かばせつつ、凄い勢いで画面をフリックしていく。
[To:深見士
From:深見玲
一族郎党、その末代まで呪います。絶対に許しません。]
[To:深見玲
From:深見士
何で!?俺なんかしたか!?
ってか一族郎党ってお前の子孫も含まれちゃってるぞ]
玲の怨嗟の言葉に丁寧にツッコミのメールが返ってくる。それでもなお怒りの収まらない玲は刺々しい言葉を送りつけた。
[To:深見士
From:深見玲
それで何の用?
士にぃみたいな年中暇な大学生と違って花の女子高生は忙しいんだけど?]
[To:深見玲
From:深見士
花の女子高生って柄じゃねぇだろお前
あぁ、お前さてはテスト期間でゲーム禁止くらってるな?]
[To:深見士
From:深見玲
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ]
図星をつかれてしまった玲は狂ったように一つの単語を打ち込み送信する。
ふーふーと肩で息をしつつ画面を凝視する様子にすれ違う人がギョッとした顔を浮かべているが、今の彼女にそんなこと気にしている余裕はなかった。
「絶対許さん……!こうなれば全ての時間を使って嫌がらせを――」
そうして再び画面を操作し始める、そのタイミングでもう一度手元が震える。
その返信は目下の粛清対象から。その文面を見た玲は怒りを忘れてしまうほどの興味を抱くこととなった。
[To:深見玲
From:深見士
草
じゃあ丁度いいし、これから俺がする配信見てくれ
中々見れない面白いことするから]
[TOPIC]
OTHER【深見家ルール】
その一.隠し事は良いが嘘はつかない事
その二.やりたいことをやる前にやるべきことをやる事
その三.ルールを破った場合、それ相応のペナルティを覚悟する事




