5-50 長い夜が明ければ
[〈ワールドアナウンス〉プレイヤーネーム:「レイ」「リボッタ」がワールドクエスト【怖震う連鎖を断ち切って】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]
[称号【海を統べる自由な一味】を獲得しました]
[ITEM【ブラック・パール】を入手しました]
[ITEM【道なき道のコンパス】を入手しました]
[ITEM【辰の紋章】を入手しました]
[ARMOR【海賊王のコート】を入手しました]
[デスペナルティ中のため、経験値は取得されません]
『終わった、みたいだね』
「うん、お疲れ様」
先ほどの喧騒がまるで嘘みたいに凪いだ海を見て、リヴァイが感慨深げに呟くと、それに対してレイが労うように声を掛ける。
『レイもお疲れ様っと言いたいところなんだけど……』
「ん?どうしたの?」
『そろそろ限界みたいだし、先に戻ろうよ』
「ぎゃう……」
リヴァイの視線の先を追えば、反対側の肩で顔面を蒼白にさせたじゃしんの姿。今にも吐瀉物を放出してもおかしくないような表情に言葉の意味を理解したレイは慌てて船へと戻る。
「ちょ、ちょっと待って!この状況では吐かないでね!?」
「ぎゃ……ぎゃ……」
なるべく揺らさないように慎重に、それでいて最大速度で【サンズ・マリア号】を目指したレイは口を大きく膨らませるじゃしんを励ましながらも甲板に降り立つ。
「船の上――だと収まんないか。イブル任せた!」
そうして【黄泉の黒翼】を解除させると、宙に浮いたイブルに対して干すような形でじゃしんを乗っけた。
「じゃ、じゃしん様!一体誰がこんなことを……!?」
「どう考えてもお前のせいだろ」
満身創痍のじゃしんに驚愕して見せたイブルへと刺さる、正論という名の鋭いツッコミ。
発した主はゆっくりとレイ達の方へと向かってきており、その顔を見てレイから声を掛けた。
「ただいまリボッタ」
「おう、流石『きょうじん』様だな。本当にやってのけるとは思わなかったぜ」
「何それ、信じてなかったてこと?」
「いや?お前と組んでよかったって意味だよ」
軽口を叩きながらにやりと笑った二人はお互いの健闘を讃え合う。
「お陰でワールドクエストもクリアできたし、レアそうなアイテムもいくつか手に入ったしな。これ以上言う事ねぇよ」
「ふーん。ま、それなら良かった」
肩を竦めて見せたリボッタにレイは満面の笑みを浮かべると、疲れをほぐすように体を伸ばす。
「ん~!じゃ、帰るとしますかっとぉ!?」
「リボッタぁぁぁ!!!」
「うげ」
突如撃ち込まれた砲弾によって船体が大きく揺れる。
それにレイが驚いた声を上げれば、それを掻き消すかのように女性の金切り声が海へと響き渡った。
「あんただけは絶対許さないわ!今手に入れたものも含めて身ぐるみ全部剥いでやるんだから!」
「うわぁ、モテモテだねリボッタ」
「勘弁してくれ……」
絶叫の正体――ポニーは般若の表情を浮かべながらも、【サンズ・マリア号】にも向かって突進してきており、それを見たレイは若干引きつつも肘で隣をつつき、リボッタは本当に嫌そうな顔で頭を抱える。
「でもこれからやるのはちょっと面倒くさいな……」
「……まさか俺を差し出すとか言わねぇよな?」
「それが一番楽なんだろうけど、流石にね」
こうなった原因も正直半分はレイにあり、その責任を全て押し付けられるほどレイは外道ではなかった。
とはいえ真正面切って戦うのは流石に骨が折れるためどうしたものかとレイが考えていると、そこへ割り込むように一隻の船が立ち塞がる。
「そこまでだ。武器を下ろしなポニー」
「なっ、なんでアンタが邪魔するのよキッド!」
それはどちらかと言えば彼女の味方である筈の海賊船。ポニーの乗る船に向かい合う形で佇む船首には胡坐をかいたキッドの姿があった。
「今回は俺達の負けだからだよ。ここでコイツ等を襲うのは俺の海賊の流儀ってやつに反するんだ」
「そんなの知ったことじゃ――」
「なるほど、じゃあ俺が代わりに相手になるわ。ここでドンパチ始めるか」
「はぁ!?」
口調はしょうがいないとでも言いたげだったが表情は笑みを隠しきれておらず、ポニーは冷や汗をかく。
ある程度削られたとは言っても【海鬼団】の海賊船の数はまだまだ多い上に、先の戦いでこちらも少なくない被害がでている。そのためまともにぶつかれば共倒れになる可能性が高かった。
だが相手がそんなことを気にするような人種でない事も重々承知のため、こちらの意見を押し通すには分が悪いと察してしまい、つい二の足を踏んでしまう。
「イソーロのおっさんも混ぜてやってもいいぜ?」
「ふん、下らん」
加えてもう一人の海賊であるイソーロは心底興味がないようで、キッドの言葉に大きく鼻を鳴らすと逆方向へと舵を切りその場から離れていく。
「~~~~~ッ!!!覚えておきなさいよ!次会ったら本当に容赦しないからねっ!」
これ以上意地を張っても腹の虫が治まるどころか更なる被害が出る、そう考えたポニーは自身の感情と天秤にかけ、やがて苦虫を噛み潰したような渋い顔を浮かべる。
ギリギリと歯を食い縛り、真っ赤になるほど手を握りしめながらも、捨て台詞を吐きながらまた別方向へと散っていた。
「キッド、ありがとね」
「気にすんな、勝手にやったことだ」
その姿を見たリボッタはほっと胸を撫で下ろし、レイはキッドに感謝の言葉を口にする。
「じゃ、俺らも島に戻るわ。次会った時は逃げたりせずに正面から遊んでくれよ?」
「ははっ、いいよ。手加減はしないけどね」
「そりゃ楽しみだ」
それに対して手をひらひらと振り、ニヒルに笑って見せたキッドも自身の仲間達を引き連れてその場から消えていく。
そうして辺りは再び静寂に包まれる。
それによって本当に終わりを悟ったレイが達成感とともに少しもの悲しい気持ちに耽っていると、それを邪魔するかのように頭に重みが走った。
「おっと」
「ぎゃう~……」
頭に乗ったじゃしんは少し回復した様子を見せながらも、それでもまだ万全とはいかないようで、苦しそうに目を八の字にしながらレイの頭をぺしぺしと叩く。
「あ~、じゃあ私達も戻ろうか」
『そうだね、取り敢えず【グランブルーム】まで送るよ。……改めて、本当にありがとう』
「ん、どういたしまして」
その姿に苦笑を浮かべたリヴァイとレイ。そうして彼女たちを乗せた船もゆっくりと舵をきって動き出す。
視線の先には新しい時代を告げるかのように、水平線に浮かぶ朝日が眩しく映っていた。
[TOPIC]
MONSTER【リヴァイ】
激しい戦いを終えたとしても、脅威は完全に取り除かれることはなかった。
負の遺産とも呼べる力は海の底に沈め、悪しき者共に気取られぬよう龍が監視する。
世界が変わる、その時まで。




