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5-49 怖震う連鎖を断ち切って⑫


 〈フレンド〉の欄にて、ハッチの名前をブロックしたレイは溜まりに溜まったうっ憤が晴れたことに笑みを零す。


「あースッキリした!」


「相変わらず恐ろしい奴だなお前は。ほれ」


 その清々しくすっきりとした顔を目にしたリボッタは同意と憐みの混ざったような何とも言えない表情を浮かべ、手元にあったものをレイへと投げ渡した。

 

「おっと」


「ほら、さっさと終わらせてこい」


 片手でそれを受け取ると、そこには30センチほどの小さな三叉槍である【海神の槍】が握られており、レイはからかうようなニヤニヤとした目つきをリボッタへと向ける。


「いいの?リボッタなら代わってあげてもいいよ?」


「馬鹿言ってんじゃねぇ」


 それにうんざりした様子で目を細め、しっしっと追い払うように手を払うリボッタにレイはクスリと笑う。そして今度はリヴァイの方に顔を動かす。


「じゃ、後顧の憂いも断ったし終わらせに行こうか」


『――あぁ、よろしくね』


 リヴァイは覚悟の籠った瞳でレイを見ると、彼女の右肩へと張り付く。


 触れていないのか全く重さを感じないためどこか不思議な感触を覚えていると、突然その反対側へと乗りかかる者がいた。


「ぎゃう!」


「こっちはちゃんと重いんだもんね……。まぁいいや、しっかり掴まっててよ?」


 元気良く鳴いたじゃしんにレイは一瞥をくれた後、バランスを整えつつ腰にある本を開放する。


「イブル!【黄泉の黒翼】!」


『アイアイさァ!』


 威勢よく返事をしたイブルはスキル発動のためにレイの背中側へと回り込む。


 そしてガパリと口の部分を開いてレイの背中に噛みつくと、表紙から黒い翼を放出してレイの体を浮上させた。


「とりあえず好きに動いていいよ。目標はアイツのだだっ広いおでこで!」


『了解でさァ!』


 全体を俯瞰する位置に辿り着いたレイは、眼下に散り散りとなって逃げる『海賊連合』の姿を視界に納めつつ、イブルへと大まかな指示を飛ばす。


 それを聞いたイブルは一瞬身を引くように溜めを作った後、八本の足で海賊船を喰らう【デモニオクト】の元へと急降下する。


「ぎゃう~~~!」


『これは中々スリリングだね!』


 一瞬にしてとんでもない速度に達したことにじゃしんとリヴァイは驚きながらも楽しげな声を漏らしており、レイは降りかかるGに耐えるようにぐっと歯を食いしばる。


 そうして数秒も満たない内にレイ達は【デモニオクト】のテリトリーへと侵入する。


 突如現れた反応を敵とみなしたのか、それとも新しい獲物と捉えたのか。どちらにせよ、海賊船を襲うのをピタリと止めた【デモニオクト】は体を彼女達に向き合うようゆっくりと動かし、八本の足をゆったりと持ち上げる。


「イブル!来るよ!」


『余裕でさァ!』


 そして鞭のようにしならせた足で撃墜せんと言わんばかりに容赦なく振るう。


 八本の足による圧倒的な密度の攻撃。だがイブルはそれに対して圧倒的な速さで真っ向から立ち向かうと、まさしく縦横無尽に駆けまわる。


「ぎゃ、ぎゃう……」


『おらおら!そんなんじゃ当たんねェよ!』


 信仰の対象の筈の神が余りの視界の揺れに吐きそうになっていたが、ハイになっているイブルにそれを気にする余裕はない。


 そうして迫りくる八本の足をあざ笑うかのように躱し、順調に接近していた一同だったが、このままではまずいと思ったのか【デモニオクト】の行動が変わる。


 ドパンッ!


「ぎゃ、ぎゃう!?」


 少しでもダメージを軽減しようと目を瞑っていたじゃしんの耳に、突如鳴り響く破裂音。


 どうやら【デモニオクト】が全力で海面を叩きつけた音らしく、八本の巨大な水飛沫が立ち昇り、レイはその意図を探る。


「一体何を……」


『ッ!不味い!』


 そんな中、先に答えに辿り着いたリヴァイが焦った声を上げる。


 水飛沫はどれだけ時間が経過しても海面に落ちることなく空中に制止しており、内側からじんわりと黒く濁っていく。やがて完全に黒く染まったそれらを【デモニオクト】はレイ達めがけて飛ばすように足で吹き飛ばした。


『あ、これヤバ――』


 一部の隙も無い黒い水滴による弾丸の嵐。迫りくるそれに避けることは不可能と判断したイブルが思わず立ち竦む。


『【海神龍籠】!』


 絶対絶命の状況で、リヴァイは大声でスキルを宣言する。それと同時に彼女達を薄い水の膜のようなモノが覆うと、そこに黒い水飛沫は殺到した。


 瞬間、突如振り出したスコールのような轟音が響き渡る。その余波によって、レイの背後にいた海賊船が蜂の巣のように風穴を開けて沈没していくも、やがて嵐が通りすぎた後には、水のカーテンを纏うレイの姿があった。


「ナイスリヴァイ!」

  

『レイ、そんなに持たないよ!だから恐れずに前へ!』


「分かった!イブル聞いてた?」


『うっす!んじゃこのまま、最短距離でいきやすぜ!』


「ぎゃ、ぎゃう――」


 一部制止の声が上がったものの、次を出させないことで三人の意見は一致しており、イブルは最大出力で真っすぐに【デモニオクト】の懐を目指す。


「リヴァイ、そろそろ射程圏内だよ!」


『あぁ、ありったけを込めるよ』


 リヴァイがぶつぶつと詠唱に入ったのを見て、【デモニオクト】は嫌な予感を覚えたのか、これ以上近づけさせないために、ぐるぐると回転を始める。


 それは先ほど見せた全てを破壊する乱舞であり、八本の足による遠心力を利用してどんどんと加速していく。


 だがレイはそれを許さない。もはやグロッキーを通り越して青白い肌をしたじゃしんに声を掛けスキルの発動を命じる。


「させないってば!じゃしん!」


「ぎゃ、ぎゃう……!La~~~♪」


 そして響き渡る歌声と共に世界は制止する。


 行動をリセットされ驚いているように見える【デモニオクト】に対し、レイは努めて冷静にイブルへと声を掛ける。


「イブル、レディ……」


 それはスタートの合図。時間にして五秒の時間を今か今かと待ち、そして【じゃしん賛歌】の効果がきれる最高のタイミングでレイは叫ぶ。


「――ゴー!」


『ヒャッハー!!!』


 その合図にドンピシャで合わせたイブルは一瞬で最高速に到達すると、未だ行動を開始できていない【デモニオクト】めがけて突き進む。


『……なんだかんだ言って君とも長い付き合いだしね。だから、最後は一撃で眠らせてあげる』


 ぽつりとつぶやいた独白は何に向けた言葉なのか、それを推し量る前にレイの体へと海面から水が押し寄せ包み込み、やがて龍の形を成す。


 うねりを上げて前進する龍の中でレイは手に持った【海神の槍】を改めて握り直し、そして大きく振りかぶり――。


『レイ、やっちゃえ!』


「――【海神龍牙】!!!」


 リヴァイの声に合わせ、レイは【海神の槍】を突き立てる。


 水龍は牙を突き立てるように【デモニオクト】の頭部に突き刺さり、それでも勢いを落とすことなく前へ前へと突き進む。

 

「対戦、ありがとうございましたっと」


 やがて振り返ったレイの視界には大きな風穴を開けた【デモニオクト】が、淡い光を放ちながらポリゴンとなって消えていく姿が映った。


[TOPIC]

SKILL【海神龍牙】

海神は龍となり、大いなる災いに立ち向かうために牙を剥く。

CT:-

効果①:水属性の固定ダメージ(1000000dmg)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! いやぁスッキリしましたね!(満面の笑み レイちゃんの(切りたくない)切り札も切っての最後の戦い! デモニオクトの黒弾もリヴァイの機転で回避! じゃしん賛歌を決めてイベント…
[一言] リヴァイの詠唱中にじゃしんが時を止めたら詠唱止まってやり直しになるのでは?
[一言] とんでもないダメージ
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