1-14 友人のお願い
「はっ!ここは!?」
・お、ようやく目が覚めた
・マジでずっとぼーっとしてたん?w
・ゴスウサさんのホームだよ
・ポータルストーンで勝手に運んでた
「なるほど……でも何でここに?」
コメント欄を見て何となく状況を察したレイ。だがその理由まではわからずに首を捻る。
「ぎゃう~」
「なに?なんか言いたいことでもあるのかな?」
「ぎゃう~?」
じゃしんはじゃしんでポンコツになっていたレイを思い出してクスクスと笑っていた。そのことをレイに指摘されると『別にー』と言いたげな顔をして口笛を吹く真似をし始める。ちなみに音は出ていない。
「というかじゃしんってさっき何してたの?」
「ぎゃう!?」
レイの問いにギクリと肩を大きく振るわせると目に見えて動揺し始めたじゃしん。それに対してレイは訝しげな目を浮かべた。
・隅で寝てたよ
・いや、あれ寝てたってよりかは死んだフリじゃね?
・あー、言われてみれば
「ふーん?」
「ぎゃ、ぎゃう?」
レイの責めるように細められた目を見て、じゃしんは両手を口の前に持ってきてぶりっ子ポーズをする。
「そんなんで誤魔化せるかー!」
「ぎゃうー!」
だが当然そんなことで許されるはずもなく、じゃしんはレイの手刀をその頭で受けることになった。
「おまたせ。……何をしているの?」
レイがじゃしんと戯れていると扉を開けてウサが部屋に入ってくる。
「主人を見捨てたペットにお仕置き中。そんなことより、私は何でここにいるの?」
「そう。レイにお願いがある。こっちに来て欲しい」
相変わらず何を考えているか分からない無表情で返答すると、レイに対して手招きをする。お願いと聞いてレイはあまり良い予感がしなかったが、まぁ友達の頼みだしと思い直してソファから立ち上がった。
「みんな、今日のゲスト」
「みんな……?」
一足先に部屋の中に入ったウサはレイ以外――それも複数人に向けて言葉を発する。訝しげな表情のレイが部屋に入って見えたのは、ウサと同じようなゴシックファッションに身を包んだ女性達だった。
「貴女がレイさんですか!?」
「ウサさんの友人なだけあって美しいですね!」
「そちらの召喚獣ちゃんもすごく可愛いですわ!」
「えっと……」
きゃーきゃーと一瞬で姦しい空間が出来上がった事にレイは思わずたじろぐ。学校生活ではそんなに同年代の女子と関わってこなかったため、あまりにも女の子濃度の高いこの空間にどうしていいか分からず戸惑ってしまっていた。
「みんな私の仲間。クラン【Gothic Rabbit】の一員。だから安心して」
「うん?」
戸惑っているレイにぽつぽつとウサが説明を始めた。
「……つまり、今日はクラン【Gothic Rabbit】の活動日で、その活動に協力して欲しいからここに連れてきたってこと?」
「そう」
こくりと頷くウサに随分と勝手な話だなと思わないこともないレイだったが、そんなことは今更かと諦めた調子で答える。
「まぁ別に良いけどさ。それで何を手伝えばいいの?」
「じゃしんに【じゃしん結界】をしてもらいたい」
「ぎゃう?」
いきなり名前を呼ばれたじゃしんは不思議そうにキョトンとしていた。
「撮影会をする」
「撮影会?」
「そう、あたし達の撮影会」
・?
・?
・どういうこと?
「あ、私から説明しますね」
コメント欄もレイも何が何だか分からずクエスチョンマークを浮かべていたが、それをみかねた別のクランメンバーから助け舟が出る。
「私達【Gothic Rabbit】はゴシックファッションを愛する者達で結成されたクランでして。週に一度集会として撮影会を開いているんです」
「なるほど、で撮影会って?」
「はい、このゲームは服や小道具も自作できるので、それを各自持ちよって最高の一枚を撮ろうと言うのがこのクランの目標なんです。ほらこんな風に」
そう言って彼女が渡してきたのは複数の写真だった。そこにはゴシックファッションで色々なポーズをしたクラン【Gothic Rabbit】のメンバーの姿が映っている。
「へぇ~、こんなのできるんだね」
「凄いですよね!ただ、なかなかロケーションが難しくて……」
彼女の言う通りレイが背景に注目すると、若干構図が違うが同じ場所のようだった。
「なるほど、それで【じゃしん結界】か」
「その通りです!ウサさんに聞いたんですけど、どんな背景でもできるかもって!お願いできませんか?」
彼女達の意図を理解したレイはじゃしんの方を向いて尋ねる。
「そう言うことなら。じゃしん、いける?」
「ぎゃう!」
任せろと言わんばかりに胸を張るじゃしんにクラン【Gothic Rabbit】のメンバーは笑顔になり集まっていく。わいわいと騒ぎ出すとお城だったり花園だったり朝だったり夜だったり……コロコロと景色が移り変わっていった。
「クランってのも楽しそうだね」
・そうね
・分かるわ
・レイちゃんもクラン作る?
「う~ん、それはどうかな?」
「レイもうちに入れば良い」
楽しそうに撮影会する彼女達を微笑ましく思いながら視聴者と会話していると、ウサがそばに寄ってきて勧誘をしてくる。
「いや、あそこまで熱意はないから。遠慮しとくよ」
「そう、無理にとは言わない」
あまり本気ではなかったのかウサはレイの言葉を聞くとすぐに引く。
「うん、ごめんね」
「別に。でも一回は着てみるべき」
「は?え、ちょっと!」
・お?
・これは?
・ワンチャン?
そう言ってウサはレイの腕を引っ張りながら別の部屋へと消えていく。
「ちょ、本当に出るの!?」
「うん。安心して最高に似合っている」
しばらくすると黒色のゴシックドレスに身を包んだレイが顔を赤くして俯きながら姿を現した。
・キターーー!!!
・生きててよかった…
・神回確定
「レイさん可愛いです!」
「めちゃくちゃ似合ってますわ!」
「あぅ…」
コメント欄と【Gothic Rabbit】のメンバーに絶賛されて羞恥心のあまり一刻も早くこの場から消え去りたいと思うレイ。そんなレイを見て満足げに頷くとウサはその腕をレイの腕に絡める。
「じゃあ撮影しよう」
「はぁ!?絶対ヤダ!」
「今更遅い。諦めて」
「やだぁぁぁぁぁ!!!」
レイの叫び声が響き渡る。その後、半ば操り人形と化したレイは数時間の撮影を行い、様々な恥ずかしいポーズを取らされることになった。
・眼福眼福
・GJ
・俺もその写真欲しい
コメント欄はいつものように盛り上がっていたが、くたびれたレイに反応する元気はない。一方でほくほく顔のウサと【Gothic Rabbit】は何かを話しあったかと思うと、ウサはレイに話しかける。
「これはとても良いもの。売れる」
「は?売るの?」
「そう。大丈夫、売り上げは7:3でそちらに譲る」
「いやそんなのどうでもよくて――」
「じゃ、編集で忙しいから失礼する」
レイの止めようと伸ばしたその右手は残念ながらマイペースなウサには届かずに空をきり、【Gothic Rabbit】は嵐のように去っていった。
「……なんかどっと疲れたから今日はここまでにするよ」
・うん、お疲れ
・色々あったもんねw
・乙~
「……絶対買わないでよ?」
・それは無理
・約束はできない
・絶対買う
「ぎゃう」
そのコメントに舌打ちが出そうになったレイは隣にいる『諦めろ』みたいな表情をしているじゃしんに再度手刀を落としてログアウトするのだった。
[TOPIC]
CLAN【Gothic Rabbit】
『ToY』の世界にてゴスロリ布教に命を懸けるクラン。クランリーダーは【GothUsa】。
攻略など二の次で、『いかにかわいい服装を作るか』を考えている所謂エンジョイ勢でありながら、その生産能力はトップクランにも引けを取らない実力がある。
一応、装備の依頼を受けてはくれるが、もれなくすべてゴシックファッションにされるうえ、宣材用の写真まで取られるので、色んな意味で覚悟が必要となるだろう。




