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5-48 怖震う連鎖を断ち切って⑪


 海賊と海の怪物による熾烈な戦いが繰り広げられている中、範囲外となる遥か上空から見下ろす、ハッチの姿があった。


 【風の踊り場】の効果によってさも空中に浮いているかのように佇んでおり、戦闘中のプレイヤーは誰一人として気が付いている様子はない。


 それをいいことに高みの見物を決め込むハッチは空中を歩きながらも、その戦闘の様子を窺う。


 眼下に広がっているのはお世辞にも優勢とは言えない状況だった。


 数では勝る『海賊連合』の面々だが、【デモニオクト】の八本の足は縦横無尽に動き回り、捉えるに捉えきれていない。


 その上、技とも呼べない振り払い一撃によって複数の船が破壊されており、このままでは全滅することは明白であった。


「おい、イソーロ!火力足りてねぇぞ!やっぱりご自慢の戦艦取りに行った方がよかったんじゃねぇか!」


「うるさい黙れ!例え旧式だろうと我ら【007艦隊】に敗北はない!」


「ちょっと!喧嘩する元気があるなら足の一本でも何とかしてよ!」


 好転しない状況に煽り言葉を、それに対して反論の怒鳴り声を、またそれを諌めるような声が飛び交っている。


「ふむ、意外と頑張りますね。ですが……」


 ハッチはそれを耳にしながら微笑むも、流石は『海賊連合』と言うだけのことはある、と心の中で称賛する。


 だが、それも時間の問題。


「ほら、崩れ始めた。さていい具合に追い込まれてますね」


 【デモニオクト】が自身の足を手前に引いたかと思えば、独楽のようにぐるぐると回転しだす。


 その光景に海賊達は立ち止まり、困惑した表情を浮かべていると、突如傘のように八本の足を開いた。


「うわ、ヤベェぞ!」


「逃げろ逃げろ!」


「おいこっち来んなって!」


 ピンと伸ばされた足が船に触れると、まるでバターのように容易く切断し、ゆっくりと移動してくる姿が、より彼らを混乱の渦に引き摺り込む。


 それを見た海賊達は我先にと後退を始めるが、それによって今まで張り直してきた戦線に綻びが生まれる形となってしまう。


「おいバカ逃げんなって!」


「あんなの無理よ!一旦距離を取るべきだわ!」


 クランリーダー間でも意見が食い違い、混乱は更に広がっていく。


 やがて事態は収集のつかないレベルになってしまう中、キッドとポニーの耳に低い声が届いた。


「お前達、合わせろ」


「あ?何をだよイソーロ」


「ポニー、貴様は奴の動きを止めろ。その後、【007艦隊】と【海鬼団】で一斉攻撃。いいな?」


 イソーロはまるで決定事項のように憮然とした態度でそう告げる。


「……前回それで失敗してるから、あんまり気が進まないわ」


「……ま、それしかねぇか。このままだとじり貧なのは違いねぇしな」


「はぁ、分かったわ」


 その言葉に眉を顰める二人だったが、他に方法が思い浮かばないことを悟ると、すぐさま行動に移る。


「時間は約一分!あの蛸の動きを遅くするからその間にやっちゃって!」


「おうよ!野郎共気張りやがれ!ここが正念場だ!」


「総員!撃ち方用意!」


 そうして【黄昏の人魚】の面々が合唱を始めたかと思えば、【デモニオクト】の動きが緩慢になる。


 そこに合わせて【海鬼団】と【007艦隊】の面々が総攻撃を仕掛け――ハッチはニヤリと笑う。


「――来た。レイさん、よろしくお願いします」


 フレンドコールで繋がっているレイに向けて言葉を投げかけつつ、自身の乗っていた見えない足場から飛び降りれば、爆煙がデモニオクトを覆う中へ飛び込んでいく。


「お膳立てありがとうございました。僕の勝ちです」


 【黄昏の人魚】が行動阻害をするスキルを持っていることを知っており、ピンチになれば必ず使うだろうと言う予測。


 それ故にハッチはここまでずっと息を潜め、機会を窺い、そうして掴んだチャンスに勝利を確信し、【海神の槍】を【デモニオクト】に突き立て――。


「え?」


 だが手応えは何一つなかった。


 始めはただただ裏切りにあったと思ったが、手元から消えた【海神の槍】がそんな単純なことではないことを証明しており、ハッチは【デモニオクト】に張り付いたまま訳が分からないといった具合に呆然とする。


『あ、あ~聞こえてる?』


 そこは聞こえてくる協力者の声。その気色ばんだ雰囲気にハッチは何かされたことを察し、困惑したまま問いかける。


「レイ、さん?一体どういうことですか?」


『ここで突然クイズです!【海神の槍】のお値段はいくらでしょう?』


「はぁ?」


 だが、返ってきたのは場にも答えにもそぐわない内容であり、ハッチは眉を顰めて問い正す。


「一体何を――」


『残念、時間切れ。正解はNPCによる、でした~!』


「だから、何が言いたいんですか!?」


 暖簾に腕を押すような掴み所のない内容に、遂にハッチが叫び声をあげる。


 だが、それを受けてもレイの態度は変わらない。


「まだ分かんない?【海神の槍】はイベントアイテムでも所有者はリヴァイだから、リヴァイが値段をつけれるってこと」


『……それが何だと言うんです?』


「じゃあもう一つクイズ。職業【闇商人】の覚えるスキル【差し押さえ】の効果は何でしょう?」


 再び切り出されたクイズに、今度は押し黙る。内容はわからないながらも、スキル名から嫌な予感を感じたハッチは冷や汗を垂らす。


『分かんないよね、こんなマイナーな職業のスキルなんて。だから教えてあげる、正解は『プレイヤーの持っている借金と同等の価値のアイテムを強制的に奪い取る』でした』


「……まさか」


『そういうこと。そのスキルを使って【海神の槍】を回収させてもらいました』


 予想通りの内容にハッチは愕然として言葉を失う。だがすぐさま気を取り直すと答えを求めるように声を張り上げた。


「ば、馬鹿な!?僕は借金などしていません!」


『それがしてるんだよ。ついさっきね』


 返ってきた答えに、ハッチは行動を思い返す。


 ここまで気取られないように慎重に行動してきており、おかしな所は何も……と考えたタイミングで一つ心当たりに行き当たる。


「さっき……飛びついてきた時ですか!?」


『お、鋭いね』


 ハッチの解答にレイは拍手を返すと、種明かしを始める。


『そうだよ、その時君の〈アイテムポーチ〉に【薬草】を入れておいてあげたのさ。ほら、回復アイテムはいくらあってもいいでしょ?』


「そんな、無茶苦茶な……!」


 その言葉に自身の〈アイテム欄〉を確認すれば、確かに見覚えのない【薬草】が一本。


 彼女の言葉から推察するに、自身に【薬草】を忍ばせ、【海神の槍】と同等の価値に設定し、スキルによって接収した、と言うことなのだろう。


 理論上言いたい事は理解できるものの、そんな当たり屋みたいなことが許されても良いのかとハッチは納得のいかない表情で拳を握り締める。


『ま、そろそろ時間みたいだし、最後に一言だけ』


 何とか打開策を探すもタイムリミットは既にそこまできているようだった。


 硬直の溶けた【デモニオクト】が、自身に張り付くハッチを標的にしている姿が見てとれ、そのタイミングでレイから最後のメッセージが告げられた。


ここまでありがとう(・・・・・・・・・)後は任せてよ(・・・・・・)


「……ははっ」


 それは意趣返しの如く放たれたかつて自分が告げた言葉。


 それを耳にして敗北を悟ったハッチは薄く笑うと、【デモニオクト】の足に吹き飛ばされ、大海へと沈んでいった。


[TOPIC]

SKILL【咽び泣く魔女の怨嗟】

愛する者を失った魔女の悲しみは世界を呪い、他者をも蝕む。

CT:3000sec

効果①:対象の〈腕力〉を大幅に減少(90%down)

効果①:対象の〈敏捷〉を大幅に減少(90%down)


取得条件:職業【指揮者】Lv30にて取得

発動条件:スキル発動後、職業【歌い手】を持つプレイヤー20名が1分静止状態

※静止状態が解除された場合、スキルを解除

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! …この協調性皆無なこのレイドではそりゃ仲間割れ、逃亡、色々ありますよね… そしてまぁ…そんな中でまともに有効打が加えられるわけもなく… ハッチは高みの見物して漁夫の利しよ…
[一言] やってやりましたなぁ!
[一言] 今回リボッタ活躍してんなあ
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