5-46 怖震う連鎖を断ち切って⑨
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カバーイラストも載っていますので、是非是非見に行ってください。
大見得を切り、【デモニオクト】に向かい合うレイ達一向。
だが悠然と佇む【デモニオクト】に対してレイは中々動き出そうとせず、硬直した場面で代わりに口を開いた。
「さてと、カッコつけるとこまではOK。問題はどうやって倒すかだね」
「んなっ、ノープランかよ」
無責任にそう言ってのけたレイに、肩透かしを喰らったリボッタは呆れた視線を向ける。
「当たり前じゃん、流石にあの規模はどうしようもないって。逆に聞くけどリボッタはなんか作戦ある?」
「いや、そりゃねぇけどよ……」
「ほら、人のこと言えないじゃん。う~ん、また口からじゃしんでも入れてみる?」
「ぎゃうっ!?」
チラリと流し目をしながら発言したレイの一言に、じゃしんは体を撥ね上げさせ、バクバクと心臓を鳴らしながらも必死に手と首を振る。
「それやったらマジで帰って来れなくなるだろ。そもそもどうやって近づくんだよ」
「ま、そうだよね。冗談冗談」
「ぎゃう〜……」
冗談だったのかレイがすぐさま撤回してみせると、じゃしんは『危なかった……』と胸を撫で下ろす。
余りの信用のなさに少しだけ納得のいかないレイ(普段の行いは棚に上げつつ)だったが、気を取り直すように声を張る。
「ってなるとやっぱり【海神の槍】ってのが必須かな。さーてと、どうしようかなぁ?」
「……そうだな、都合よく置いてあったりすればいいんだが」
どこか胡散臭く、これ見よがしに放った言葉。その意図を察したのか、リボッタもそれに追従する。
当然それは誰かに向けた言葉であり、その相手も既に判明していた。それでも敢えて視線を向けず、向こうから話しかけているのをレイ達は待つ。
「誰かが持ってれば良かったんだけどな――ん?ちょっと待って。う、浮いてない?」
だがそれよりも前に痺れを切らしたモノがいた。一向に動く気配のないレイ達に興味を失ったのか、【デモニオクト】はその巨体を動かして明後日の方向に上昇を開始する。
「ちょ、それは聞いてないけど!?これまさかの置いてけぼり!?」
「おいおい、この距離泳ぐのは俺でも無理だぞ……」
『大丈夫、任せて』
まさかの移動にレイは焦りを見せ、リボッタもお手上げと言わんばかりに言葉を漏らす。ただそこへリヴァイから頼もしい声が聞こえた。
「リヴァイ?」
尋ねる声に対し、リヴァイは行動で示す。
一度目を瞑り、ヒレを手のように操って前に伸ばすと、地響きと共にレイ達の足場が揺れる。それと同時に地面を割って登場したのは巨大な帆船であった。
「これは……」
『僕達を乗せた船、【サンズ・マリア号】。旅の終わりに預かっていたんだ』
どこかで見たことのあるその姿にレイが思考していると、リヴァイが優しく微笑みながら【サンズ・マリア号】を見つめる。
『懐かしいな、よくグリードが『俺の愛人、マリアだー』とか言ってたっけ。また皆で…いや、感傷に浸りたいところだけど時間はないもんね、さぁ行こう』
それを見て再び過去に想いを馳せるリヴァイ。だがすぐに首を振って意識を戻すと、今度はヒレをはためかせながら【サンズ・マリア号】へと近づいていく。
「うわっ!?」
「ぎゃう!?」
それに引っ張られるように突如レイ達の体も浮き始め、同様に船へと向かう。そのまま無事船上に降り立ち、長らく使用していない割には傷んだ様子もない船内を見ていると、今度は【サンズ・マリア号】の方が宙へと浮き始めた。
「え!?これヤバいんじゃ――」
『大丈夫、信じて』
空気のある場所から海の中へと突っ込もうとしているため、レイはぎゅっと目を瞑って備える。だが、リヴァイの言葉通り、想像していた水の感触は一向に来なかった。
不思議に感じたレイが恐る恐る目を開けば、そこは確かに海中であった。ただし、感触は陸にいるのと変わらず、息も問題なく出来ている。
不思議な感覚にレイは戸惑いつつも周囲を見渡せば、そこには船と並行して泳ぐ多種多様の魚達の姿。空から降る星明りがその鱗に反射し、まるで夜空のように海中を照らしていた。
「すごい、綺麗」
「ぎゃう〜!」
まるで宇宙を泳いでいるような景色にレイは思わず感嘆の声を漏らし、隣にいたじゃしんも目を輝かせて身を乗り出している。
落ちないようにその背中を抑えつつも、苦手だった海も意外と良い物だなと思い直していた。
『さぁ!出るよ!』
束の間の癒しを堪能した後、海面が見えた頃合いにリヴァイの声が響く。それと同時に【サンズ・マリア号】はついに海上へと浮上する。
「ここは……丁度【ポセイディア海】の中心っていった所かな。【デモニオクト】は?」
周りにみえる島々からすぐさま位置関係を把握したレイは本題である【デモニオクト】の姿を探す。ぐるりと見渡し、八時の方向にうっすらと不気味な巨影が浮かんでいる姿が目に映る。
「おい、タコのくせに空飛んでるぞ」
「もう何でもありだね……。というかあの方角って『グランヴルーム』じゃ……」
もはや海生生物ですらなくなった【デモニオクト】に呆れつつも、その進行方向にレイ達は冷や汗を零す。
「これはちょっとまずいかも……。リヴァイ、急げる?」
『あぁ、全速力で行くよ!』
「ぎゃう!?」
レイの声に応えるかのように【サンズ・マリア号】は速度を増す。まるでジェットエンジンを積んでいるのかと思うほどの推進力にじゃしんがごろごろと甲板の上を転がる中、【デモニオクト】との距離をぐんぐんと縮まり、ついにその背中を捉える。
「追いついた!後はどうやって気を引くかだけど……」
ドォン!
突如鳴り響いた轟音にレイの思考は遮られる。音の鳴った方向に目を向ければ煙を吐く大砲の前で驚いた表情を浮かべるリボッタの姿。
その軌道の先に目を移すと、【デモニオクト】の身体の一部から爆炎が上がっており、動きを止めて体を此方へと向けている姿があった。
「ナイス!私も――ッ!?」
リボッタの機転をマネするようにレイも大砲の元へと走り出そうとするが、それを遮るように巨大な触手が何本か飛来する。
その内の一本は想像を絶するほどの速さでレイに向かってきており、避けることが不可能と悟ったレイは咄嗟にスキルの【いなし】を発動し――触手を上へと弾き飛ばした。
「あ、危なかった……」
「ぐぉぉぉ!?」
ダメ元で放った【いなし】が成功したことに安堵しつつも、高鳴る鼓動を抑えきれないレイ。
もう一度同じことが出来るかと言われれば、自信をもって不可能だと答えられる上、リボッタの使用していた大砲に風穴を開けた姿を見て、次来たらデスポーンする未来を想像し背筋を凍らせた。
だが当然容赦はない。【デモニオクト】は今にも襲い掛からんと、八本の足を浮かせ、【サンズ・マリア号】をロックオンしており、このままでは確実に叩き潰されることが目に見えていた。
「どうする……?このままじゃ潰されて終わっちゃう……!」
「――いやレイさん、いけるかもしれませんよ」
「え?」
何とか状況を打開しようと必死で回す思考の隙を縫うように背後からレイを呼ぶ声が聞こえる。
振り返ればそこには【デモニオクト】とは別の方向に目を向けるハッチの姿があり、その意味を探るために同じ方向に目を向ければ――。
「おいおい何だありゃあ!面白そうなことになってんなぁ!」
「見つけたわリボッタ……!許さない、絶対に邪魔してやるんだから!」
「総員、戦闘用意。目標は空に浮かぶモンスター及びその他海賊共全てだ」
レイの耳にも届いてくる数多くの喧騒。そこには数刻前に対峙したこの海を縄張りとする海賊達が、水平線にずらりと一堂に会していた。
[TOPIC]
WORD【サンズ・マリア号】
かつてキャプテン・グリードの一味を乗せ、【ポセイディア海】を制覇した唯一の船。
その名前はキャプテン・グリードの恋人からきており、その由来通り大切に扱われた。
航海を終えた後、グリード曰く『船は海神龍に渡した』との噂が広がり、それから尾びれが色々と着いた結果、海神龍の加護を授けられるとして、グランブルームの街ではマリアという名前の女性が多くなった。




