5-45 怖震う連鎖を断ち切って⑧
『終わりだね、メガロ』
体中から黒い泡を出しながら仰向けで寝転ぶメガロへと近づき、リヴァイは声をかける。
「……あぁ、そのようだなぁ。そうか、終わりか」
リヴァイの優しい口調にメガロはふっと力を抜くと、仰向けになり色々な思いの籠った呟きを口から吐く。
その横顔は泣いていて、それ以上に安堵しているようにも見える。それに何も言えないでいると、メガロはふっと笑ってリヴァイへと視線を送った。
「随分と迷惑をかけた。お前にも船長にも」
『全く、本当だよ。どれだけ骨を折ったと思ってるのさ』
「ははっ、悪かったよ、許してくれ」
懺悔する、というよりかは友人に軽く謝罪するような、そんな軽い言葉。それを聞いてリヴァイも合わせるように肩を竦めておどけて見せると、メガロは声をあげて笑う。
「それにしても長かったぜ……。本当に、長かった。そうか、ようやく眠れるのか」
『あぁ、ゆっくりおやすみ。ついでにグリードによろしく言っといてね?』
「ははっ、その前にどやされるだろうがな」
自身の人生を思い出しながら、改めて呟かれた一言。今もなお体から出る黒い泡と共に、今までの苦悩や葛藤も吐き出すように、メガロは軽く微笑んで別れの言葉を口にする。
「……じゃあな。それと、ありがとう」
『うん、どういたしまして。今度会う時はまたみんなでお酒でも――』
それに対してリヴァイも笑って送り出し、これにてすべてが丸く収まる。そんな雰囲気をぶち壊すように彼らの体を分厚い影が覆う。
「こ、コイツはっ!?」
『【デモニオクト】……!?何故ここに!?』
弾かれるように上に視線を移すと、そこにいたのは最後の回想でも目にした赤い体に八本足の悪魔―—【デモニオクト】だった。
身体に描かれた黒い模様はニヤニヤと嫌らしい表情でメガロとリヴァイを見下しているように思え、それと同時に浮かび上がる黒い泡を口に含んでいるようにも見えた。
「っ!危ない!」
そして【デモニオクト】は牙を剥く。突然何かを求めるようにメガロとリヴァイに向けて触手を伸ばそうとし、それに気が付いたレイが慌ててリヴァイの体を抱きしめて後ろに下がる。
「ぐあぁぁぁぁ!は、離しやがれ!ぐっ――」
『メガロ!』
だが流石にメガロの方の回収は難しく、動くことの出来ないメガロはいとも簡単に触手に絡めとられ、その体を持ち上げられていく。
「おい、こりゃ一体どういうことだ!?こうなるって分かってたのか!?」
「何となくだけどね。ほら考えても見てよ、あんなこれ見よがしに出てきたボスっぽいモンスターが、何もありませんでした~って言う方が信じられなくない?」
その光景を見て脈絡なく現れた【デモニオクト】に固まっていたリボッタはレイに向けて詳細を求め、それに対してレイの中で引っ掛かっていたことを冷静に告げる。
「言われてみれば……」
「でしょ?それにもう一個注意しなきゃいけないこともあるしね。あ、そうだ」
「あ?」
またその流れでもう一つの懸念点についてもリボッタに共有する。ひそひそと周りに聞こえない声量で今後の方針について決めると、二人は頷き合う。
「って事で、大丈夫そう?」
「……あぁ、任せろ。俺もいい加減発散しねぇと気が済まなかったんだ」
「よし、じゃあそう言う事で。まぁ取り敢えずは状況次第だけど……」
そして再びレイ達は【デモニオクト】へと視線を戻す。二本の触手を器用に操りながら、どうやらメガロを直接口に運ぼうとしているようだった。
『助けなきゃ!』
「ちょっと落ち着いて!今行ったって無理だよ!」
『でも!』
「でもじゃない!これでリヴァイまで取り込まれたら本末転倒だってば!」
それに気が付いたリヴァイがレイの手から抜け出そうと藻掻き、対抗するようにレイも必死で腕の力を強める。
そして完全に周りが見えなくなっているリヴァイの意識を向けさせるために大声で言葉を遮ると、ゆっくりと言い聞かせるように口を開く。
「メガロも言ってたじゃん、終わらせてくれって。だったら責任持って終わらせてあげるのが君の役目でしょ」
『……そう、か。そうだね。ごめん』
「謝らなくていいよ。気持ちもわかるからさ。……さて」
ようやく落ち着いたリヴァイを見て強めていた力を緩め、【デモニオクト】を睨みつける。
もはや僅かな力すら失ったのか、抵抗どころか叫び声も上げずにぐったりとしているメガロを、遂にその口へと放り込む。
――ドクンッ
レイ達の耳にも聞こえるほどの心音が鳴り響く。それと同時に【デモニオクト】の姿が変わっていく。
小刻みに震え始め、普段は揺らめいている筈の触手は鋭利に伸び、四方八方へと飛び散っている。またぺりぺりと皮膚が剥がれるように体色が変わっていく。
「ぎゃ、ぎゃう~」
「本当に悪魔みてぇだな……」
「デモニオって名前は伊達じゃないみたいだね」
体全体は赤から黒へ、模様も黒から赤へと反転した体。浮かび上がる模様すらもにやついたような笑顔から釣り目の怒ったような表情へと変化しており、その禍々しさにレイ達は少し気圧される。
「どれくらい強いと思う?」
「まぁ間違いなく俺じゃ歯が立たない所か認知すらされないだろうな」
『通常時でさえグリードも苦戦したんだ、それが邪神の力まで備わったとなると、想像すら……』
その強さを想像し、リヴァイは一度顔を伏せる。やがて何かを決意したのか腕の中から離れると、レイ達の顔を見ながら意を決したように告げる。
『やっぱり僕一人で何とかするよ。こんな重荷、君達に背負わせるわけには――』
「こら」
『痛っ!?』
だがその決意の言葉も最後まで言い切ることなくレイの手刀によって遮られる。
リヴァイが頭を押さえて上目遣いで見上げれば、そこには心底呆れた表情を浮かべるレイの姿。
「もう乗り掛かった船なんだからここでサヨナラなんてするわけないじゃん。『過去の遺産を終わらせる』んでしょ?」
『レイ……』
「ま、ああいうのは今まで何回か戦ってるし何とかなるでしょ。みんな準備はいい?」
「ぎゃう!」
「おう、このままだと赤字だしな」
そしてリヴァイを押しのけて未だ悠然と佇む【デモニオクト】を好戦的な目で睨みつける。
声掛けに対してじゃしんとリボッタが臨戦態勢を整える中、一人離れた場所でほくそ笑む男の姿があった。
[TOPIC]
MONSTER【『神魔』デモニオクト】
神の力の一端に触れ、海底の主は悪魔から魔神へと進化する。
水棲種/系統なし。固有スキル【怒髪破天】。
《召喚条件》
なし(イベント限定モンスター)




