5-44 怖震う連鎖を断ち切って⑦
[修正のお知らせ]
10/10メガロの倒し方を修正。
10/9に見た方にはお手数おかけいたします。
「死ねぇ!」
メガロは目を血走らせ、咆哮と共に手を上にかざす。そこへぽたぽたと雫が降ってくると、手のひらを握り締めて圧縮し、向かってくるレイに投げつけた。
圧縮された水滴は弾丸へと変わり、レイを迎え撃つために飛来する。だがレイは冷静だった。
投げる動作に入った時点で次の行動をある程度悟ると、腕の向きと角度からおおよその位置を割り出し、最小限の移動だけで軌道からズレる。
その結果、飛来する水滴の弾丸は彼女の頬を数ミリ掠める程度に収まっただけで、彼女のスピードを落とすことすらできない。
加えてレイから放たれる弾丸が厄介で、的確に目だけを狙ってきており、ダメージがないことは分かっているものの鬱陶しく、メガロはことさらイラついたように舌打ちをした。
「クソが!直接叩き潰してやるよ!」
遠距離戦では分が悪いと悟ったのか、我慢の限界が訪れたのか、あるいはその両方か。一刻も早くレイをつぶそうと考えたメガロが足を一歩踏み出そうとして――。
「は!?なんだこりゃ!?」
突如足元に広がったマグマの海にぎょっとして足を止める。後方を振り返ればいつの間にか自身の足場以外囲まれている事に気が付いた。
「いつの間に……いや、偽物か!」
「おや、バレてしまいましたか」
一瞬騙されかけたメガロだったが、対面しているレイが臆することなくマグマに足を踏み入れているのを目の当たりにし、幻覚だと気が付く。
ただ、一度生まれた違和感は簡単には拭えない。止めた足を再度動かすには今一度勇気が要る上、敵であるレイは止まることなく真っすぐと向かってきている。
――このまま迎撃したほうがいいのではないか。結局受け身の考えに脳内を支配されたメガロは遠距離戦を継続しようと再び手を上にかざす。……彼女達の術中にはまっているとも気が付かず。
『【海神龍渦】』
「うぐっ!?」
リヴァイの発したスキルによって、水滴ではなく龍の形を成した渦潮がメガロの元に殺到する。動くという選択肢を排除してしまっていたメガロにそれを避ける術はなく、口を開けた龍に丸のみにされてしまった。
天から生える一本の柱のように聳え立つ渦潮。その中に閉じ込められたメガロの身体には無数の切り傷が出来ており、普通であればこれで勝負が決まっていてもおかしくない攻撃。だが当然、それで終わるはずもなかった。
「ガァァァァァァ!うざってぇ!」
メガロの咆哮によって生じた衝撃波は空気を振動させ、渦潮すらも掻き消す。それと同時に体の傷という傷が逆再生をしたかのように回復されていく。
「効かねぇよそんなちんけな攻撃!」
「うん、知ってる」
「ッ!おらぁ!」
そんな中、何事にも動じずただただ前進を繰り返していたレイがメガロの前へと躍り出た。一瞬、驚きのあまり身を引きかけたメガロだったが、ぐっとこらえて迎撃を試みる。
全身を引き絞り、真っすぐに繰り出した全力の一撃。その拳は完璧なタイミングでレイへと突き刺さり、ぼふり、と音を立てて彼女の姿を煙へと変えた。
「は?……これも偽物か!」
「正解!」
不可解な現象にまたしても混乱するメガロ。ただ二度目という事もあり、すぐさま体勢を立て直せば、頭上から聞こえるレイの声。
「ははっ、馬鹿が!あめぇんだよ!!!」
完全に持ち直したメガロに対し、無防備に空中へと身を投げ出しているレイ。こちらに銃を突き付けているものの、そんな玩具ではダメージなど負う事はないと確信したメガロは嘲笑の笑みを浮かべた。
そして落下してくるレイに向けて大きく口を開けて待つ。雌雄は決した、後は消化試合だと言わんばかりの余裕な笑み。そこへ感じるチクリとした痛み。
それに疑問を持つ前にメガロの身体がピシリと固まる。突然自身の意志で動かなくなった体に今日一番の困惑の声を上げた。
「な、何が起きてる?」
「フェンガリ組謹製の麻酔薬、その名も【千年蠍の石化針】。残念だが、一分は動けねぇと思え」
それに答えたのはにやにやとしてやったりとした笑みを浮かべたリボッタ。メガロが目だけ動かしてそちらを見れば、その手には先ほど持っていた物とは色違いの黄土色をした筒が握られており、自身の腹部にはそこから撃たれたであろう、鋭い針が刺さっている。
「まさか初めからこれを?このクソ共が……!」
「さてと」
相手のペースにまんまとはまってしまった事に気が付いたメガロは悔し気に言葉を漏らす。だが、それもすべて負け惜しみにしかならず、そこへ止めをささんと執行者が舞い降りた。
「どうやらお腹空いてるみたいだしさ、たらふく食べさせてあげる」
「や、やめ――」
「遠慮しなくていいって、沢山あるからさ」
メガロの上あごと下あごに器用に着地したレイは、焦った視線に対してニィと笑ってアイテムを取り出す。
そのアイテムはもはや彼女代名詞とも呼べる赤い草。それを両手一杯に持つと、一つ口の中へと入れていく。
そして再度鳴り響く3カウント。それが止まった瞬間死刑を待つ囚人のような面持ちのメガロの腹が爆発した。
「〜〜〜ッ!?」
「ほーら、まだまだあるよ〜」
腹の底から響くダメージによってメガロが悶絶するもレイはその手を止めない。爆殺する度にタイミングよく【時限草】を放り込み、爆発を継続させていく。
時間にしてたったの1分。だが彼にとっては永遠とも感じる時間であり、それに伴って継続するダメージに、メガロは。
「ぐあぁぁぁぁぁっ……………」
【千年蠍の石化針】の効果が切れた瞬間に傾くその体。口からは煙を上げ、その場を離れ飛び退いたレイの耳にはか細い断末魔が聞こえてくる。
「ふぅ、対戦ありがとうございましたっと」
「おい、終わったのか」
「ぎゃう~」
しばらくの間、少し離れた場所で様子を窺っていたレイだったが、一向にメガロが起き上がってこないため勝利を確信し一息吐くと、そこへリボッタとじゃしんが近づいてくる。
「第一段階はね。あ、じゃしんはそれ以上近づかないで」
「ぎゃう!?」
ガーンという効果音が見えるほど分かりやすくショックを受けるじゃしんの横で、レイの言葉を理解したリボッタは驚愕に目を開く。
「第一段階だと?それってどういう意味だ!?」
「そのまんまの意味だよ。ほらクリアってでてないし」
「あっ」
「そういうこと。まだ油断しちゃだめだからね」
リボッタに掛けた言葉の通り、レイは未だに銃を放さず、メガロを見つめていた。
[TOPIC]
SKILL【海神龍渦】
海神の怒りに触れた者は龍の胃袋に囚われ、許しを請う事になるだろう。
CT:-
効果①:水属性の固定ダメージ(50dmg/1sec)




