5-42 怖震う連鎖を断ち切って⑤
「ちょ、ちょっと待って。それってこう、形として残ってるモノなの?」
『そうだよ、だって僕がグリードにあげたモノなんだから』
「じゃあどこにあるのそれ?」
『それは分からないね』
「?????」
全くかみ合わない会話にレイはアイマスクを取ってリヴァイの顔を見る。その顔も彼女と同様に何が何だか分からないといった顔をしており、より一層不安が募っていく。
「え?何かフラグを逃した?でも割と一本道だったはず――」
『参ったな……グリードが何とかしてくれていると思ったんだけど』
「ん?グリードが?」
『うん、だってグリードに託したもの』
そんな中にぽつりと呟いた一言にレイが反応すると、リヴァイは頷きながらも詳細を話す。
『『邪神の残滓』を打ち払える者、意志を継いでくれる者に継承してくれとお願いしたんだ。だから上の世界のどこかにあると思うんだけど』
「上の世界?それに意志に継承……」
事情を聞いて、レイは心当たりがないか考える。
何か見落としていそうな、そんな喉につっかかった小骨を取るような感覚。だがそれが解決する前に戦況は傾き始める。
「グルァ!鬱陶しい!」
「やべっ、キレた!頼む、フォローくれ!」
「ちょ!」
空気を振動させるほどの大咆哮が聴こえたかと思えば、全速力でこちらへと逃げてくるリボッタ。
その背後からは怒った様子で追いかけるメガロの姿があり、それを見たレイとリヴァイも慌ててそこから飛び退いた。
「さっきのあれはもう無いのっ?」
「そっちも品切れたんだよ!という訳で任せた!」
「しょうがないなぁ!」
すれ違い様、最低限のやりとりを済ませた二人は入れ違う形で交差すると、レイは拳銃を取り出してメガロの顔面へと発砲する。
寸分の狂いなく瞳へと飛来する弾丸。だがそれを瞬きだけで弾き返すと、メガロは足を止めてレイを見下ろす。
「今度はテメェか?ちったぁ骨があるんだろうなぁ?」
「少なくとも、さっきのよりかは……ね!」
改めて対峙した二人の間に、一瞬の硬直。その後、先に動いたのはメガロの方だった。
その巨体に見合わぬスピードでレイに接近し、全力で拳を振り下ろす。
それをすんでの所で避けたレイは先程までいた場所が抉れている事に戦慄しつつも一定の距離を取って円を描くようにメガロの周囲を駆け回る。
目、口、喉。有効打を探るためにあらゆる弱点と思われる場所を、攻撃を喰らわないことを第一としながらも狙い続けた。
「ほう、中々やるじゃねぇか。楽しくなってきたぜぇ!」
「ッ!」
だがどこを狙ったとしてもダメージを受けている素振りが見えない。それどころかレイの速度にも対応しつつあり、思わず舌打ちが溢れる。
「どうしたどうした、そんなもんかよ!」
「やっぱ無理か……。できれば使いたくなかったんだけどね――じゃしん!」
「ぎゃう!」
このままではジリ貧だと判断したレイはメガロの腕を蹴って大きく距離を離しじゃしんの名を呼ぶ。
呼ばれたじゃしんは『待ってました!』と言わんばかりにレイの頭へと飛びつき、キリリとした表情を浮かべてメガロを睨みつける。
「さぁて、第二ラウンドだよ!」
「ぎゃうっ!」
「うおっ!?」
【神の憑代】を発動させたレイの体がブレる。それに目を見開き、驚きの声を上げたメガロのお腹に拳が突き刺さった。
「ぐあぁ!?」
「ぎゃうっ!」
くの字に折れ曲がり、後方へと大きく吹き飛ばされるメガロ。レイの頭の上ではじゃしんが『どんなもんじゃい!』とでも言いたげに腕を組んで仁王立ちしている。……だが。
「やるじゃねぇか……!」
「……手応えはあったんだけどね」
砂埃が晴れたその先で、平然と立ち上がったメガロの姿を見てレイは苦々しく顔を顰める。
【神の憑代】とは奥の手中の奥の手であり、言ってしまえばこれ以上の火力をレイが出すことはできない。だが目の前にいる化け物はそれでも変化なく、ひしひしと打つ手が無くなっていることを理解してしまう。
「面白ぇ技だ。お返しにこっちも面白いもん見せてやる」
その上メガロの方はまだまだ底を見せていないようで、パンっと大きく柏手を打つ。
手から放たれた振動は空気を伝い、周囲を囲う海へと伝わる。そして、揺れた海の膜から零れ落ちるように、人間程の雫が四方八方より侵入を始める。
その雫はふよふよと浮きつつも次第に姿を変え始め、やがてサメのような見た目へと姿を変えた。
「はっはぁ!すげぇ力だ!おら、全部躱してみせろ!」
「これは流石に……!?」
数えるのも億劫になる程の手数に、レイは身構えつつも冷や汗を垂らす。
よしんば自身が避けたとしても他のメンバーを守るのは困難どころの騒ぎではなく、もはや全て撃ち落とすしかない、そう腹を括ったタイミングで、今まで揺らいでいたサメ達がピタリと動きを止める。
「何だぁ?」
『僕のことを忘れないでよ』
声のした方を振り返れば、リヴァイが水色の淡い光を纏っている。それからリヴァイがヒレを一度振ると、その淡い光が周囲へと伝播し始めた。
そしてその光がサメ達に触れたかと思えば、途端に力を失って雫へと姿を戻し、重力に従って地面を濡らした。
『海は僕の家さ。君の独壇場だと思わないことだね』
「……まだ奪えねぇか。まぁ時間の問題だろ」
『ま、そうなんだけど。という訳でレイ、早めになんとかしてもらえると助かるかも』
「なんとかって言ったって……!」
ケロッとした様子で時間制限があることを告げるリヴァイに驚愕しつつも、レイはメガロへと肉薄する。
【神の憑代】にも時間制限があるため、早いところ打開策を見つけなければならない。……そんな焦りが大きな隙を生んでしまった。
「チッ、めんどくせぇ。――食っちまうか」
「は?」
「ぎゃう?」
ゼロ距離から放ったボディへの一撃。だが今度はメガロの体が動くことはなく、お互いの足が止まる。
その時に聞こえた言葉にレイとじゃしんが上を見上げれば、大きな口を開けて鋭い牙を見せるメガロの顔。
「あぶなっ!」
危険を察知して咄嗟に屈んだレイ。突然勢いよく動いたためか、頭上に乗っていたじゃしんとの間に出来た僅かなスペース。そこへ入り込むメガロの口、そして。
「ぎゃ――」
「あ」
パクリと、聞こえてくるような華麗さで。
じゃしんがメガロの口の中へと収まった。
[TOPIC]
SKILL【貪る飢えた魚群】
神にも等しい力を経たとしても、胸の内の渇きを満たすのは困難である。
CT:-
効果①:水属性の固定ダメージ(100dmg/1体)
取得条件:なし(イベントキャラのみ使用可能)




