5-39 怖震う連鎖を断ち切って②
ゆっくりと、それでいて確実に近づいてくるクラゲの大軍。
壁のように通路を覆っている彼らは何かに怒っているかのように赤く点滅しており、少なくとも友好的とは感じられない姿にレイは思わず身構える。
「お、おい、どうすんだ?」
「どうするも何も、一本道なんだから押し通るしかないでしょ」
『待って』
リボッタが一歩引きながら尋ねると、それに対してレイは拳銃をホルスターから抜いて、臨戦態勢を整える。だがそれをリヴァイが制した。
『彼らは【ユウバクラゲ】。倒れる際に爆発を巻き起こすんだ。単体ではか弱い存在だけど、これだけ集まっちゃえば……』
「……ただじゃすまない、ってことか」
『そういうこと。普段は温厚で誰かに襲いかかるような子達じゃないんだけど。絶対にメガロの影響だろうね』
リヴァイの説明に引き抜いた拳銃をそっと腰へと戻す。
「何か方法は?他に道はないの?」
『残念ながら。一応こっちから危害を与えなければ爆発することないし、攻撃自体は大したことないから進めないことはないと思う。でも君、耐えられるの?』
「え?あっ、そっか……」
どうやらダメージを負いながら進まなければいけない場所のようであり、何かを見抜いたリヴァイの言葉にレイは重要な問題に気が付く。
それは自身のHPが低すぎること。制約によって回復で補う事も出来ないため、仮にあの群れに突っ込めば、瞬く間にポリゴンとなって宿屋に戻ることは目に見えていた。
単純に進むだけではダメ、何かしらの策を講じなければならなくなったレイは腕を組んで周囲を見渡し――そこで、のほほんとした顔で浮いている召喚獣を見つけた。
「――よし、きめた」
「ぎゃ、ぎゃう?」
「ねぇ、取り敢えず近づいて動き回ればそっちを見るよね?」
『え?そういう子もいるだろうけど……』
「だよね、って事は全員を端に寄せてもらえば何とかなるかもってことだね」
自身を見て不穏な一言を呟くのを聞いたじゃしんは嫌な予感に冷や汗を垂らしながらもレイに話しかける。
だがそれに取り合うことなくリヴァイに確認を取ると、今度は満面の笑みで宣言する。
「じゃしん、君に決めた!私のために道を作って」
「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃうっ!?」
『やっぱりじゃねーか!』とでも言わんばかりに猛抗議を始めるじゃしん。それを見ていくつか頷いた後、レイは優しく語り掛ける。
「じゃしん、聞いて?」
「ぎゃうぎゃうぎゃう!」
「もう、聞いてってば」
ただ訪れる未来を何となく予想できてしまうじゃしんはその言葉を聞くまいと全力で首を振る。だが、それを聞くレイではない。
「あのね、じゃしんの力が必要なんだ。じゃしんがいなければ私なんてちっぽけでか弱い女の子なんだよ?それとも、じゃしんは神様なのに、こんな信仰深い人間に手を差し伸べてくれないのかな?」
「ぎゃ、ぎゃう……!?」
「信仰深い……?」
「どの口が言ってんだよ」
説得、というよりも半ば脅しに近い言葉を聞いて、じゃしんは絶望した表情で固まってしまう。一部発言に対して外野から疑問の声が上がるものの、そんな些細なことに反応するレイでもなかった。
「だから、私のためにお願いできないかな?こう、道を開くようにクラゲ達を端に寄せてくれればいいから」
「ぎゃ、ぎゃう~ッ!」
笑顔にも拘らず、目が笑っていないレイ。それを見てもはや決定事項だと悟ったじゃしんは苦渋の鳴き声を上げる。そして――。
「ぎゃうぎゃーう!」
「おぉ、さっすがじゃしん!よろしくね」
ヤケクソ気味に咆哮を上げると、被っていたキャプテン帽を地面に叩きつけ、これまたヤケクソ気味に【ユウバクラゲ】の群れへと突っ込んでいく。
「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃう……!」
それに対して迎撃するかのように【ユウバクラゲ】も触手を伸ばし、じゃしんへと襲い掛かる。バチッと静電気のような痛みに驚きつつも、じゃしんは歯を食いしばって【ユウバクラゲ】を掻き分け、端へ端へと移動させていく。……だが。
「うん、知ってはいたけど思った以上に時間かかりそう」
「なぁ、それにだんだん中央に戻ってきてないか?」
「あ、本当だ。じゃあこれって意味ない……?」
やはりどうしても人手が足りず、牛歩のような遅さでしか道を開くことが出来ず、加えて時間が経てば経つほどゆっくりとではあるが元の位置に戻っているようだった。
「どうしよう、他に何か……」
「あの、私に考えがあるんですが」
未だに頑張っているじゃしんを早々に切り捨てた発案者は、別の方法を模索する。そんな中、ここまで一歩引いたところで見ていたハッチが手を上げて発言する。
「あぁ?何だテメェ」
「まぁまぁ、話くらいは聞こうよ。それで、何?」
「ありがとうございます。私の【風の踊り場】を使えばあの中を掻き分けつつ進むことが出来るかと。どうです?」
それは彼にしか出来ない解決策であった。確かに思い返してみればあの技は壁を作るものであり、ある程度形は作れていた。
移動するのにどれくらいの労力がかかるのかは分からないが、少なくともレイ達に負担がかかることはないため、少し考えた後にレイは頷いた。
「なるほど、じゃあそれでいこっか。……裏切らないでよ?」
「もちろん、クエストを進めるのにあなたは必要でしょう?」
一応釘を刺して、間に必ずリボッタを挟んで【スティール】の対策も行う。その徹底ぶりにハッチは肩を竦めながらも、スキルを発動した。
それによって、レイ達の周りを見えない壁が覆う。手を伸ばせばしっかりと固い何かに触れ、それを確認したレイはゆっくりと【ユウバクラゲ】の群れに向けて歩を進める。
「おぉ、凄いね。もっと早く言ってくれればよかったのに」
「いえ、僕は外様なので余計な口は挟まない方がいいかと思いまして」
【ユウバクラゲ】に触れるかと思えば、その前にみえない何かに阻まれて動きを止める。その様子からどうやら三角錐の形になっている事を理解したレイは感心した声で呟く。
……一方で。
「ぎゃう……ぎゃ……!?」
「……ドンマイ」
汗を拭ながらも頑張っていたじゃしんが、なぜか何事もなく進み始めたレイの姿を見て愕然としている。
その姿を視界に収めたリボッタだけが、同情した視線を向けていた。
[TOPIC]
MONSTER【ユウバクラゲ】
来る者拒まず、去る者追わず。だが対峙する者に容赦はない。
水棲種/刺胞系統。固有スキル【爆発】。
≪進化経路≫
<★>ボムギンチャク
<★★>ハレツサンゴ
<★★★>ユウバクラゲ
<★★★★>ダイナボウズ
<★★★★★>シンカイヒドラ




