1-13 推しと対面している件について
なんと、10万PV達成いたしました。
皆様のお陰です。ありがとうございます。
全『ToY』プレイヤーに好きな配信者を尋ねた際に、必ず名前が上がり上位確実とされている人物が何人かいる。
ギークやイッカク、ココノッツにツヴァイ――名だたる面々が出揃う中、目の前にいるセブンはその筆頭とも呼べる人物だった。
彼女のチャンネル【seven.net】はチャンネル登録者数100万人を超える、まごうことなき超有名配信者であり、β時代から『ToY』をプレイしている最古参勢でもある。
特筆すべきはそのプレイスタイル。
行動すべてが自分本位で考えられており、傍若無人が人間の姿をして歩いていると言われるほどの自分勝手さから『魔王』の異名で呼ばれている。また職業【死霊術師】として、見た目が一般的によろしくない召喚獣を従え、まるで闇の軍勢を引き連れているような姿も後押ししているようだった。
・セブンじゃね!?
・見たことあるわ
・どうしてこんな所に!?
・レイちゃんに用があるって言ってなかったか?
思わぬゲストの登場に加速するコメント欄だったが、レイに反応している余裕はない。
彼女にとってセブンというのはもはや偶像崇拝の域まで達している。『ToY』購入前にはセブンの全てのアーカイブを追う程にドはまりし、彼女が配信者を目指そうとしたきっかけにもなった配信者なのだ。
そんな人物がいきなり目の前に現れて、レイは軽いパニック――いわゆる限界化していた。
「いや~最近有名になってきたと思ってたんだけど、認識が甘かったかなぁ」
「い、いや!そんなことないと思います!」
「え~、そうかな?ありがとね」
とっさにでた言葉に嬉しそうに返すセブン。それを見たレイはさらに感極まっていたが、徐々に平静を取り戻しなんとか話せるレベルには落ち着いていった。
「えっと、セブンさんは何でここに?」
「ん~?もちろん君に会うためだよ?」
「うっ」
・レイちゃんwww
・草
・完全にやられてるやんw
「まぁ一応初対面だし挨拶からじゃないかな?僕はセブン。よろしくねレイちゃん」
完全にポンコツになったレイに対して面白がるコメント欄をよそに、セブンはどんどん話を進めるとその右手を差し出した。
「え?」
「ほら握手しよ?」
「――あぁ、なるほど。お断りします」
・え?
・何故
・だろうな
・それはそう
セブンの申し出をレイは一蹴する。コメント欄ではその理由が分かっている者と分かっていない者のコメントが半々で流れていた。
「ふーん、一応理由を聞いても?」
「【シニガミ】を透明化させてる時点で狙ってるの見え見えですよ」
「ふふっ本当に見てくれてるみたいだね」
セブンは嬉しそうにそう言うと差し出した手を引っ込める。するとレイの背後からスッと白色の襤褸切れを纏い、大鎌を背負ったモンスターが現れた。
彼女は初対面の相手に質の悪いいたずらを仕掛けることで有名であった。それこそ、一度でも彼女の配信を見ているものなら必ず警戒すると言ってもいいほどに。
その中でも出会い頭に、【透明化】のスキルを持つ【シニガミ】でキルをするというのが彼女にとって最近のブームのようで、レイにとっても印象が強かったのだ。
「おっけーおっけー、じゃあ次は君の力を見せて欲しいな」
「え?」
レイがその意味を尋ねる前にセブンは次の行動に移りだす。
「おいで、【スカルキング】」
セブンの呟きに空気が振動する。その長く黒い髪が浮き上がったかと思うと、地面に紫色の魔法陣が浮かび上がり、噴き出した黒色の靄が次第に人の姿を形どる。
靄が晴れたその先には王冠とぼろぼろのマントを身に纏い、その手に錫杖をもった全身骨の召喚獣が現れた。
「……本気ですか?」
「もちろん。僕はいつだって本気だよ」
【スカルキング】がその錫杖を振ると先ほどと同じように黒色の靄が現れ、そこから【スケルトン】が3体現れる。そのままレイに襲いかかるように突撃してきて――。
バンッ!バンッ!バンッ!
レイに届く前に頭を撃ち抜かれて消えていった。
「お~やるねぇ」
「何してくるかくらい分かりますよ。……元々その子を召喚するつもりだったので」
涼しい顔をして第一波を突破したレイにセブンは称賛の拍手を送る。
対するレイがさも当たり前のように【撃鉄:因幡】を取り出して【スカルキング】の召喚に対応できたのは、ひとえに今も渇望しているお気に入りモンスターであり、その特性を熟知していたからだった。
「なるほど、雑魚じゃ無理そうだね。じゃあこっちで行こう」
懲りた様子のないセブンは続いて赤色の魔法陣を呼び出す。先ほどよりも2回りほど大きな魔法陣から現れたのは全身に炎を纏った3メートルを超える大きさの骸骨だった。
・バーン・ザ・スカル!?
・めっちゃ強そう…
・まじで本気じゃん
「ウォォォォォォォォ!!!」
【灼熱の巨人骨】は地面が揺れるほどの大音量で咆哮すると、レイに向かって突進を開始する。
「嘘でしょ……!?」
対抗する技もなければ、避けられるほどのスペースもない。流石にどうしようもないと悟ったレイは衝撃に備え目を閉じ――るが、その時はいつまでたっても訪れなかった。
「ん?……何これ」
不思議に思って目を開けたレイは視界に入った情報にさらに困惑する。
そこにはいつの間にか現れた3メートル級の赤いマントを羽織った黒いクマのぬいぐるみが【灼熱の巨人骨】とがっぷり四つで組み合っている光景が広がっていた。
「えぇ?本当に何これ……?」
困惑するレイだったがその耳にどこからか友人の声が聞こえてくる。
「大丈夫?」
「え、ウサ!?」
後ろを振り返ると昨日と変わらない無表情の金髪ゴスロリ美少女がそこに立っていた。
「どうしてここに……」
「この子は【ヒーローくーまん】。あなたを助けに来た」
相変わらずマイペースに答えたウサだったが、レイはとりあえずこのクマがウサが出したものという事しか分からなかった。ただウサはそれだけ言うとセブンの方へと向き直る。
「久しぶり、セブン」
「誰かと思ったらゴスロリうさぎちゃんじゃん。何しに来たの?」
「友達に会いに。あなたこそ何をしてる?」
「いや別に?」
どうやら知り合いらしい二人は軽いやり取りをした後、しばらくの間無言で見つめっていた。先に根負けしたのはセブンだったようで、ぷいっと視線を外すと【ポータルストーン】を取り出す。
「あ~あ、なんか興が冷めちゃったな~。さっきの奴らリスキルして憂さ晴らしでもしてこよっと」
最後までマイペースに、セブンはじゃあね~と口にすると、体を青い炎で包んで姿を消す。それと同時に【灼熱の巨人骨】も同じように消えていき、場はしばしの間静寂に包まれる。
「一体何だったんだろ……」
「あの気まぐれの考えなんて気にしたら負け」
余りにも唐突なエンカウントから立ち直れていないレイにウサから慰め?の声が届く。
それでもしばらく、レイはその場から動けないでいた。
PLAYER【セブン】
本名:不明
身長:165cm
体重:51kg
好きなもの:自分、楽しいこと
黒髪ロングの清楚系美少女ながら、クソガキのような精神で相手を蹂躙しては視聴者を楽しませる超大物配信者。β時代からこのゲームをプレイしており、トッププレイヤーに数えられるほどで、チャンネル登録者数は驚異の100万人超えを達成している。
周りの考慮など1mmも考えずに好き勝手動くそのプレイスタイルは、まさに『ToY』の理念そのものであり、ついたあだ名は『魔王』。当然ファンと比例して相当数のアンチを抱えているが本人はあまり気にしていないどころかむしろそれを楽しんでいる。




