5-33 宝探しの終着点
「本当にここであってるんだよな?」
「多分……」
リボッタは目の前にある建物を見上げてレイに尋ねる。
そこに佇むのは『BAR』と書かれた看板を掲げた、ログハウスのようなお店。夜も深まっているせいか、以前訪れた時のような喧騒はなく静まり返ったそれを見て、レイは曖昧に頷く。
「場所はおおよそだから少しズレてる可能性はあるけど、まぁその時は外れてた時考えよ」
「……まぁ、そうだな」
レイの記憶を頼りに導き出した答えは『グランブルーム』の南側であり、まさしく目の前に存在する酒場辺りを指し示していた。それが正解かは分からないが、何かしら関係がありそうだと当たりを付けた二人は両開きのスイングドアを押して店内へと入る。
「何もない?」
中は当然明かりもともっておらず、人の気配などしなかった。外れかとレイは首を捻り、リボッタが声を掛ける。
「なぁ、やっぱり違うんじゃ――」
「なんだ……今日は客が……多いじゃねぇか……」
だが、それを遮る声が店内――カウンターの奥から響き渡る。聞き覚えのある、苦しげな声にレイが急いでカウンターを乗り越えると、そこにはお腹から血を流して座り込む男の姿。
「マスター!?どうしたのその傷!?」
「気にすん、な。死ぬほどじゃぁねぇ……。ちょっと、どじっちまっただけだ……」
「チッ、貸しだからな」
心配する声に乾いた笑みを浮かべるも、マスターは苦しそうに浅い呼吸を繰り返す。それを見かねたのか、近くに寄ってきたリボッタが【ハイポーション】を取り出し手渡すと、ゆっくりとそれを口に含み、呼吸を整えていく。
「助かる……。お前らもここに来たって事は……知ったんだな、『キャプテン・グリード』の過去を」
「……うん、見てきた」
『宝』ではなく『過去』と言い切ったマスターに、レイは神妙に頷く。何かしら事情を知っていることが確定し、これもイベントの一つだと理解すると、続く言葉を待った。
「だったら、頼む。俺の先祖の、心残りだ。アイツを……救ってやってくれ」
「俺の祖先……?」
だが続く言葉を素直に飲み込むことが出来なかった。浮かんできた疑問を代わりにリボッタが問いかける。
「なぁ、アンタは誰の子孫なんだよ?」
「……俺の名はグリード・ショット。名前の通り……キャプテン・グリードの末裔さ」
「え?」
「はぁ?」
そこで明かされたマスターの名前に二人は驚きの声を漏らす。そして先に立ち直ったリボッタが少しイラついた様子で語気を強めた。
「おいおい、じゃあオラジムは?まさか兄弟とか言うんじゃねぇだろうな?」
「ちげぇよ。もっと、シンプルだ。アイツが嘘をついてる。アイツは――」
「メガロ、だよね?」
一方で、持っている情報を整理したレイはその正体を見抜いて口にする。それを聞いたショットは「あぁ」と頷いてレイの方を見た。
「気付いていたか」
「誰だそのメガロって奴は?」
「リボッタは見てないっけ。過去の映像の中で、グリードの他に一人だけ名前で呼ばれていた奴がいたんだ。顔が似てたからもしかしたらって思ってたけど、まさか本当にそっちの子孫だなんて――」
「いや、違う」
一人だけ話についていけていないリボッタの質問にレイが答えていると、それを遮るようにショットが首を振る。
「え?違うってどういうこと?」
まさか否定されるとは思っていなかったレイは目を点にしたが、続く答えに今度は目を見開かされることになる。
「アイツは、子孫なんかじゃねぇ。アイツ自身がメガロだ。キャプテン・グリードの時代から300年は生きている、正真正銘の化け物だよ……!」
「なっ!?」
信じられない内容に、レイは思わず言葉を失う。慌てて背後を振り返れば、リボッタは状況はつかめていないようで、何が何だか分からないと言いたげな顔をしていた。
「奴は300年前、何か特別な力を手に入れたらしい。ほんの一欠片だけだったみたいだが、それでも人じゃ無くなるには十分だったみたいだ」
「おいおい待て待て、ついていけねぇよ!なんだよ特別な力って?それによって死んでねぇってことか?」
「悪いが、俺も詳しいことは分からねぇ……だがメガロの奴はずっと、それを狙っていて、俺達はそれを防いでいた」
どんどん進む話にリボッタが待ったをかけるも、時間がないのかショットは説明を止めることなく、せき込みながらも彼女達に何かを伝えようとしている。
「キャプテン・グリードはたっつん……聖獣の力を借りて、その場所を封印した。方法は俺達、末裔にだけ伝えられている、筈だった。だが、どこからか調べ上げたメガロによって、あの歌が広められたんだ……」
「あの歌って……『グリードの大冒険』?」
「そうだ。あれはグリードの軌跡を辿り、その意思を継げる人間にだけ、教える筈だったんだ……」
悔しそうに俯きこぶしを握り締めるショット。その痛まし気な姿に同情しつつも、リボッタは浮かんできた疑問を投げかける。
「ん?なぁ、オラジムーーメガロか。あいつは歌のこと知っていたんだろ?じゃあなんで自分で行かなかったんだ?」
「分からねぇ。それを調べようと、泳がせてたんだが……ははっ、まさかこんなに早く動きがあるなんてな……」
今度は自嘲気味に笑ったショットだったが、すぐに首を振って気を取り戻すと、レイの目を真っすぐに見る。
「なぁ、アレを見て、どう思った?」
「どうって……」
突然の質問に言葉を詰まらせたレイだったが、ショットのあまりにも真剣な目に姿勢を正し、ゆっくりと頭の中にある感情を吐き出していく。
「……キャプテン・グリードの気持ちなんてよく分からない。けど、とても仲が良くて、楽しそうで、仲間って感じがした」
「あぁ」
「さっき、『心残り』って言ったよね?グリードにとって全部、大切なモノなんだよね?」
「あぁ」
言葉を吐き出せば吐き出すほど、レイの感情が定まっていく。そして、力強い視線をショットに返しながらにこりと笑った。
「――だったら、私が守ってあげる。まぁ、大船に乗ったつもりでいてよ」
「そうか……」
その顔を見て、ショットはふっと笑みを零すと、カウンターの奥にある部屋を指さす。
「あの扉の奥が、最後だ。そこが『キャプテン・グリード』の冒険の終着点になる。……頼んだぞ」
「任せて!リボッタ、行こう!」
「お、おう!」
その言葉に力強く頷いたレイは立ち上がって奥の扉へと消えていく。その背中を、ショットは感慨深げに見続けていた。
[TOPIC]
NPC【グリード・ショット】
『キャプテン・グリード』の真の末裔。元々『海鳥の巣』はキャプテン・グリードが立ち上げたものであり、代々子孫がそこのマスターについている。
彼らの役割は聖獣であり、グリードの仲間でもある『たっつん』を守ることにあり、それに付随して封印されている強大な力を封印、いずれはそれを破壊してくれる者を探し出すことにあった。




