5-32 夜はまだまだ終わらない
[デスいたしました。ペナルティが付与されます]
目を醒ましたレイの目の前には自身が死んでリスポーンした証が表示されていた。何度目にしたか分からないそれを目にしつつもレイはゆっくりと体を起こす。
そこはビジネスホテルの一室のような場所。セミダブルサイズの大きなベッドに、クローゼットは机が備え付けられ、広めの部屋は一人で使用するにはかなり豪華な印象がある。
また、壁には大きめの丸い窓が備え付けてあり、そこから港や海の景色が目に映る。朝であればエメラルドブルーに輝く様子が映えるのだろう、その2点だけでも良い値段の部屋に泊まっていることが窺えた。
「あぁ、私死んだのか」
どこか茫然とした様子でベッドから立ち上がったレイは覚えている寸前の事を思い浮かべる。これと言った致命傷は受けなかった筈がリスポーンしているという事実に、その途方もない難易度の高さに唸った。
「【極凍】だっけ、多分それが原因なんだろうけど……。状態異常は効かない筈なんだけどなぁ」
考えるも仕組みが分からない以上どうしようもなく、もう少し色々な所に注視しておけばと後悔するレイ。
「もう一回戦いたい――っとそんな場合じゃないんだった」
ただ、それ以上にやらなければいけないことを思い出したレイは急いで部屋を出て外を目指す。
扉を開け、豪華な薄茶色の絨毯の上を歩きながらエレベーターの前へと辿り着くと、下矢印のボタンを押して、メニュー画面を開く。
「あ、もしもしリボッタ?今どこにいる?」
そのまま連絡先に選んだのは協力者であるとある商人。その名を呼びつつ状況を窺うと、同時にポーンと高い音を立ててエレベーターから到着した。
「『……お前こそどこに――』」
「あ」
目の前のウィンドウから聞こえる声と開いたドアの先から聞こえる声が重複しており、レイが顔を上げると、そこには同じように目を点にしたリボッタの姿があった。
「お前……早くないか?」
「まぁ色々あってね。そっちは何でここに?ハッチは?」
「あー……」
お互いが頭にハテナマークを浮かべながらも事情を尋ね合うと、リボッタは言い辛そうにしながらもぽつりと理由を述べた。
「ハッチにやられたんだよ。対面はしたが時間稼ぎにもならなかった」
「え~?」
「しょうがねえだろ!こっちは商人だぞ!」
その答えに不満げな声を上げたレイに、リボッタは逆ギレするように声を張り上げる。ただレイはそれに取り合うことなく、エレベーターの中へと入った。
「まぁ知ってたからいいや。どこに向かったか分かる?」
「おまっ……いや、港で対面してからの行方が分からねえ」
「しょうがないしょうがない。というか私が言える事じゃないしね。そんな事より、どうする?」
思いの他軽い調子で返したレイにリボッタはペースを乱されつつも、それを飲み込んで次の話を始める。
「そうだな……まずはお前の方で起きたことを教えてくれ。そっからだろ」
「オッケー、じゃあ別れたところから」
エレベーターからまた音が鳴り、一階へと到着する。ただ二人は立ち止まることなく、歩を進めつつも、レイはぽつぽつと最後の島にてその身に降りかかった出来事を話していった。
――最後の島でハッチと落ち合い、クランを無力化したこと。
――問題なくカードを手に入れ、そこでハッチに裏切られたこと。
――そして、『海賊連合』に囲まれ、レイドボスに全滅させられたこと。
静かに、時には頷きつつもその話をリボッタは聞いており、すべてが聞き終わった段階でようやく口を開く。
「レイドモンスターとぶつかったのか。それも気になるが、そうか……」
その話が予想外だったのか、少しだけ驚いた様子を見せつつも、顎に手を当てて思考する。そして本題からそれることなく、疑問に思った点をレイに対して問いかけた。
「カードは全部透明だったのか?」
「いや、ヒョウタンのマーク――多分『グランブルーム』かな、それだけは金色だった」
「なるほど、一枚だけ金で残りは透明か。それに様々なマーク……確か大きさも一緒だったんだよな?」
「うん、しっかりとは合わせてないけど」
「そうか、だったら一つだけ思う事がある」
「ほう、その心は?」
数点確認をとったリボッタは、暫しの間長考した後、あっているか分からないがと保険を掛けつつ、たどり着いた結論をレイに告げる。
「おそらくカードを重ねるんだ。マークの色は黒だったんだろ?だったら、その黒い部分は取り除かれていって、『グランブルーム』のどこか――最後に残った金色の場所に何かあるんじゃないか?」
「なるほど……ハッチもここに来てるみたいだし、可能性は高いね」
それを聞いたレイも内容を吟味して、一理あると結論付けた。だが、リボッタの方はそこで頭を掻いてため息を零す。
「と言ってももう確認する方法はないんだがな……」
「それは大丈夫、ねぇなんか書くものない?それと、確か『グランブルーム』の大きな地図あったよね?貸してくれない?」
そんなリボッタにレイは軽い調子で尋ねると、ホテルの一階エントランスルームにあるテーブルへと腰を下ろす。
その態度に一瞬怪訝な表情を浮かべたリボッタだったが、すぐさまその意図を察する。
「別にいいが……お前まさか」
「うん、覚えてるから」
「……ははっ、流石だな」
さも当然と言わんばかりに言ってのけたレイに、リボッタは乾いた笑みを浮かべつつもアイテムポーチから一本のペンと地図を取り出してレイに手渡す。
「ありがと。えーっと、まずは火のマーク……それから雫に木……後はコイン見ながら書けば……」
それを受け取ったレイはすぐさまテーブルの上に地図を開くと、記憶を辿りながら地図の上にマークを描いていく。
手に入れた順番通りに、決して完璧とはいかないまでも差分なく地図に書き込んでいき、グランブルームを黒く染めていった。
「――ねぇ、これって」
「あぁ?……マジかよ」
そうして浮かび上がってきたおおよその場所。地図の一点のみが黒く染まっていないそこを見てレイが尋ねると、リボッタも同様に声を詰まらせる。
何故なら、そこは――。
[TOPIC]
WORD【ホテル ニューオーシャン】
港に一番近い、グランブルームの顔とも言えるべき高級宿屋。
一泊5000Gかかり、泊まるだけで箔が付くと商人プレイヤー達の間で囁かれている。
フィールドに一番近いという利点や、現実の高級ホテルに引けを取らないサービスを受けられるという希少性の他にも、ホテルで食べられるランチやディナーは別途料金がかかるものの、一時的にプレイヤーのステータスを上昇させることが出来るため、攻略組からも人気の宿屋。




