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5-30 大海決戦、その前触れ


「――ぶはっ!はぁはぁはぁ……」


 ハッチが逃げ去り、静寂の訪れた湖から再び波紋が生まれる。


 顔を出したのは銀髪の少女。苦悶の表情を浮かべ、苦し気な声を出しつつも何とか岸を掴んで陸へと上がると、四つん這いになって荒い息を吐く。


「油断した……!このタイミングでくるのか……!」


 心の片隅に留めていた事ではあった。ハッチが完全に仲間になっととも思っていない上、いつかはこうなるだろうと分かった上での協力関係なのは重々承知していたが、これ以上ないタイミングでの裏切りに虚を突かれ、結果的に一杯食わされてしまった事にレイは歯噛みする。


「絶対に許さん……とにかくリボッタに連絡しなきゃ」


 それでも何とか気を取り直してやるべきことを再認識すると、急いでリボッタへと連絡を取った。


『おう、どうした。何か問題でも?』


「ハッチが裏切った。潜水艦と手に入れたカード奪って逃げてる」


『……はぁ、だから言ったのによぉ』


 報告を聞いたリボッタはこれ見よがしに溜息を吐いたものの、レイと同じように分かっていたのかそこまで驚いた様子はない。


「ごめんって。それで、どこ向かってる?」


『今調べる。潜水艦はっと――この航路……』


 当然対策もいくつか施しており、所有者であるリボッタには潜水艦の居場所がマップに表示されるよう小細工をしていた。それを利用してハッチの現在地を突き止めたリボッタはそこでようやく驚いた声を上げる。


「どこ?勿体ぶらないで教えてよ」


『そんなつもりはねぇんだが……。場所は恐らく『グランブルーム』、だと思う』


「『グランブルーム』?なんでまた?」


 耳にしたその場所にレイもまた、予想外の場所に首を捻る。だがその答えを出すには情報が少なすぎるようだった。


『分からねぇ。そっちで分かったことはないのか?』


「特には……その前に全部取り上げられたからね」


『チッ、しゃあねぇ。だがこっちに向かっては来てるみてぇだから、さっさと戻って来いよ』


「あー、5分はかかるかも」


『あぁ?』


 結局出来ることはハッチを追いかける事だけだと結論付けた二人は『グランブルーム』で合流することを選択する。ただ、どこか煮え切らない様子で言葉を返すレイに、リボッタは怪訝な声を上げた。


『デスルーラすりゃ即だろうが。あの犬っころに爆発させたらいい』


「ここだけの話、じゃしんも連れ去られちゃって……」


『……はぁ、じゃあ水の中飛び込めば……っとそういえば苦手なんだったか』


 呆れつつもおおよその事情を把握したリボッタ。それに対しレイはアハハと誤魔化すように笑う。


「そういうこと。だから悪いけど、最短で5分かかるからそっちで何とか足止めしといて」


『はぁ!?そんなの無――』


 無茶振りなのは重々承知の上、レイは言葉を聞く前にコールを切る。そこには『どうしようもないから』という考えが多分に含まれていたが、それ以上にやらなければいけないことが出来たようだった。


 ウー!ウー!


 突如島中に警報が鳴り響く。どうやらクランコアが復旧したのだろう、それと共に明かりを取り戻し、サーチライトが侵入者を探し出す。


「時間は無いか……こんなにも早く出番が来るとはね――イブル!」


『お呼びですかいご主人様ァ!』


 一刻も早くこの場を去る必要を感じたレイは渋々ながらも腰にある本のベルトを解く。瞬間響く喧しい返事の声。


「ホンットーに不本意だけどね。あの羽生える奴よろしく」


『なんと!……ふっふっふ、やはりあっしの有能さに気が付いて――』


「はいはい、そういうの良いから」


 呼ばれたことにニヤニヤと嬉しそうにするイブルを適当にあしらいつつ、レイは【邪法:黄泉ノ翼】を発動する。するとイブルの背表紙と表表紙の部分から黒色の翼が飛び出し、レイの背中へと張り付いてその体を浮かした。


『そういえばじゃしん様はどちらに?』


「誘拐されたんだよ」


『なんですとぉ!?』


 その最中、ふと思い出したかのように告げたイブルに軽い言葉で返すレイ。それを聞いた途端に叫び声を上げたかと思うと、取り乱したかのように速度を上げて不規則に動き回る。


「ちょ、ちょっと落ち着いてってば!今から助けに行くから!」


『どこ!?何処に行けばいいんですかい!?』


「北西方向に真っすぐ!こっちの体力は気にしなくていいから全速力で!」


『あいあいさァ!飛ばしますよ――ッ!?』


 だが宥めるようなレイの声を受け取り、何とか冷静さを取り戻したイブルは指示の通り、北西へと体を向け――何かを避けるようにその場を飛び退いた。


「うわぁ!?」


『何ですかい急にィ!』


「まーた変なのつけてんな『きょうじん』」


「キッド!」


 そこを通過したのは圧縮された空気の塊。それが飛んできた方向に目を向ければ、何十隻もの船を引き連れてこちらへと向かってくるキッドの姿。


「今よ」


「ッ、これは……?」


 そちらに目を奪われていれば、今度はレイの耳にオペラのような綺麗な合唱が届く。余りにも場違いな、その美しい音楽に呆気に取られていると、広範囲の海域を囲うようにドーム状の結界が出現する。


「【さえずる(チャ―ピング)鳥籠(・バードケージ)】。これが発動している以上、外に逃げることは不可能、あんたに逃げ道はないわ」


「【黄昏の人魚】……」


 【海鬼団】とは別方面の海原から現れたもう一つの艦隊。人魚をモチーフにした船首を付けたその船団こそ歌の発生源であり、その先頭には憤怒の表情を浮かべた女性――ポニーの姿があった。


「『闇商人』はどこ?」


「え?」


「『闇商人』はどこだって聞いてんだ!あの島を造るのにどれだけかかったと思ってる!?キャプテングリードの宝なんざどうだっていい!あいつだけはぶっ潰す……!」


「それ私関係ない――」


「黙れ!あんたも同罪だわ!」


「えぇ……」


「おーおー、口調崩れてんなぁ」


 どうやらその怒りの矛先はリボッタにすべて向いているようではあるが、レイの事も見逃すつもりはないようだった。


 右前方ではカラカラと笑うキッド率いる【海鬼団】、左前方には憤怒の表情を浮かべるポニー率いる【黄昏の人魚】。そして――。


「まさか鼠がまぎれていたとはな、想定外だった。だがこのままでは終わらんよ」


「……次から次へと」


 背後から聞こえる声にレイはいよいよ辟易した様子を見せる。そこにはたった一隻が存在し、比べ物にならないほど超ド級の大きさを誇っていた。


 現実では考えられない、通常の帆船の十数倍を誇る軍艦には何百もの主砲や機銃が備わっており、船体から飛び立った戦闘機のような乗り物がレイと同じ目線で飛行している。


「ちなみに、私も出し抜かれて焦ってるって言ったら?」


「ほう、興味深い。捕縛した後、牢の中でゆっくりと聞かせてもらおう」


「潰す……!」


「いいねぇ、祭りっぽくなってきた!」


 ダメ元で放った言葉に対しても、誰一人聞く耳を持たない。周囲を囲まれ、逃げ道を失った状況の中でレイは覚悟を決めたようにイブルに呟く。


「イブル、作戦変更。一先ず逃げ優先で、潰せそうならあの人魚の奴等を狙うよ」


『了解でさァ。全力で行って良いんですね?』


「もちろん。捕まるのだけは絶対避けて」


 念押ししイブルの返事を聞いたレイは気持ちを切り替えるように大きく息を吸い、そして白い息(・・・)を吐く。


「――ん?」


 それは些細で、僅かな違和感。だが、今まではあり得なかった明確な異常にレイは動きを止め、その違和感は他のプレイヤーにも伝播していく。


「何だこれ」


「さっむ――え、なんでだ?」


「お、おい雪降ってんぞ!?」


「ま、まさか……」


 誰かが言った一言に空を見上げれば、ぽつぽつと舞い散る白い雪。遥か上空はいつの間にか白く輝く分厚い雲に覆われ、いち早く気が付いたポニーがそれを見て震えた声を出す。


 そして遅れて数秒後、目の前に表示されたウィンドウに、その場にいた全員が例外なく思考を停止させた。


[Worning!]

・レイドモンスター出現

【積乱霰帝 ヨトゥン】


[レイドモンスターが出現しました!周囲のプレイヤーと協力し、撃破してください――]


 白き巨人が、姿を現す。


[TOPIC]

SKILL【さえずる鳥籠】

そのさえずりは心を癒し、極楽へと誘う。終わりを迎えるその時まで。

CT:-

効果①:一定の範囲にドーム状の結界を展開

効果②:ドーム内外への移動不可


取得条件:職業【指揮者】Lv20にて取得

発動条件:スキル発動後、職業【歌い手】を持つプレイヤー20名が静止状態

※静止状態が解除された場合、スキルを解除


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― 新着の感想 ―
[一言] 環境を変化させるレイドボス……うまく立ち回れば追い風になりそうですね それと、[TOPIC]の解除条件のところ、「静止状態された場合」でなく、[静止状態が解除された場合」では?
[一言] 更新お疲れ様です! うん、本当に最悪なタイミングでしたね、、、 やはり切ったか最終手段、、、 そして、、、、ここで連合という数の暴力を取られた、、うわぁ、、、 凄まじく恨まれて草です、、、頑…
[一言] ある意味助かった?
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