5-29 『我らの誓いは金貨にのせて』
「お知らせ」
仕事が忙しく、執筆時間が安定してとれておりません。
そのため今後更新頻度が落ちてしまうことが予想されます。
2日に一回は上げたいなと思いますが、読者の皆様には何卒ご理解していただければ……。
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『他二つの島はなんとかなるとして、問題はあの基地だよね』
『だな。さてどうしたもんか……』
『私が何とかします』
『いや、話聞いてたか?あの島はマジで隙がない上に中にいる奴らもは話を聞かねぇ馬鹿ばっかしだ。一人じゃ難しいだろ』
『私もそう思う。あそこは他二つの海賊団もぶつけて乱戦にするのがいいのかなと思うけど』
『それだと不測の事態に入り込む余地が多すぎます。何、もっと確実な方法があるんですよ』
『……ほう、そこまで言うなら聞かせてもらおうか』
『当然。あの手のクラン島や施設――戦闘や防衛を想定した場所は強力でありながら相応のコストと弱点が存在します』
『コスト……って事はお金がかかるんだ』
『はい、それから素材もいくつか。まぁそれは今回関係ないのでおいておくとして、問題は弱点の方、クランコアと呼ばれる存在です』
『クランコアだぁ?』
『えぇ、クランコアとはその名の通り、クラン施設の核となるものです。主にクラン同士のバトルの際に勝敗を付けるものとして使われておりまして、その効果は――』
『確かクラン施設のエネルギータンク、みたいな感じだったよね』
『その通りです。ご存じだったのですか』
『丁度タイミング良く話を聞く機会があってね。どっかの誰かと違って友達がいるから』
『あぁ?煽ってんのか?』
『ははは。とにかく、それを壊せば一時的ではありますがクランの機能をすべて停止させることが出来ます。そうすれば、施設に頼りきりのあの島は簡単に攻略できるはずです』
『壊すって……簡単に言うけどどうやって?』
『予め侵入します。なに、私は『大怪盗』ですから』
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「あの時は正気を疑ったけど、まさか本当にやってのけるとはね」
「ふふふ、『大怪盗』ですので。侵入はお手の物ですよ」
3日前の作戦会議にてハッチが放った一言を思い出しながらも、レイは辺りを見渡して賞賛の言葉を口に出す。あれだけ困難とされていた要塞を一瞬で無力化したことに驚きつつも、レイは本来の目的を尋ねた。
「それで目的の場所は?」
「この先です」
指を指したハッチは先導するように走り出し、レイもまたその背後を着いていくように動き出す。道中には【007艦隊】プレイヤーと思しき足音が聞こえるも、暗闇なことと、喧騒で紛れられたのが功を奏したのか、見つかることなく目的の場所――島の中心に広がる湖へと辿り着く。
「ここが湖か。『金貨』をっと」
レイが取り出したのは中央に海賊帽を被った男性の描かれた、金色に輝く硬貨。それは『グランブルーム』に行けばどこでも買える【キャプテンコイン】と呼ばれるアイテムだった。
何の効果も持たないため、所謂収集用のおまけアイテム程度の認識しかされていなかったが、レイ達を含む事情を知る一部のプレイヤーの中にはその重要性に気が付いている者も存在し、彼らにとっては紛う事なきお宝であった。
「オッケー。じゃあ入れるよ」
「お願いします」
「ぎゃう!」
【キャプテンコイン】を握りしめたレイは一度確認のために振り返り、反対の声が出ないことを確認してから勢いよく放り投げる。
美しい放物線を描いて飛んでいく金貨はやがて水飛沫を上げながら湖へと着水し、それによって起きた波紋が次第に白んでいき、一つのシーンを映し出す。
『お頭、全員投げ終わりましたよ』
『おぉ、そうか。じゃあ最後は俺の番、だな』
一人ずつ、自身の思いを叫びながら湖に何かを投げている中、最後の一人が投げ終えると、そのまま座っていたグリードを呼ぶ。
『あっという間だった。本当に……』
その言葉に立ち上がり、入れ替わるように湖の前に立ったグリードは金貨を強く握りしめながら感慨深げにつぶやく。
『……お頭、それならまだ続けても』
『いや、やりてぇことはやり尽くしたさ。これ以上は蛇足だ』
そこに未練が残る船員の一人が話しかけるも、その誘惑を立ち切るように首を振り、手に持ったコインを全力で投げた。
ポチャン、と寂しい音を立てながら水の中に落ちていったコイン。やがて波紋もなくなり、湖に静寂が訪れた時、グリードは振り返ってにかっと笑う。
『うし!これにてグリード海賊団は解散する!お前ら、達者でやれよ!』
『お頭ぁ~~~!!!』
宣言と共に、ほぼすべての船員たちは涙を流してグリードに詰め寄る。嗚咽交じりで何言ってるか分からない彼らを笑顔で迎え入れつつも、一人反対方向へと歩く青年に声を掛ける。
『おい、メガロ!欲に溺れねぇようにな!』
『余計なお世話ですよ』
揶揄うような激励の言葉に薄く笑って返したメガロはそのまま反対方向へと進み、一人島から離れていく。その後ろ姿をグリードが複雑な目で追っていると近くにタツノオトシゴが寄ってきた。
『くるる~』
『おう、たっつんもありがとな。……大丈夫、わーってるよ』
どこか心配そうな鳴き声にグリードは反省するように頭をガシガシとかくと、たっつんに言葉を返す。
『アレは手に入れちゃならねぇもんだ。何とかしねぇといけねぇのも分かってる』
『くるる~……』
『心配すんなって』
それを聞いて余計落ち込んでしまったたっつんを励ますように、グリードは笑いかけながら言葉を続けた。
『いつかきっとお前と一緒に戦ってくれる奴が現れる。あの力にも屈しない、スゲェ奴がな。そん時を気長に待てばいいさ』
『くるる~?』
見上げる視線にグリードは笑みを深めると、冗談めかして高らかに笑う。
『ま、俺の目が黒い内はこの海で好き勝手させないがな!』
『くるる~!』
そして映像はどんどんと薄くなっていき、やがて何の変哲もない湖へと姿を戻す。それを見終えたレイはその場にしゃがみこんだ。
「戦う者……ってのが求められてるのかな。それからメガロって人やっぱり怪しいかも」
感想を呟きつつ湖に目を凝らせば、僅かな波に揺れるようにこちらへと向かってくる透明なカード。手を伸ばしてそれを拾い上げれば、手のひらには2枚のカードが握られている。
「最後はグリードの顔か。それからこっちは――グランブルーム?」
描かれていたのは【キャプテンコイン】にも刻まれたグリードの顔に、瓢箪のようなマーク。何度も見たマークだったため、レイはすぐさまその正体にアタリをつける。
「取り敢えず全部のマークを出してみては?」
「あぁ、そうだね」
ハッチの指摘に頷いたレイはそれぞれの街で手に入れた3枚のカードも取り出す。
そうして集まったのは5枚のカード。焚火を模したカード、雫を模したカード、樹を模したカード、グリードを模したカード、そしてグランブルームの全体図を模したカード。
「4つは黒で塗り潰されてるのに、なんでこれだけ金?共通点もよく分かんないし……う~ん……」
疑問は浮かべど答えに辿り着かない事に、もどかしさと苛立ちを覚えるレイ。刻一刻とすぎる時間に焦りを覚える中、ポツリと背後で声が聞こえた。
「――あぁ、そういうことですか」
その呟きにレイが振り返ると、ハッチは鷹揚に頷きながら手を伸ばす。
「何か分かったの?」
「えぇ、こちらをよく見てください――」
そして横から覗き込むように指を指し、レイもじゃしんもその指を注視する。――意識が集中し、完全に油断した状況の中、『大怪盗』が動いた。
「【スティール】」
「は?」
「ぎゃう!?」
レイのアイテムポーチに手を翳しながら呟かれた言葉にレイが振り替える――その前に、ハッチは彼女の背中を蹴ると、近くにいたじゃしんの首に腕を回すと、そのまま引きながら大きく距離をとった。
「……どういうつもり?」
「時が来ただけです。これ以上ない最高のタイミングですので」
突然の暴挙にレイが体勢を立て直して睨みつけると、ハッチはニコニコと機嫌がよさそうに笑っており、暴れるじゃしんを腕でしっかりと固定しつつ、もう片方の手には5枚のカードが握られている。
「私は先にこの島を脱出させて頂きますので、レイさんは時間稼ぎでもしておいて下さい」
「はい、分かりました。とでも言うと思ってる?」
余りにも一方的な要求にレイは思わず目を細めるも、ハッチは飄々とした態度で怯んだ様子もなく、さも当然と言わんばかりに首を振る。
「いいえ。ただこの子無しのあなたが怖いとも思えませんので。ただそうですね、確か――水が苦手なんですよね?」
「うぐっ!?」
「ぎゃう!?」
ハッチが手をかざすと同時に発生した突風はレイの態勢を容易に崩し、そのまま背後にある湖に向けてレイの体を運ぶ。
「ここまでありがとうございました。後はお任せください――では、いずれまた」
「ぎゃう~!」
傾いていく視界の中に映るのはこの場を立ち去るハッチとそれに抱えられてこちらに手を伸ばすじゃしんの姿。その慟哭にも似た鳴き声を掻き消すかのように、バシャンと無慈悲な音が鳴り響いた。
[TOPIC]
ITEM【キャプテンコイン】
言わずと知れたグランブルームの名物お土産。主に少年から根強い人気がある。
効果①:-




