5-28 最後の島には正面から
トロピカルアイランドを出て数分、遠目にうっすら目的の島を確認すると、後ろに乗っていたじゃしんが声を上げながらレイの頭を叩く。
「ぎゃうぎゃーう!」
「はいはい、分かってるってば。あれが最後の島だね」
瞳に映るのはコンクリートの壁で囲われた要塞のような島。計6つの灯台のような形をした見張り台からは侵入者を探すかのようにサーチライトが海上を照らしており、壁面からはこれでもかと大砲の砲身が突き出している。
「これは凄いね……正面突破は厳しそう」
「ぎゃう……」
圧巻とも言えるその難攻不落っぷりに気圧される、というより感心したようにため息を零すレイとじゃしん。潜水艦中で次の行動について考えていると、突然目の前にウィンドウが表示された。
『ようこそ、招かれざる者。できれば海上に上がってきてほしいのだが』
「――っと、そりゃバレてるか」
『No Image』と書かれた画面から聞こえるノイズ交じりの音声に、レイは既に場所を捕捉されていることを理解し、抵抗することなく高度を上げる。そのまま海面へと船体を出すと、途端に多数の光がスポットライトのように潜水艦を照らしており、上空にはまるでプロジェクションマッピングでもしているかのように、一人の男性の姿が映し出されていた。
『初めましてといえばいいか、『きょうじん』よ』
「そうなるかな、『司令官』さん」
猛禽類の鳥を模したような金色のマークを前面に付けた、白い将官用の帽子を被った年老いた男性はサンタクロースのような立派な白い髭を蓄え、キセルを咥えつつレイの事を名指する。
対するレイも彼の事を知っているようで、特に驚いた様子もなく言葉を返した。
『私の事を知っているのか』
「そりゃあね。【007艦隊】のイソーロと言えばこの海で知らない人は居ないよ」
『そうか。であれば話が早い』
社交辞令も兼ねた、お互いが探り合うやり取りの後、イソーロは煙を吐きだしながらレイに対して通告する。
『単刀直入に言う。君をこの島に入れるつもりはない。さっさと帰り給え』
「ふぅん」
あまりにも一方的で威圧的なイソーロの言葉。ただレイはそれに屈することはなく、おどけつつも噛みつくように言い返す。
「『八傑同盟』に入ってるのにそんな事言うんだ?ギークが聞いたらなんて言うかな」
『ふんっ、貴様らに屈した奴など怖くもないわ。結局己の身は己しか守れん』
一方でイソーロもその嫌みのような言葉を一笑に付すと、恐れるに足らないと言わないばかりに尊大にふんぞり返り、改めて言い聞かせるように言葉を放つ。
『ここは我々の島で重要な拠点である。加えて、貴様がこの島に眠る『キャプテン・グリードの宝』の謎を探ろうとしている事も知っているのだ。そんな奴をわざわざ入れると思うか?』
「私だったら絶対に入れないかな」
『……何だ分かっているではないか。では大人しくこの場から立ち去れ。そうすれば此方からは――』
「けどね」
思いのほかに聞き分けの良い態度に拍子抜けしつつも、イソーロが妥協案ともとれる内容を発したタイミングで、それを遮るようにレイから待ったが掛かった。
「悪いけど私、それくらいの事で諦めたりする気はないんだよね。特に私の憧れの人はそうするだろうし」
『……下らん。所詮は愚か者か』
力強く確かな意思を持った言葉に、イソーロはわずかに気圧される。だがすぐさま不快げに眉間にしわを寄せると、最後通牒をレイへと叩きつける。
『では我々の敵とみなしてよいのだな。言っておくが貴様らの位置など疾うに把握済みだぞ?私が一度指示を出せばすぐさま海の藻屑となろう』
「へぇ、そりゃ怖い」
『それが答えか』
もちろんそれを聞いたところでレイの覚悟が揺らぐわけもなく、寧ろ煽るようにへらへらと笑いながら肩を竦めている。その態度に最早会話は無駄だと悟ったイソーロは周囲にいるであろうクランメンバーに号令をかけた。
『総員攻撃準備。身の程を知らない馬鹿に現実を教えてやれ』
その言葉と共に壁から突き出た砲身が一斉に潜水艦を捉える。まさに絶体絶命の状況の中で、それでもレイは不敵な笑みを浮かべて挑発した。
「こんなので腹立てるなんて、意外と器小さいんだね」
『ふんっ減らず口を。遺言はそれだけか?』
「じゃあ一つだけ。私達を舐めすぎ」
『? 何を――』
その言葉の真意を尋ねる前にバツンッ!と何かが切れる音が響き渡り、同時に眩しい位に輝いていた島の光が一斉に消えて辺りは夜の暗闇に包まれる。
自身を照らしていた光も消えたことを確認したレイは再び潜水艦を海へと沈めて前進を開始する。数秒遅れて彼女の背後に大砲の弾が着弾したと思われる水飛沫が上がったが、当然掠る事すらなく、振り返ることもないままにレイはフレンドへと連絡を飛ばす。
「おつかれ。これどこから入れる?」
『どこからでも。正面から堂々と行けますよ』
「了解」
数コールの後、彼女の耳に声変わりしていない少年のようなアルトボイスが聞こえており、その自信を多分に含んだ声に返事をすると、レイは真っすぐ最短距離で島へと船を進める。
そうして眼前に現れたのは彼女の背丈の何十倍もある鋼鉄の門。彼女達の道を塞ぐように聳え立つその扉は来客を拒むように固く閉ざされており、外側からの侵入は容易ではない筈なのだが――。
……ゴゴゴッ
レイの乗る潜水艦が目の前に到着したと同時に、歓迎するかのように内側から開いていく巨大な門。それによって生じる歪みで揺れる海面をレイはものともせずに堂々と侵入を果たす。
「船旅お疲れ様です、レイさん」
「そっちこそ、出迎えご苦労ってね」
そして整備された船着き場に潜水艦を付けて陸に上がると、白を基調とした水兵の服に身を纏った少年が出迎える。ただし、その顔は怪しげな仮面で隠されていた。
[TOPIC]
WORD【第007海軍基地】
その名の通り【007艦隊】のクラン島であり、自称〝海軍総本部〟。
島全てを城壁のような鋼鉄の壁で囲っており、六角形の囲いの先端に存在する灯台によって夜であってもキラキラと輝いているため非常に目立つ。またクラン島の機能の一つである『レーダー索敵』も実装しているため、会場からの侵入が非常に困難なまさに難攻不落の要塞。




