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5-26 闇商人との取引は


 女性の背についていった結果、リボッタ達が辿り着いたのは最初に訪れたとあるバーであった。


「奥の部屋空いているかしら」


「! えぇ、ご案内させていただきます」


 女性が声を掛けるとカウンターに立っていた店員は礼儀正しく頷いて階段へと向かう。


一瞬リボッタに対して懐疑的な目を向けたものの、個人的な感情だったためかそれを口に出すことはなく仕事に徹する店員。その後ろを歩き、やがて彼らはとある部屋へと入る。


 そこは全面ガラス張りとなっており、トロピカルアイランドに存在するお店を一望できるようになっていた。外から見た時は木の壁だったため、所謂マジックミラーのような仕様だろうとリボッタは推測する。


「いいでしょココ、私のお気に入りなの。関係者以外立ち入り禁止にしてるの」


「確かに、前はこんないい所じゃなかったけどな」


「ふふっ、拗ねてるのかしら」


 自慢するような声にリボッタが皮肉で返すと、あくまで余裕な態度を崩さずに女性は笑って椅子に腰を掛ける。警戒しながらも、それに続くようにリボッタ達も対面に座った。


「お酒でも飲む?奢るわよ」


「そりゃ魅力的な提案だが、さっきたらふく飲んできたんでな」


「あら残念。じゃあトロピカルジュースを三つ」


「かしこまりました」


 少しも残念そうでない声音で注文すると、傍に立っていた店員は再度礼をして部屋から出て行く。そしてバタンと扉が閉じる音と共に、女性が二人に向かって話しかける。


「改めて自己紹介でも。私はポニー、【黄昏の人魚】のクランリーダーをやっているわ。リボッタとは話したことがあるから問題ないとして、そちらがレイちゃんでいいのかしら?」


「…………」


 自らをポニーと名乗った女性がリボッタの隣に座るフードを被ったプレイヤーに声を掛けるも、残念ながら返答はない。そのことにポニーは肩を竦めると、不機嫌な表情で背もたれに肩を預けて仰け反った姿勢のリボッタに向きなおる。


「何、この子ってシャイなの?」


「そんな事ねぇんだがな。テメェの事を警戒してるんじゃねぇか?」


「それは悲しいわ……仲良くしたいのだけれど……」


 頬に手を当てて悲し気に目を伏せるポニーだが、やはり反応はなかった。それに対し一瞬複雑な表情を見せつつも、諦めたのかリボッタへと視線を固定させ本題へと移る。


「……まぁいいわ。それで話したいことがあるのだけれど」


「『キャプテン・グリードの宝』の事だろ」


「あら、分かってるのね」


「分からねぇ訳ねェだろうが」


 にこりと笑うポニーにケッと悪態をつくリボッタ。明らかに温度差のある二人だが、それに取り合うことなくポニーは続ける。


「なら話が早いわ。改めて、協力しない?」


「しねェ」


 そして口に出された提案にリボッタは即答する。


「どうして?前は貴方の方から求めてくれたのに」


「紛らわしい言い方すんな。それに断ったのはテメェの方だろうがよ」


「それは条件が悪かったからよ。ほとんどこっちに厄介事押し付けようとしてたじゃない」


「こっちが情報を持ってたからな。その後テメェがやったこと覚えてるか?」


「地図を奪おうとしたこと?だって――って、これじゃ話が進まないわ」


 それでも勧誘を続けようとしたポニーだったが、リボッタは話を聞いている素振りすら見せずに、それどころか前回の確執を持ち出して敵意をむき出しにしていた。それに対抗しようと口を開いたポニーは話が逸れ始めたことを自覚して首を振って軌道修正する。


「とにかく、私が言いたいのはあの時とは状況が変わったって事。全員が情報を手に入れてしまった以上、私達の所が武力的には劣っているのは確実よ。そのためには少しでも協力者が欲しいのよ」


「俺達にメリットがねェって言ってんだよ」


「あるわ。私達と協力してくれるなら貴方達の下につく。もちろん、報酬は全部貴方達が持って行っていいわ」


「ほう?」


 その言葉にリボッタはようやく興味を持ったように眉を上げ、それを見たポニーはしめたと言わんばかりに畳みかける。


「正直、宝には興味がないのよ。私達が欲しいのは『一番の海賊である』という称号なの」


「理解できねぇな」


「別に理解できなくてもいいわ。一年間、誰が一番かが決まる事がなかった順位をようやく決められるのよ、私達は逃したくないの。そのためなら何でもするわ」


「なるほどねぇ……」


 初めて感情を剥き出しにしたポニーの態度にリボッタは考えるように言葉を籠らせる。そして――。


「確かにそれなら他にはないメリットに成り得る」


「でしょ?そしたら――」


「当然、断る」


 そして逡巡の後、鼻で笑うかのように否定の言葉を口にした。途端に曇るポニーの顔。


「……どうして?あなた達だけで『海賊連合』を相手取って上手くいくのは五分と言った所かしら、3対1から2対2の構図になるだけでも確率がぐっと上がると思うのだけれど」


「まず一つ」


 食い下がるポニーにリボッタは指を立てながら説明する。


「テメェ等を信用できない。必要もない。二つ、これ以上読めない人間(・・・・・・)を増やして疲れたくない。そして三つ」


 そこで一つ区切ったリボッタは獰猛に歯を見せながら笑うと、高らかに宣言した。


「海賊ごっこして楽しんでいるような奴等が、本物に勝てる訳がない。どれだけ有象無象が束になろう(・・・・・・・・・・)とどうにかできるレベルじゃねぇんだよ」


「なんですって?」


 その言葉に怒りを滲ませるポニー。明らかに挑発と取れる言葉に一触触発の空気となる中、コンコンとドアをノックする音が響く。


「失礼します。トロピカルジュースを――」


「……はぁ、熱くなっても仕方ないわね」


 その剣呑な空気を前に部屋に入ってきた店員は一瞬固まるも、ポニーがため息を吐いて空気を緩めたことで、ギクシャクとしながらもテーブルの上にジュースを3つ置いた。


 ワイングラスの中にエメラルド色に輝く液体、縁には柑橘系と思われる果物が刺さっており、ポニーはそれを手に散ってストローを咥える。


「でもどうするつもり?敵対するようなら私も容赦しないわよ」


「そうか、好きにすればいい」


「レイちゃんは――って飲まないの?結構おいしいわよ?」



「…………」


 どうでもいいという態度を崩さないでグラスに口を付けて豪快に飲むリボッタにこれ以上は無駄だと判断し、話し相手をフードのプレイヤーに変更して――そして気が付く。


「貴方……まさか……ッ!」


「ぎゃ、ぎゃう!?」


「おっとバレちまったか」


 立ち上がりフードを脱がせば、そこにいたのは少女の姿などではなく、どこかでっぷりとしたマスコットキャラクターの様なモンスター。それを見たポニーは取り乱して叫ぶ。


「なっ!『きょうじん』じゃないっ!?本物はどこに!?」


「さぁ?何処だろうなぁ」


 その絶叫ににやにやと楽しそうに笑いながらグラスを傾けるリボッタ。その隣ではじゃしんもおずおずとストローを咥えて飲んでおり、その余裕な態度にポニーのイラつきが増す。


「やられたっ!急いで大樹の元に――」


「動くな」


 同じように固まっている店員に向けてポニーが急いで指示を出すと、とたんに聞こえる鋭い制止の声。同時にガラス越しに映る店の一つが爆発した(・・・・)


「こ、これは」


「さっき全部の店を回ってなぁ、酒のお礼ついでに色々仕掛けさせてもらったぜ」


 突然起きた爆発に思考が停止し、燃え上がる店を茫然と眺める事しかできないポニー。そこにリボッタの得意げな説明が入る。


「【灰燼に帰す微小な爆弾】って知ってるか?とあるマフィア共から買ったんだが、目に見えないくせに高威力の爆弾なのさ。さて、作り上げてきた町(・・・・・・・・)海賊としての矜持(・・・・・・・・)、お前にとって大事なのがどっちか教えてもらおうか」


「テ、テメェ……!?」


「おいおい、化けの皮剥がれてきてるぜ?」


 つい漏れ出た汚い言葉を指摘すれば、ポニーの顔はさらに歪み、呼応するようにリボッタの顔も別の意味で歪んでいく。


「……最低だな」


「誉め言葉をありがとう。『闇商人』として誇りに思うよ」


 負け惜しみの言葉に対してリボッタは肩を竦めつつへらへらと笑うと、ギラギラと滾るような視線を向け――。


「さて、ここから交渉を始めようか。骨の髄までしゃぶってやる」


 ――そして『闇商人』が牙を剥く。


[TOPIC]

ITEM【灰燼に帰す微小な爆弾】

『フェンガリ組』によって考案された極微小な爆弾。砂のようなきめ細やかさながら象をも灰へと返す力を持つ。

効果①:固定ダメージ(500dmg)

効果②:一部オブジェクトを破壊


作成方法:合成(時限草×100/【小さな巨人の心臓】×1/スライムの核×20)


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― 新着の感想 ―
[一言] 闇商人って異名自体かっこいい
2023/12/20 23:50 ふぁまぐり
[一言] 面白くなってまいりました!!
[一言] 更新お疲れ様です! そりゃ無策で敵の本拠地ツッコんでくるようなアホであれば今頃普通に対処できていたでしょうし、、、 こういう明確な弱点を持つ相手の相手程、策略が役に立つ瞬間は無いですからね、…
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