5-25 海賊たちの楽園にて
昨日は間に合いませんでした……。
不意にお休みしてしまい申し訳ありませんが、最近忙しいため今後もちらほらとお休みを頂くかもしれません。ご了承ください。
「うし、これでいいか」
桟橋のかかる港らしき場所から少し離れた目立ちにくい場所に潜水艦を停めたリボッタは、流れていかないように船を縄で固定し、満足そうに頷いた。
「待たせたな、行くぞ」
そのまま羽織った外套のフードを被り、少しでもバレないように顔を隠すと、同じく顔を隠した目の前の相手に声を掛けて歩き出す。
桟橋に合流し、続く木の道を辿っていくと、やがて見えたのはこれまた木で造られたアーチ状のゲート。思いの外多くのプレイヤーが往来するそのゲートの上部には『トロピカルアイランド』と書かれていた。
「着いたぞ、準備はいいか?」
『こっちもオッケー。問題ないよ』
一つ確認を取ったリボッタの耳にレイの心強い声が聞こえ、意を決してゲートを潜る。トロピカルアイランド、そこはプレイヤーによって作られた海賊のための歓楽街であり、クラン【黄昏の人魚】のクラン島の名でもあった。
ゲートの中はがやがやと陽気な喧騒が響いており、あちこちにログハウスが立ち並び、どこを覗いても楽しそうにお酒を飲んでいるプレイヤー達の姿がリボッタの目に映る。
「ったく、よくやるぜ」
中には店員と思しき女性プレイヤーが接待している姿も窺え、リボッタは呆れたように声を漏らす。
【黄昏の人魚】のメンバーは全員女性で構成されており、それを活かした商売をする事で多額の資産と圧倒的な情報量を有している。これが彼女達の処世術でもあり、海賊達の中でも特出した強みの理由なのだが、ゲーム内でそれをするのかとリボッタには理解出来ない考えでもあった。
「まぁいい、取り敢えず移動するぞ。離れんなよ」
余計な事を考えるのをやめたリボッタは一つ声をかけて軽く後ろを見る。そこで頭が縦に動いたのを確認すると、トロピカルアイランドの探索を開始する。
「……やっぱバレてんな」
『まぁだろうね』
しばらく街を歩き、ジロジロと見られてるような感覚に陥ったリボッタはポツリと呟く。当然それは気のせいなどではなく、感じる視線に目を向けすぐさま逸らすのは、例外なく女性ばかりであり、島に上陸した事は完全に共有されているだろうとリボッタは考える。
『女の子ばっかりなんでしょ?良かったじゃん、モテモテだよ』
「こんなん望んだ覚えはねぇよ」
揶揄うようなレイの言葉にうんざりと言った様子でリボッタは返す。幸いと言っていいのか、遠巻きに様子を窺うのみで何か実害を加えてくるわけではないようなので、リボッタは気にしないことに決めて歩き続ける。
そんな警戒されている状況の中、リボッタ達が訪れたのは数多くあるお店の一つ。まっすぐ堂々とカウンター席に向かうと座ることなく奥にいた女性に話しかける。
「おい、ここで一番安い酒をくれ」
「……安い酒、ですか?」
「そうだ早くしろ」
敵意をそのまま返すような不遜な態度に店員はピクリと眉間を動かしたが、そこは流石のプロ、文句一つ言うことなくコップを取り出すと、後ろの棚にあった酒瓶を取ってグラスに注いでいく。
「お待たせしました、こちらジン――」
「ありがとよ」
恭しく差し出されたそのコップを引ったくるように奪い取ったリボッタは、情緒のかけらもなく作業のように一息に飲み干して告げる。
「ふぅ、値段は?」
「え?」
「だから値段はいくらなんだ?」
リボッタは口元を拭い、口元が乾くのを待つことなく会計を要求し、店員は困惑しながらもその要求通りに値段を伝える。
それを受けて素直に提示された金額を支払ったリボッタはそこに用がなくなったと言わんばかりに踵を返すと、フードで顔を隠した同伴者を引き連れつつ、店の出口に向かって外へと向かう。
「おい、ここで一番安い酒は?」
「お酒ですか?そんな事より私達と遊び――」
「うるせぇ、早くしろ」
そのまま舌の根を乾かぬうちに隣のお店に移動すると、先ほどと同じような要求を突きつける。
それに対して引き留めるように声を掛ける女性も少なくなかったが、近寄った瞬間ゴミを見るような目で見られ取り付く島すらなく、すごすごと引き下がってはリボッタの要求通りの接待を行う。
時間にして一軒あたり30秒ほど、10分もかからないうちにトロピカルアイランドにある全店をコンプリートしたリボッタは状態異常で歪む視界を和らげるために、木の実のようなアイテムを取り出して口に含む。
「さてと、後は……」
自然と細められた視線の先には島の奥地に見える巨大な樹。例え島の端にいたとしても見上げざるを得ないその大樹はこの島のシンボルであり、まさしく彼等が求めている『樹』であるとリボッタはにらんでいた。
「あら、どこに向かうつもりかしら?」
「――チッ」
全ての用事を済ませ、大樹へと体を向けるリボッタ。その背後から彼を呼び止める声が聞こえてくる。色気を纏った女性の声を耳にしたリボッタは露骨に顔を歪め、言葉ではなく音で反応した。
「久しぶりねリボッタ。そちらが『きょうじん』さん?」
「ウルセェよ『魔女』。俺はテメェに会いたくなんてなかった」
敵意剥き出しの視線の先にいたのは、露出度の高い赤色の派手なドレスを身に纏った妖艶な女性。リボッタから『魔女』と呼ばれた彼女は穏やかな微笑みを浮かべながら会話を続ける。
「あら、つれないのね。前はあれだけ熱烈に愛を囁いてくれたのに」
「馬鹿も休み休み言えよ、ただの協力の提案だっただろうが」
「そうだったかしら?」
至極迷惑そうな表情を続けるリボッタを見て、クスクスと口元に手を当てて笑う『魔女』。そのままリボッタに近づくと、しなだれかかるように胸元に手を当てる。
「ねぇ、ちょっと話さない?もちろん、お酒でも飲みながら、ね?」
「……嫌だと言ったら?」
「女の子の誘いを断るなんてモテないわよ?」
返答になってるかは怪しい言葉を返すと、『魔女』はくるりと振り返って歩き始める。その有無を言わさない態度にもう一度舌打ちを返したリボッタはその背中を睨みつけながら後ろをついていった。
[TOPIC]
ITEM【リョッカの実】
南国に伝わる船乗り御用達の果実。口に広がる酸味は二日酔いを和らげる効果がある。
効果①:【酩酊】状態を解消




