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5-24 全自動脱出劇


「何だよそりゃぁ……」


 ポツリと、空を見上げた男たちの一人が呟く。


 その背中にある真っ黒に染まった天使のような羽根には青色の炎が灯されており、優しく、それでいて禍々しく感じるそれは、少女の美貌も相まってこの世のものではないような神々しさがあった。


「あいつが、『きょうじん』何だよな?」


「あれじゃあ、まるで――」


 一人がその言葉の先を飲み込むようにごくりと喉を鳴らす。悪魔のようにも天使のようにも感じるその姿に圧倒された彼等は身動きを取ることすら許されず、少女の言葉を待ち、そして――。


「ちょっといったいんだけど!?!?」


『しょうがないでしょ!そう言う効果なんでさァ!』


 ――その第一声に呆気に取られた。


 ぽかんと口を開けて間抜けな表情を浮かべる彼らを他所に、レイは何やら背中に向かって文句を垂れる。


「なんかどんどんHPが減ってるんだけど!」


『そりゃあっしが噛み付いてますからねェ。あ、ちなみにあっしの意思で動かしてもらいやすし、なんなら5分後に死にます』


「はぁ!?じゃあこれどうやって解除するのさ!」


『それもあっしの気分次第ですねェ』


「言ってること無茶苦茶だなぁ!?」


「ぎゃう」


 不満を隠そうともしない怒声を上げているレイの頭からひょこっとじゃしんが顔を出すと、何かを指摘するようにぺちぺちと頭を叩く。


「そうだ、そんなこと言ってる場合じゃないんだった……!もういいから取り敢えずここから移動して!」


『あいあいさァ!』


 それによって現在の状況に気が付いたレイは言いたい事を全てぐっと飲み込んで指示を飛ばし、それを聞いたイブルは調子の良い返事を上げながら翼をはためかせる。


 それによってレイの体の向きがゆっくりと傾いたかと思えば、そこにいた全てのプレイヤーの想像を超えた速度で木々の合間を縫うように動き出した。


「……はっ!ボーッとすんな!追え!」


「りょ、了解!」


 一瞬状況が掴めず見送ってしまった彼等だったが、隊長の掛け声と共に硬直が解けると一斉にその後ろ姿を追いかけ始める【海鬼団】のプレイヤー達。


 だが、どれだけ全速力で進もうとその背中に追いつく事はなく、寧ろどんどんと離されていき、しまいには完全に振り切られてしまった。


「怖い怖い怖い!もっと安全運転してよ!」


『そんな事したら捕まっちまいますから!なーに、魔本界のスピード★スターと呼ばれたあっしにお任せあれィ!』


「何一つ信用できないんですけどぉぉぉぉぉ!?!?」


 ただ彼女達も一枚岩ではないようであり、思惑以上の成果を出しているものの、到底許容できない速度に達していることに片方からは文句の声が上がり、もう一方は悪い意味でハイテンションとなっていた。


『はっはっは、遅い遅い!そんなんじゃあっしは捉えられやしねェよ!』


「き、気持ち悪くなってきた……」


 止まることなく縦横無尽に駆け回るイブルに望まぬ形で振り回される形となったレイは、グラグラと揺れる脳内を少しでも軽減しようと視界からの情報をシャットアウトする。


「来たぞ!あいつが『きょうじん』だ!」


「大砲用意!放て!」


「魔法使える奴もだ!撃ち落とせ!」


 そのまま密林のように生い茂った森を抜けると、レイ達は海――海賊船が列挙するど真ん中へと躍り出る。それも島内にいたメンバーから連絡があったのか、臨戦態勢の整った者ばかりであり、レイめがけてあらゆる手段で集中砲火を開始する。


『遅ェ遅ェ!』


「おいテメェどこ撃ったんだよ!」


「しょうがねぇだろこんだけ早いんだから!」


「おいそっち行ったぞ止めろ!」


「どうやってだよ!?」


 だが、それでも彼女達を止めることは出来ない。降り注ぐ大砲や銃、魔法といった雨霰をイブルは容易に避け、おちょくるように船と船のの間へと体を滑り込ませる。


 それによってお互いの攻撃の流れ弾が被弾し、仲間内で争うように怒号が飛び交う【海鬼団】。統率する者がいない戦場の中で、完全に機先を制されてしまった彼等をあざ笑うかのように、イブルは水平線へと過ぎ去っていく。


『ふはははは、あばよノロマ供ォ!』


「リボッタに……連……絡……」


「ぎゃう~」


 高らかに笑うイブルの傍には吊るされているような形で白目を剥いているレイと、その上で合掌しているじゃしんの姿。


 逃げる、というよりかは連れ去られるといった表現の方が正しい気も知るが、結果として逃走を許してしまったのは事実であり、沈黙が場を支配した。


「おーい、お前らどんな感じよ」


 そんなお通夜のようなムードの中、数刻遅れで【海鬼団】の代表、キッドが海を歩いて島へと到着する。


「あっ、お、お頭……それが……」


「あー、逃げられちまったか。しょうがねぇよ、ドンマイドンマイ」


 そのうちの一人が言葉を濁すとそれだけで全てを察したようで、気楽に笑いながら労いの言葉をかけると、周りにいたクランメンバーは拍子抜けしたように口を開ける。


「……いいんですか?」


「だって俺も逃げられたし。分かってはいたが一筋縄じゃ行かねぇな」


「へ、へぇ」


「そんな気にすんなって。じゃ、行くぞ」


 あくまで呑気に、それでいて楽しそうな様子を見せるキッドはくるりと振り返って船へと飛び乗る。5メートルはある高さを軽々と飛び越えて帆船のデッキへと降り立った彼に、周りのプレイヤーは慌てて問いかける。


「い、行くってどこへ?」


「ハハッ、寝ぼけてんのか?『トロピカルアイランド』と『第007海軍基地』に決まってんだろ!テメェ等!祭りはこっからだぞ!」


 その問いかけを豪快に笑い飛ばしながらも、全員に聞こえるように声を張り上げるキッド。それを聞いた他のプレイヤー達は顔を上げ、次第に活気づいていく。


「負けっぱなしで終われねぇ。リベンジすんぞ」


「お、おう!」


 最後に呆然としながら島に残っていたプレイヤー達に、キッドはニヒルに笑って声を掛ける。それを聞いた彼らも慌ただしく船へと乗り込んでいく。その表情には笑顔を浮かべながら――。



 ――一方、何とか合流を果たした潜水艦内にて。


「おかえり、首尾は――ってそれどころじゃねぇか」


「ごめん。ちょっと休憩させて……」


 疲れたように椅子に体を預けたレイに、リボッタは苦笑を浮かべると移動を開始する。そこにイブルが喜色満面といった様子で話しかける。


『ご主人どうですか【邪法:黄泉ノ翼】は!あっしも役に立つでしょう?これからは――』


「もう二度と使わない」


『そんなッ!?』


「ぎゃう~」


 レイは顔を手で覆いながらも一言でバッサリと切り捨て、それに驚愕が隠せないといった様子でオーバーに反応するイブル。そんなやり取りを横目にじゃしんは『ダメだこりゃ』と言わんばかりに肩を竦めて首を振り、やがて目を逸らすように窓の外を眺めるのだった。


[TOPIC]

SKILL【邪法:黄泉ノ翼】

生死を司る神秘の黒翼は生者を魅了し、死者の道標となるだろう。

CT:300sec

効果①:飛行可能※操作不可

効果②:継続ダメージ(1%/3sec)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 、、、普通に新機能だった!? そしてこれは怒られろイブル。残念でもないですが当然だよ、、、(呆れ まぁ、、、、評価はできるけど余程の緊急時以外は本当に使い物にならないです…
[一言] イブルどんまい
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