5-20 孤島での手合わせ
「よくここだって分かったね」
「なーに、何処かの誰かさんが情報をくれたからな。ようやくオレ達も次のステップにいけるようになったのさ」
腰を低くして警戒態勢をとるレイを前に、自然体のとてもリラックスした状態で答えるキッド。それを見たレイは鼻で笑いながら煽るように言葉を吐く。
「他人の功績を真似ただけで誇らしげにするなんて、ちょっとダサくない?」
「それを言われちゃ耳が痛ぇが、まぁそういうゲームだから仕方ねぇだろ?」
だがキッドは肩を竦めるだけでまったく気にしている素振りを見せない。その事に対し、レイは面倒臭げに少し顔を歪ませると、少しでも情報を得るためにキッドの腹の内を探る。
「でもいいの、こんな所に来て。お仲間に文句言われたりしない?」
「あぁ、その辺は心配しなくていい。どっちみちお前を倒したら俺が全員潰す予定だからな」
「なっ」
あまりにも突然に、それでいて当然のように宣言されるその言葉にレイは思わず言葉を失う。だがその反応が意外だったのか、発言した本人はいたって不思議そうに首を捻った。
「そりゃそうだろ、お前が場を動かしたんだぜ?こんな束の間の膠着なんて消えるに決まってるだろうよ」
「……他の奴等も同じ考えなの?」
「だろうな。だからこそ先に動く。まずはお前からだよ『きょうじん』!」
レイの言葉に適当に返したキッドは話は終わりだと言わんばかりに足を一歩前へと踏み出してレイへと肉薄する。そのまま手に持ったカトラスを振り下ろして強制的に戦闘を開始させた。
「ははっ!やっぱお前良い動きするな!」
「っ、それはどうもっ!」
それに対してレイは繰り出される連撃を見切っては避け、その中で隙をみてキッドの腹を思いっきり蹴り飛ばす。
「くっ!」
「リボッタ!先行って!」
「ちょっと待て……!」
「リボッタ!早く!」
一瞬、キッドとの距離が離れたのを見計らって、レイはリボッタに声をかける。それまで出現していたシンボルの方に体を向けていたリボッタは納得するように頷くと、くるりと振り返って走り出す。
「――うし、ここは任せた!後で会おう!」
「ぎゃう!」
「じゃしんはこっち!」
「ぎゃうっ」
レイに声をかけつつ潜水艦へと向かうリボッタに、しれっとその後ろについていこうとしたじゃしん。だがそれを阻止するようにレイに首根っこを掴まれると、再び接近したキッドのカトラスとの間に差し込まれ、盾代わりにされてしまう。
「いいのっ、そんな簡単に逃しちゃってっ!」
「構いやしねぇよ、そんな事よりもっと楽しもうぜ!」
「ぎゃうぎゃう!」
最早レイしかその瞳に映していないキッドは楽しそうに笑いながらも攻撃を繰り出しており、その流れの中でスキルを発動しようとすると、それを察したじゃしんがイヤイヤと首を振る。
「【海賊の荒撃】!」
「っ!?」
「ぎゃ――」
ただその努力も空しく、放たれた一撃はレイに当たる軌道上に割り込む形で差し出されたじゃしんの顔にクリーンヒットした。
「こんのっ」
「おっと危ねぇ!」
一撃を受け止めたレイは返す刀で銃を引き抜くと、キッドの頭部めがけて発砲する。それを見てから反応したキッドは大きく仰け反って躱すと、体勢を立て直すために一度距離をとった。
「ははっ、楽しいぜ。これこそゲームって感じがするわ!」
「……そんなに人と戦うのが好きなら格ゲーでもやってれば?」
「それだとお前と戦えねぇだろ!」
楽しくて仕方ないといった表情で八重歯を見せながら笑うキッドは再度勢いをつけてレイに突進する。そうして何度か打ち合った後、キッドはふと、違和感を覚えた。
「? 何でだ?」
「はぁ?いきなり何?」
突然足を止めて真剣な表情をしたキッドに、怪訝な表情を浮かべるレイ。だがそれを受けてもキッドは表情を崩さず、どこか怒っているような口調で問い詰める。
「何で本気で来ない?手を抜くなんて舐めてんのか?」
「……滅茶苦茶一杯一杯なんだけど。見て分かるでしょ」
「惚けんなよ。動画で見たぞ、お前はもっとやれる筈だ」
「何急に熱血教師みたいな事言ってんのさ」
呆れたようにため息をつく様にキッドは猶更むっとすると、毅然とした態度で言葉を続ける。
「良いから答えろ、というかさっさと使え」
「何でそれに従わないといけないのさ。というか使うつもりなんてこれっぽっちもないってば」
「だから何でだよ、理由を教えてくれ」
「だからぁ」
何度も続く押し問答の末、面倒臭そうに眉間を顰めたレイはキッドの望んでいた答えを口にする。
「まだまだやる事はたくさんあるんだよ。こんなしょうもない所で消耗してられないって」
「……あ?」
その言葉に思わずフリーズしてしまうキッド。じわじわとその意味を理解し始め、確認をとるように再度言葉を投げかける。
「それは何だ?俺相手に本気を出さずどうにかなると思ってんのか?」
「ま、そうなるかな」
「……ははっ」
その質問にも肩を竦めて余裕気に返したレイの態度に、キッドは遂に言葉を失い、やがて笑い声を漏らす。
「あははははっ!お前最高だよ!それでこそ俺の見込んだ奴だ!」
「……そりゃどうも」
その笑い声は次第に増していき、最終的にキッドは腹を抱えて笑い出す。そして膝を叩きながらも嬉しそうで、獰猛な笑みを浮かべたキッドは両手を大きく広げた。
「じゃあ実際何とかして見せろ。俺の本気を見せてやる」
その言葉と共にキッドはゆっくりと手を内側へと閉じ込めていくと、周囲に存在する空気がその手の中へと吸い込まれていき、レイの耳にも風切音が聞こえ始める。
「この技は空気を圧縮し、極限まで貯めた弾を放出する技だ。その速度は銃よりも速く、威力は大砲にさえ匹敵する、らしい」
「らしいって、曖昧だね。ってかそんなの教えちゃってよかったの?」
「しょうがねぇだろ、そう書いてあんだから。教えたのも別に問題じゃねぇよ」
わざわざスキルの説明を口にするキッド。そこには絶対の自信が溢れており、それが殊更これから襲い来る技の威力を裏付けているようだった。
対して、レイは最大限まで警戒を強める。腰を落としじゃしんを前に突き出して、何が来ても対処できるように。
「いくぞ?やれるもんならやってみな」
だがそれも圧倒的な力の前ではちっぽけな存在でしかない。やがて音が鳴りやみ、キッドの手の中に隠れるほどまで圧縮された空気の塊は、合図とともにレイに向けて放たれる。
「――【大気砲】」
――声を発する、暇さえなかった。
気付いた時にはじゃしんに触れたその空気の弾は暴力的なまでの風と衝撃を生み出し、レイ達に襲い掛かる。そこでようやく耐えようと足に力を入れるが――。
「ぐぅっ!?」
「ぎゃう~!?」
時既に遅く、レイとじゃしんの体は地面から離れてしまっていた。一瞬でビル3階分の高さまで突き上げられた体は綺麗な放物線を描き、やがてざぶんと音を立てて海に叩きつけられる。
「ありゃ?やり過ぎちまったか?」
目算100メートルほど離れた場所に着水したレイ達を見て、キッドは拍子抜けしたようにぽつりと呟く。
「そういえば泳げねぇとか言ってたような……しまった、出来るだけ陸上で戦うんだった」
中々浮かび上がってこないレイ達を前に、配信で確認した彼女の弱点を思い出して後悔したように顔を顰めるキッド。
「しょうがねぇ、助けに行くか」
まだまだ物足りないキッドは再びレイと戦うために海の上を歩き出す。上がってきたら起こしてもう一度島に連れていこう、そう考えた所でふとある事に気が付いた。
「ん?中々上がってこねぇな……?一撃で倒れたのか?いやいや、そんなまさ……か……」
その僅かな違和感は一つの疑念を生み、考えれば考えるほど確信に変わっていく。
「あー、こりゃ逃げられちまったか。くっそ上手く嵌められたな、このまま行って間に合うか?あいつら足止めしといてくれるかなぁ」
そして一杯食わされたことを認めて結論付けると、キッドは悔しそうな顔をしながらも体の向きを変えて、自身が拠点にしている島へと向かっていった。
[TOPIC]
SKILL【海賊の荒撃】
その一撃は海賊らしく、荒々しくも雄々しい雄叫びと共に。
CT:60sec
効果①:切断属性ダメージ(<腕力>×2.5)




