5-19 『薪をくべて炎を灯せ』
「うはぁ、やっと着いた……」
「ぎゃう……」
辿り着いたのは何の変哲もない小さな島だった。
300平米ほどの木々一つない酷く殺風景なその島に降り立ったレイとじゃしんは凝り固まった体をほぐすようにストレッチを行い、キョロキョロと周囲を見渡しながら口を開く。
「何もなくない?」
「そんな筈は……っと、アレじゃねぇか?」
後に続いたリボッタもレイと同様辺りを見渡し、丁度島の中央部分にある何かを指さした。
「あぁ、確かに焚き火の跡っぽいかも」
「ここで火を起こせばいいって事か」
そこにあったのは若干黒ずんだ地面に燃えかすのような枯れ木の跡。言われてみれば確かに火を起こした形跡があり、周囲に散らばる木々を寄せ集めれば再び火が起こせそうな雰囲気があった。
「どうする?じゃしん爆発させよっか?」
「ぎゃうっ!?」
「そんな事したら一帯吹き飛んじまって何が何だかわかんなくなっちまうだろうが……安心しろ、用意してある」
冗談半分で言った一言にじゃしんはオーバーに仰け反り、リボッタは呆れた口調で首を横に振る。その代わりに何やらウィンドウを操作すると、アイテムを一つ取り出す。
「【火吹岩】だ。使用するだけで炎属性のダメージを与えられる」
「へぇ、そんなのあるんだ」
「稀にしか取れねぇレアアイテムだ。良いだろ」
リボッタの手には炭の塊のような真っ黒の岩が握られており、菱形で角の一部が逆側に凹んでいる。
恐らくその部分から名前の如く火が出るのだろう、見たことのない珍しいアイテムを前にレイはそう考察すると、じっとそのアイテムを凝視して口を開く。
「ねぇ」
「絶対嫌だ」
だが本題に入る前に先んじてリボッタから待ったがかかり、レイは不満げに口を尖らせた。
「まだ何も言ってないけど」
「言いたいことが手に取るようにわかんだよ。時間もねぇんだ、さっさと始めるぞ」
「ちぇ、しょうがないなぁ」
当然リボッタがそれに取り合うことはなく、さっさと不毛な話を終わらせると【火吹岩】を持って島の中央へと向かう。
「うし、いくぞ」
リボッタは焚き火跡まで辿り着くとしゃがみ込んで木を集め、そこに向けて【火吹岩】をセットする。そして一言確認をとるように呟いてアイテムの使用を宣言した。
瞬間、ゴウッと火が燃え立つ音。思いの外勢いよく噴き出された炎は集められた木々に燃え移り、暖かな篝火へと変貌する。
「さて、蛇が出るか、鬼が出るか……」
「出来ればいきなり戦闘は勘弁して欲しいところだが……」
パチパチと音を立てる炎を遠目に見つめ、何があっても対処できるよう最低限の警戒を持っているレイの元に、役目を終えたリボッタが近づいて隣に立つ。
しばらくの間、何事もなくその炎を見つめていた二人だったが、ふと、リボッタが異変に気がつく。
「ん?なんだこりゃ」
「――あぁ、そういうことか。これ記憶を辿る系だ」
首を傾げたリボッタの疑問に数秒遅れて気がついたレイは同時にそのギミックに心当たりをつける。それを裏付けるように炎の上に立ち昇っていた煙が形を変え始め、まるで映画のようにとあるシーンを映し出した。
『おう、みんな酒は持ったか?よしじゃあ行くぞ?無事帰還出来たことを祝して……カンパーイ!』
それは、遠い遠い過去。色褪せたフィルムのような朧げな映像の中で、頭より大きなハットを被り、ジョッキを掲げた一人の男性を見上げている姿が映っている。
『お頭〜!俺もうダメかと思いましたよ~!』
『確かにな、今回ばかりは流石に死んだかと……』
『何言ってんだテメェら!それでもグリード様の部下かっ!』
視点が声のした方へ動くと、既に出来上がった様子の部下と思われる男達が現れ、それと会話する形で最初に映った男――グリードが声を張り上げる。
『まぁでも確かに。あのバケモンに襲われた時はヤバかったな』
『くるる~!』
『あぁ、違いねぇ。お前のお陰で助かったぜ!』
そこに聞き慣れない音声がレイ達に届く。何かの鳴き声のようなその音はどうやら画面主が発しているようで、その声に応えるようにグリードは画面に手を伸ばしてわしゃわしゃと撫でるモーションを取る。
『さぁて、この海でやる事はもう終わりかね』
『え、って事は……』
『まさか……』
『おう、俺たちの冒険はここで終いだ』
一頻り労ったグリードはどこか寂し気に、それでいてやり切ったような顔でポツリと呟くと、それを聞いた周囲の男達は悲しげに目を潤ませる。
『なーに泣いてんだ!お前らずっと帰りてぇって言ってたじゃねぇか!』
『でもよう……お頭ぁ!』
『おいおい、今生の別れでもあるまいし大袈裟だぜ?なぁ?』
そのしんみりとした流れを豪快に笑い飛ばすと、グリードは画面ーー正確にはそこにいる何かに向けて話しかける。
『当然お前ともお別れとはならねぇぞ?これからも遊びに来てやるよ、生きてるうちはな!』
『くるる~!』
『ほらみろ、コイツの方が分かってんじゃねぇか!お前らも見習っとけ!』
『ぐぅぅぅぅ!!!新入りのくせに生意気だなぁ!!!』
『がっはっは!そうだ、最後にあの島に行って解散式でも――』
そうして煙の中の映像は消えていき、再びパチパチと炎の音のみが響く世界へと戻る。
「……こりゃ一体」
「待って、まだなんかあるよ」
余韻を噛み締めつつ口を開いたリボッタをレイは言葉で制する。その視界の先には再び煙が形を変え、焚火を形取ったようなシンボルへと変化していた。
「なるほど、このシンボルを集めていく感じかな。きっとキャプテン・グリードの側にいた何かの記憶と共に」
「何かって何だよ?」
「そりゃ何かだよ。……嘘嘘、冗談」
それを見てこれから何をするべきか察したレイは一人納得したように考察を吐き出し、リボッタがそれについて詳しく問いかける。
「推測だけど、多分聖獣かな」
「は?って事は……」
「うん、これワールドクエストかも」
どこか確信めいたレイの言葉にリボッタは目を見開く。考えていないわけではなかったが、いざ目の前にするとどう反応して良いか分からず、噛み締めるようにぽつりと呟く。
「おいおいマジかよ……」
「あくまで推測だけどね。でも確率は高い――リボッタ!」
「あ?――ッ!?」
そんなリボッタを落ち着かせるようにレイが言葉を口にする――そのタイミングで何処からか、強烈な空気の塊がリボッタの体を襲うように飛来する。
ただそれに気がついたレイの言葉のおかげで、すんでの所で飛び退く事でそれを避けるリボッタ。何とか致命傷を避けたのを確認してホッと息を吐いたレイは攻撃してきた相手を確認してその目を見開く。
「何であんたが此処に……」
「待ちきれずについ、な」
そこに立っていたのはカトラスを肩に担いだ青年、最強の海賊と噂される男が楽しそうな笑みを浮かべていた。
[TOPIC]
ITEM【火吹岩】
へイースト火山の奥深くにて採取できる不思議な岩。中にあるオレンジの魔石によって半永久的に炎を吐き出し続ける。
効果①:炎魔法生成




