5-17 大海賊の秘密
「ん?お前ら何しに……あぁ!獲って来たのか!遅かったな!」
現実では日を置き、ゲーム内では3日が経過した本日。再びレイ達がボロ小屋に訪れると、前回の事などなかったかのようにオラジムは陽気に話しかけてくる。
「……なんか怒り通り越したよ」
「酔っぱらいに何言っても無駄って事だな……」
日を跨いだせいか幾分か冷静になった二人は怒りと言うよりも呆れの表情を浮かべている。その背後にはじゃしんとハッチの姿もあり、狭いドアを抜けて順番に部屋の中へと入っていった。
「好きなところに座ってくれ」
「いや座れったって……」
オラジムの気を遣うようなセリフに、レイは困惑の表情を浮かべる。部屋の中はある意味では想像通りの恰好をしており、壊れかけの家具に空いた酒瓶で埋まってしまった床、小汚く黄ばんだ壁など想像しうる限り最も劣悪な環境が広がっていた。
「うぃ~……さて、頼んでたブツは?」
「あぁ、はいこれ」
「おぉ、おぉ!コレだよコレ!」
また一つ酒瓶を空にしたオラジムは既に顔を赤くしながらも手を伸ばし、レイもそれに反応して【研磨されたヒレ】を渡す。
それを受け取ったオラジムは喜んでそれを受け取ると、新しい酒瓶を片手に奥へと引っ込んでいく。そしてカチカチッとコンロの音が聞こえたかと思うと、数分経った後の更に何かを盛り付けて帰ってきた。
「これが最高なんだよなぁ……くぅ~!」
「ねぇ、約束守ってくれるんだよね?」
そのまま乱暴に椅子に座ると、一人で酒盛りを始めるオラジム。その姿に少し不安を覚えたレイは念を押して尋ねる。
「約束……?あぁ、『キャプテン・グリードの宝』の事だろ?当たり前じゃねぇか」
「ならいいけど……んで、何から教えてくれるの?」
「そうだな……まずはキャプテン・グリードと言う男について」
炙ったヒレを咀嚼し、それを酒で流し込んだオラジムは幸せそうに喉を鳴らしつつ問いかけに答える。
「今や海賊なんざ呼ばれているが、奴の本性は冒険家さ。この大海原を最初に踏破した人間でもある」
「冒険家……」
「あぁ、ただただ未踏の地を踏破するのを楽しみにしていた男でな。とても純粋な奴だった」
「おや、何やら会ったことがあるような口ぶりですね」
「はっ、血が繋がってるから分かるんだよ。とにかく、奴は冒険家で、この海の島中を巡っていたって訳だ」
どこか懐かしんでいるかのような口ぶりで話すオラジムに対して、ハッチが探るように言葉を挟む。ただそれを鼻で笑うと、何事もなかったかのように言葉を続けた。
「そんなある日、グリードの船はこの海に潜む怪物に襲われるんだ」
「怪物?」
「そうだ。赤き血で全身を染めた最悪の怪物に、な」
急に御伽噺のようになった内容にリボッタは少しだけ眉を顰めた一方で、ゲームである以上おかしな話ではないとレイは考えており、寧ろこれからぶつかる可能性が高いと考えていた。
「そいつのせいで船は沈没、グリードも搭乗していたクルーごと波に攫われ、海底の奥深くへと沈んでいった――そこで見たのさ」
「見たって……何をだ?」
「世界」
リボッタから疑いの眼差しを向けられながらも、オラジムはニヒルに笑って即答する。
「この世界を手に入れられるほどのエネルギー、それこそが『キャプテン・グリードの宝』と言われている」
「エネルギーって……金銀財宝じゃないんだ」
「んなちゃちなもんじゃねぇ。手に入れさえすれば文字通り世界を手に入れられるほどのエネルギーだぞ?見た目だけの輝きなんぞどうでもよくなる」
予想外の内容に思わず声を漏らしたレイに、オラジムは肩をすくめて酒を煽る。そこに痺れを切らしたかのようにリボッタが口を開いた。
「それで、どうしたんだ?」
「ふっ、どうしたと思う?」
「あぁ?……俺なら手に入れて世界を手に入れる、か?」
「がっはっは!いいね、欲望まみれで実に人間らしい思考だ。だがな、グリードは違ったのさ」
逆に問い返された質問をリボッタなりに返答すると、オラジムは嬉しそうに膝を叩いて首を振る。
「『こんなもんいるか。くだらねぇ』と、怒ったんだ」
「はぁ?」
「意味分かんねぇよな?世界を手に入れられるほどの力をくだらないと言い切ったんだぞ。本当に名前負けした奴だよ」
間抜けな顔で間抜けな声を上げるリボッタに、クックと喉を鳴らすように笑うオラジム。それから愉快そうに晩酌を続けながら説明を続ける。
「結局、深海から戻ってきたグリードは何も持っておらず、何を聞いても『楽しかった』としか言わなかったらしいぜ……これがキャプテン・グリードと言う男の一生さ」
「え?じゃあ何で宝の噂なんか出てるの?」
「クルーの一人がお漏らししたのさ。あの力に魅了された男の一人がいつかそれを手に入れるために、『歌』と言う形でヒントを残した」
「『歌』――ってことは」
「そうだ。もうわかってるかと思うが、『キャプテン・グリードの大冒険』という歌が宝の在り処を指し示すカギになっている」
ようやく昔話から現在に話が移ると、オラジムは身を乗り出しながらレイ達に質問を投げかける。
「お前ら、各島を巡ったことは?」
「私はないかな」
「俺も一部だけだ」
「同じく」
「そうか。実際行けば分かるんだが、4つの島には歌と連動したシンボルがそれぞれ残っている。それを順番に起動させろ」
「起動させろって……何をすればいいんだよ?」
「言っただろ、歌にヒントがある。グリード達が行った行動をなぞればいいのさ」
オラジムのヒントにリボッタはいまいちピンと来ていない様子だったが、それ以外の二人はその意味を理解したようで、レイが代表して辿り着いた内容を口にする。
「『火を灯す』、『滝に飛び込む』、『木陰で休む』、『金貨を投げ込む』。この4つを指定の場所で行えってことだね?」
「そういうこった。中々物分かり良いじゃねぇか」
「指定の場所――なるほど、そこでこれを使う訳だな」
レイの言葉を聞いてようやく察しのついたリボッタはそれを補足するように一つアイテムを取り出す。それはずっと話題に上がっていた『謎の地図』であり、それを目にしたオラジムの目が見開かれた。
「オメェ、何処でそれを……いや、それで合っている。これに連動した場所へ順番に向かえ。だが、注意事項がある」
パチパチと瞬きをして地図を見つめていたオラジムは首を振って酒を口に含むと、興味を失ったかのように視線を外して話題を変える。
「歌に『月明かり』と『朝日が昇る前』と言う言葉があるのを覚えているか?」
「もちろん……ってまさか」
「残念ながらそのまさかさ。4つの島を月が昇って沈むまでに行う必要がある」
まさかの制限時間付きという事実にレイは驚いた様子を見せるも、歌の内容的におかしな点は見当たらず、またこれのお陰で未だに宝が見つかっていない事に合点がいった。
「以上が俺の知っている情報の全部だ。満足か?」
「うん、概ね。でもよく知ってるね」
「言っただろ、末裔だとよ」
最後にやけに詳しいオラジムに向けて若干探りを込めて問いかけるも、どこか飄々と笑いながら煙に巻く。その取り合うつもりのない姿勢にレイは諦めると、くるりと体の向きを変えてリボッタとハッチに話しかける。
「ってな話だけど、どうする?」
「まぁやらない理由はないでしょうね。問題は方法ですか」
「派手にいく、理由はないよね。基本は隠密でばれないように?」
「そうだな、相応の船はこっちで用意する。少し時間をくれ」
そうしてレイ達はある程度の段取りや作戦を決めて解散する。
決行日は3日後と約束して――。
[TOPIC]
NPC【キャプテン・グリード】
ポセイディア海を初めて制覇した男。
曰く、海賊ではなく冒険家であり、誰かを襲ったりするというよりも自由気ままに海を旅することを好んでいたらしい。
海の怪物と呼ばれるモンスターに襲われ、深海へと沈んだ際に『この世界を統べるほどの力』を発見するも、本人は不要なものだと判断し、手に入れることなく地上へと帰還した。だが、なぜかその存在は現代にも伝わっており、キャプテン・グリードが隠した物として語り継がれてしまっている。




