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5-16 港からの再スタート


 場所は再び『グランブルーム』にある港。数多くの船が犇めく中、一際ボロボロの状態で帰港したレイ達はボートから降りながら口を開く。


「さて、これからどうしようか?」


「そうだな……、まずは新しい船か」


 結局、当初の目標は達成出来ておらず、何の成果も得られていない現状である。幾らデスしなかったとはいえその事実は覆ることなく、レイは少しだけ気落ちするように肩を落とした。


「お金の方は大丈夫なの?」


「そっちの心配はしなくていい。腐っても商人だ、お膳立ては全部こっちでやるさ」


「了解。でもまたあれと戦うのかぁ。陸だったら何とでもなりそうなんだけどなぁ」


・レイちゃんがここまで言うとは珍しい

・ね、普段なら喜んで再戦するのに

・でも次は陸で戦う作戦なんじゃなかった?

・って言っても逃げられたらおしまいだしな


「すみません、ちょっとよろしいですか?」


 一度経験した【S・S・S】の面倒くささを改めて思い返してレイが辟易していると、少し後ろを歩いていたハッチがふとレイに声を掛ける。


「ん?どうしたの?」


「お伝えしたいことがあるんですが……その前に、配信切ってもらう事は可能でしょうか?」


「配信を?」


 唐突に出された提案に対してレイが首を傾げて問い返すと、ハッチは神妙に頷く。


「不自然だと思いませんか?あの広い海でタイミング良く【海鬼団】のリーダーが現れたのは。恐らくですが既にレイ様が『キャプテン・グリードの宝』を狙っている事はバレているかと」


「あー、配信見られている、ってこと?」


「えぇ。現状我々が『海賊連合』に勝っているのは情報だけです。それを失うのはかなり痛いでしょう」


 その意味をハッチから説明され、レイはなるほどと納得する。ただ、それを聞いても配信を止めるのは配信者として活動している身としてできれば避けたい事態であり、どうしようかと頭を悩ませた。


「と言っても僕は着いていくだけなので、レイ様が嫌だというのであれば強制するつもりはありません。どうでしょう?」


「そっか……どうしようかな」


 あくまでお願いと言う体で話すハッチにレイは余計に頭を痛める。そこでふと、コメント欄がその目に映った。


・別にいいよ

・寂しいけどしょうがない

・後から話聞かせてね!


 そこに流れていたのはこっちは気にしなくても良いという視聴者からの慮った言葉。それを目にしたレイは数秒固まった後、決心したようにハッチに視線を戻す。


「みんな……分かった、配信はひとまずやめておく。その代わり問題なさそうだったらすぐ再開するからね?」


「構いません。英断、感謝します」


「ということで、今回はここまで。また埋め合わせはするから!」


・乙~

・楽しみにしてる

・頑張って!


 そしてレイは最後に視聴者に対して別れの挨拶をしてから配信を閉じる。それを見届けたハッチは僅かに微笑みながら言葉を続ける。


「さて、本題ですが」


「ん?まだある感じ?」


「はい、此方をどうぞ」


「何これ?」


 そう言って取り出したのは鈍色に輝く三角形の何か。どこか金属のように感じるそれを受け取ったレイは何が何だか分からず困惑していると、横からそれを見たリボッタがぎょっとした顔で叫ぶ。


「これ【研磨されたヒレ】じゃねぇか!」


「え!?これが!?なんで持ってるの!?」


「【スティール】しておきました。一応倒すという話だったので万が一の保険のつもりでしたが、正解だったみたいですね」


 ニコニコと笑いながら明かされたタネにレイが思い返すと、確かにハッチが【S・S・S】に触れた場面があり、その時に盗ったのだろうと合点がいく。


「ナイス!って事はもう行かなくてもいいって事だよね!」


「あぁ!流石大怪盗だぜ!」


「ふふっ、光栄です」


 落ち込みかけていたテンションは最高潮に戻り、キラキラと目を輝かせたレイとリボッタ。その後ろには相変わらず口元に笑みを浮かべたハッチが控えており、三人は一目散に酒場へと向かっていった。


 ◇◆◇◆◇◆


 酒場に辿り着いたレイ達に待っていたのはオラジム――ではなく、マスターからの疲れた声であった。

曰く、好きなだけ飲んだオラジムは見るからに酔っ払った様子で家へと帰っていったらしい。もちろん代金を払うことはなかったため、溜めに溜めていたツケもろともリボッタが清算する羽目になっていた。


「ここかな?」


「だな。絶対金は返してもらう……!」


「なんか借金取りみたいだね」


 その代わりにオラジムの住んでいる家を教えてもらっており、レイ達は酒場を訪れたその足でオラジムの家へと辿り着いていた。


 場所はヒョウタンの形をした底の部分、ほぼほぼ最北端と言えるような場所に存在し、彼女達の目の前に建つのは掘っ立て小屋と見間違うようなボロボロなものだった。そんな辛うじて家の形を成している建物のドアを、レイは恐る恐る叩く。


トントン……


「……出ないね」


「寝てるんじゃないですか?」


「もっと強くやっていいだろ」


 ドアをノックしても中から反応はなく、物音一つ聞こえることはない。それに痺れを切らしたのか、レイを押しのけたリボッタは力強くドアを叩く。


ドンドンッ!ドンドンッ!


「おらぁ出てこいや!ついでに金返せ!」


「いや、本当に借金取りじゃん」


「ドラマで見たことありますね」


「ぎゃう~」


 少なからず私怨が混ざっている気がしないでもないリボッタの怒号にレイとハッチ、じゃしんは呆れた声を上げる。だがそれでも気にせずリボッタがドアを叩き続けていると、ようやくその扉が開いた。


「んだよ喧しいな」


「ようやく出やがったな!金返しやがれ!」


「リボッタ、違う違う」


 真っ青な顔で酷く気怠そうに中から現れたオラジムに憤怒の形相で詰め寄るリボッタ。その間に入ってなだめつつも、レイは本題へと入る。


「オラジムさん、約束の物持ってきましたよ?」


「あぁ?約束の物?」


「ほら、酒場で言ってたでしょ?最高の肴を持って来いって。だから【研磨されたヒレ】を――」


「酒の話すんじゃねぇよ、このすっとこどっこい。今そんな気分じゃねぇから一昨日来やがれってんだ」


 ただしオラジムはレイの言葉を理解したのかも定かではないまま、不快気な表情を浮かべてそう吐き捨てると、乱暴にドアを閉めて家の中へと戻っていく。そして、訪れる静寂。


「……ねぇ、この家爆破していい?」


「……いいじゃねぇか。派手にいこうぜ」


「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃうっ!」


 その後、ぼそりと呟かれた不穏な単語を呟いて黒いオーラを吹き出す2人のプレイヤーを、必死で抑えるよう立ち回る召喚獣がいたとかいないとか。


[TOPIC]

ITEM【研磨されたヒレ】

刀魚から取れる鋭くとがったヒレ。砥石として使用することで武器の切れ味を格段に上昇させる。

効果①:近接ダメージ増加(1.1倍)


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! マジか、素材でもスティールできるのか、、、 そして配信停止!まぁしゃーないですね、、、 うわぁ酔っ払い特有の気まぐれ。 落ち着いてお二人とも、、、! 更新お待ちしています…
[良い点] 酔っ払いの再現度高いね〜
[一言] れいちゃん、ドウドウ
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