5-12 いざ、大海原へ
気が付いたら200話突破しておりました……!
圧倒的感謝……!
「待て待て待て。お前今協力してもらうっつったか?コイツに?」
場所は『グランブルーム』の北端にある港。再集合場所として設定したその場所で、お目当ての人物を見つけたリボッタはその傍に立っているプレイヤーを見て眉間を抑えていた。
「うん、言った。よろしくね、ハッチ」
「えぇ、お任せください。必ずお力になりましょう」
「あ、そういえばさっき使ってた魔法について教えて欲しいんだけど」
「良いですよ。まずは魔法とスキルの違いについて――」
「おぉい!?勝手に話を進めんじゃねぇよ!?ちゃんと説明しろや!」
問いかけに対してレイは鷹揚に頷きながらもしっかりと肯定し、ハッチを紹介する。その流れで雑談を始めようとした二人を制止すると、リボッタは訳の分からないまま声を張り上げ、詳細を要求した。
「なに?何が気に食わないの?」
「全部だよ全部!コイツは俺達を狙ってたんだぞ!?」
「でもこれから結構な数相手にするでしょ?ならこっちもある程度は対抗手段を持っとくべきじゃない?」
「それはっ……分からんでもないが……だからってコイツじゃなくて良いだろ?いつ裏切るかも分かんねぇぞ?」
「大丈夫だって。ね?」
「もちろん、大船に乗ったつもりで大丈夫ですよ。必要がない限りは仲間でいます」
「泥舟じゃねぇか!」
一連のやり取りにおいて、何一つとして安心できる要素が見つからなかったリボッタはいよいよ頭を抱えて蹲り、レイに声をかけたことに後悔するように唸り始める。
そこに一匹、近寄る影。
「ぎゃう……」
「なんだお前――あぁいや、その顔でわかった……」
近寄ってきたじゃしんがリボッタの肩にぽんと手を置いて遠い目をする。それに対してリボッタは一瞬不審げな目を向けたものの、すぐさまその境遇と意図を察し、同じような遠い目をして空を見上げた。
・レイちゃん被害者の会
・やっぱり通ずるものがあるんやなって
・仲良くなってて草
「すみません、『闇商人』さん。一つ聞いても?」
そんな二人を視聴者が面白がっている中、不意にハッチが手を上げてリボッタに声をかける。
「これから何するんですか?」
「あ?お前説明してないのか?」
「うん、宝探ししようとしか言ってない」
「……まぁいい。そいつはやりながら説明した方が早い、か。お前らひとまずこれに乗れ」
さも当然かのようにそう宣うレイに呆れた視線を寄こしながらも気を取り直したリボッタは、立ち上がってとある方向を親指で指す。
そこにあったのは――。
◇◆◇◆◇◆
「いやぁ、気持ちいいなぁ!」
「ぎゃう!」
降り注ぐ太陽の光に辺り一面の大海原。レイとじゃしんはバウレールと呼ばれるボートの先端に着いた柵に捕まりながら、顔に当たる潮風を感じていた。
・ねー!
・いいなぁ
・海行きたくなってきた
「いやぁ、これは良い物だね~。流石に今回はリボッタに感謝かな」
「感謝よりも先に懺悔してくれや」
現在、リボッタが用意したボートに乗っているレイはその爽快感と気持ち良さで満面の笑みを浮かべている。何やら操縦席からヤジのようなモノが飛んできていたが、気分の良いレイの耳には届かなかったようだった。
「レイは海好きなんですか?」
「そりぁね。広いマップはワクワクするじゃん?」
そこへボートの側面にあるベンチのようなでっぱりに腰を掛けたハッチが、世間話をするかのように声をかける。
「ん?いや、現実の話――あぁ、何でもないです」
望んだ答えではなかったため再度問い直したハッチであったが、露骨に変わった表情を見て空気を読んだようだった。そのまま暫しの静寂が流れた後、咳払いしたレイが話題を変える。
「あ、そういえばさっきの話の続きなんだけどさ、魔法って私にも使えるかな?」
「えぇ、大丈夫だと思いますよ。【学術都市ブラウ】は知っていますか?」
「うん、知ってる」
「でしたら話が早い。そこにある魔法学院に行けば誰だって魔法が使えるようになります」
先程中断した話を再び口に出すと、ハッチは快く、自身の知りうる情報を口にする。
「そこでお金を払えば職業問わず魔法を習得することが出来ます。ただMPを使うのと、ダメージが〈知識〉に依存するという関係上、やはり【魔法使い】系統が一番使いやすいかと」
・なるほどなぁ
・まぁそれくらいないとね
・魔法とスキルって違うの?
ハッチによる魔法解説はレイだけではなく視聴者まで巻き込み始め、コメントに流れた質問に関してもハッチはすらすらと答えていく。
「基本的にはスキルの一部なので特に扱いは変わりません。ただ仕様にスロットというのが存在しまして」
「スロット?」
「はい、簡単に説明するのであれば覚えられる魔法の数でしょうか。基本的にスロット1つに対して魔法を一つセットすることが出来ます。これは【魔法使い】系統の職業スキルでしか増えません」
「じゃあ私の場合、今のままだと1つしか覚えられないんだ?」
「そうなりますね」
「そっか……」
説明を聞いたレイは少し考え込む。現状サブ職業は暫定的に【神官】にしているが、性能次第では【魔法使い】変更も悪くないと考えていた。ただ火力という面で見るとやはりステータスがネックとなってしまい、結局、腐らせてしまう可能性も確かに存在した。
そんなもどかしいジレンマの中で、うーんと唸っていると、見かねたハッチが助け舟を出すようにさらなるメリットを提示する。
「でも結構面白いですよ?自由度が高いので、それこそ『私だけの最強の魔法』を作る事だって夢ではありません。【風の踊り場】や【ライトニング・ブレイク】はオリジナルですしね」
「へぇ、それは確かに魅力的……【幻影魔法】は違うの?」
「あぁ、あれは違います。アレは魔導書を読んで覚えたので」
「魔導書?」
不意に聞こえてきた単語に反応したレイだったが、ハッチは悠然と微笑むのみでそれに対する回答はない。
「昔は劣化スキルだと馬鹿にされていましたが、クールタイムが実装された今だとMPさえあれば連発できる魔法の需要も高いですからね。一度調べてみると面白いかもしれません」
「……だね、今度行ってみるよ」
おそらく秘匿したい情報なのだろう、その思いを感じ取ったレイはそれ以上問い詰めることはしない。その後もいくつかハッチと会話していると、操縦室に籠っていたリボッタがデッキへとやってくる。
「おい、お前ら着いたぞ」
「え?」
言われて辺りを見渡しても、レイの視界に映るのは相変わらず一面の青。てっきり何処かの島を目指していると思っていた彼女は首を捻ってリボッタに問いかけた。
「着いたって……海のど真ん中だけど?」
「あぁ、それで間違ってねぇよ。ほら」
リボッタもリボッタで自信満々に頷いて返すと、とあるアイテムを取り出してレイへと放り投げる。
「これって……釣竿?」
・え?
・まさか…
・海、魚、釣竿…あっ(察し)
「そのまさかだ。今からエリアボスを釣る」
受け取ったレイの手元にあったのは鉄の棒にリールと糸がついた至極スタンダードな釣り竿であり、それだけで次に行うべき事を如実に物語っていた。
[TOPIC]
SKILL【風の踊り場】
圧縮した風を用いて足場を作り出す風属性魔法。開放することで相手を吹き飛ばすことも可能。
MP:20
効果①:不可視のオブジェクトを設置
効果②:風属性のダメージ(<知識>×0.2)




