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5-11 タネも仕掛けも出し尽くして


・何それ可愛い

・最強か?

・乗っただけ合体じゃん


「あぁ、そっか。みんなには説明まだだったね。うーん、どうしようかな」


 視聴者にとって謎のスキルと共にレイの頭に乗ったじゃしん。その少し間抜けな様子に何が何だか分からず視聴者が困惑しているのをみて、彼女はうーんと悩む。


「まぁいっか、そっちにも教えてもらったし。このスキルは【神の憑代】、【邪教徒】のスキルで効果はじゃしんのステータスを私に加算するんだ。つまり――」


・つまり?

・え、それってヤバくない?

・確かじゃしんのステータスって


 そこで一つ言葉を区切ったレイはぐっぐっと念入りにストレッチを始める。軽く触れた説明にコメント欄がざわつく中、準備を終えたレイは全力で地面を蹴ってハッチへと肉薄した。


「うっ!?」


「――つまり、さっきの60倍強くなったってこと!」


「ぎゃう!」


 腹に叩き込まれた蹴りを両手で塞いだにもかかわらず、ハッチは数メートル程吹き飛ばされる。そして蹴りの姿勢のまま勝ち誇るレイとじゃしんを見て思わず冷や汗を垂らした。


「それはそれは……。ちょっと分が悪いみたいですね……!」


「あれ、じゃあ降参する?」


「いえ、もう少しだけ仕掛けがありますのでっ!」


 瞬間、轟音。ハッチが振るったステッキと共に、レイの眼前を覆い尽くす程の大爆発が発生する。だがそれが見掛け倒しだと判明している以上、今のレイにとって恐れるほどのものではなかった。


・逃げるつもりなんじゃない?

・いや、多分罠だよ

・晴れるまで待ったら?


「いや、正面から叩き潰すよ。じゃないと何度でも襲ってきそうだし」


 心配するコメントに言葉を返しながらもレイは爆炎の中へと足を踏み入れる。未だにあちこちで爆発音が鳴りやまぬ中、不意に彼女の耳が風切り音を捉えた。


「っと!」


・ナイスキャッチ

・さっきのシルクハットか


 音のなる方に咄嗟に手を伸ばし、何かを捕まえたレイ。それを眼前に引き寄せて見てみると、ハッチが被っていたと思しき黒いシルクハットがそこにはあった。


「また――うわっ!?」


 一見何の変哲もないただの帽子。それをレイがくるくると回しながら見ていると、丁度逆さまにしたタイミングで空洞の中から数羽の鳩が飛びんでくる。


 顔めがけて飛んできた鳩に反射的に目を瞑るレイだったが、当然それは【幻影魔法】で創られた魔法であり、彼女をおちょくるかのようにぶつかることなく通り抜ける。


「って、甘いよ!」


「くっ!」


 それによって一瞬動きが鈍ったレイを見逃さず、煙の中から現れたハッチが彼女の腰に手を伸ばす。だがレイは目を瞑ったままその場で回転すると、伸ばされた腕に沿ってハッチの背後にまわり、その背中を蹴り飛ばした。


「黙ったまま仕掛けてくるなんて、目立ちたがり屋のマジシャンとしてはどうなのさ?」


「それ以上に怪盗としての矜持があるんですよ。負けっぱなしでは終われませんので!」


 張り上げたハッチの声と共に突風が吹き、先ほどまであった煙が消えていく。完全に視界が晴れたそこには宙に浮いた――いや、見えない何かに立っている(・・・・・・・・)ハッチの姿があった。


「ここからは小細工なしです。『大怪盗』の本気を見せましょう」


「望むところっ!」


 レイが投げたシルクハットをキャッチして被り直すと、ハッチは軽やかな足取りで空中を闊歩しつつ、くるくると手に持ったステッキを回す。


「【風の踊り場(エア・キューブ)】、これは四角い風の塊を呼び出す効果があります。今私がしているように上に乗ったりもできますし、このように――」


「ッ!?」


 急に手の内を明かし始めたハッチを怪しむようにレイは目を細める。その意図を掴もうと言葉の裏を探っていたその時、彼女の目の前で何かが炸裂した(・・・・・・・)


・何だ!?

・レイちゃん!

・これも魔法か?


「このように圧縮された風を開放することで、不可視の爆弾もどき(・・・・・・・・・)を作り上げることが出来ます。威力はほとんどないですが、応用力は凄いんですよ?」


「なるほどね……!」


 突如襲った衝撃にレイは眼前で腕を交差することでそれを受け流し、ハッチを見上げて改めて問いかける。


「でも何で話したの?黙っていればもっと楽にいったんじゃ?」


「言ったでしょう?本気で、小細工なしと!」


 そう答えたハッチは見えない足場から倒れ込むように飛び降りるモーションを繰り出した。一見自殺するかのような動きだったが、それと同時に立っていた足場を破裂させた。


「そんなのありなのっ!」


「言ったでしょう、応用力は凄いと!」


 吹き荒れた暴風を利用して加速した体は信じられないスピードでレイへと着弾し、ハッチは手に持ったステッキを容赦なく叩きつける。それに対して腕を払うことで迎撃を試みるレイ。


 ステータス面では圧倒的にレイが上ではあるが、細かい立ち回りではハッチに軍配が上がるようだった。【幻影魔法】による攪乱や【風の踊り場】によるZ軸すらも意識させるスタイルは確実にレイの隙を作り出している。


 だが、それでも。


「ねぇ、もう仕掛けは終わり?」


「まだ余裕ですか……!」


 それでも、彼女には届かない。もとより対人センスという面では彼女の方が圧倒的に上であり、アイテムポーチという明確な狙いがばれてしまっているため、決め手に欠けてしまっていた。


 このままでは先に力尽きるのは自分だとハッチは感じさせられ――故に、彼は最後の切り札を切ることを決意する。


「さて、こっちも暇じゃないからね。そろそろ終わらせるよ!」


「ぎゃう!」


「ふっ!」


 勝負は一瞬、その時の為に最高の舞台を整えるべく、【幻影魔法】と【風の踊り場】を駆使して隙を伺うハッチ。振るったステッキはいとも簡単に対処され、幻影にも慣れてきたのか反応すら見せなくなったレイを前に、必死で耐えてその時を待つ。


「うおっと」


「!!」


 そして、その時は訪れた。


 レイの背後で破裂させた【風の踊り場】の一つによってレイの体が前方に崩れる。巡ってきた一世一代のチャンスにハッチは距離を詰めて再度手を伸ばした。


「え?」


 ただしその先は腰にあるアイテムポーチではなく、彼女の頭。今までとは違う、予想外の狙いに反応が遅れたレイに向かって、ハッチはスキル名を高らかに叫ぶ。


「【ライトニング・ブレイク】!」


 バチィ!と甲高い雷鳴を上げ、ハッチの手から放たれた雷の塊。それは幻でも何でもなく、彼が持つ最大火力の魔法であった。


 迸る稲妻を前に、確かな手応えを感じたハッチ。やがてその光が収まった時、目の前に映った光景にハッチはふっと笑う。


「……届きませんでしたか」


「いや、びっくりした。場所が悪かったら危なかったかも」


「ぎゃうっ……ぎゃうっ……」


 そこにあったのはお辞儀するように頭を下げているレイの姿。それによって残念ながらハッチの手は狙いとは別の相手に当たってしまったようで、その被害者がビクンビクンと体を痙攣させていた。


「完敗、ですね」


 それを確認したハッチの腕からステッキが零れ落ち、カランと乾いた音を立てて地面とぶつかる。同時に観念したように両腕を上げた。


「ん?降参って事で良いの?」


「えぇ、『大怪盗』の名にかけて素直にお縄につきましょう」


「往生際は良いみたいだね――」


 その言葉に騙す意思を感じず、本当に敗北を認めている雰囲気を感じ取ったレイは最後の一撃を加えようと手を振りかざして――そこでふと、とあることを思いついて提案する。


「そうだ、この後暇?」


「? まぁ特に何かあるわけではありませんが……」


「じゃあさ――」


 ◇◆◇◆◇◆


「――という訳で、協力してもらう事になりました」


「よろしくお願いしますね」


「一体何がどうなったらそうなんだよ!?」


 何故か先程まで敵対していた相手を紹介されるという状況に、やはりというべきか、港には男の怒号が響き渡った。


[TOPIC]

SKILL【ライトニング・ブレイク】

高出力の雷撃を放つ、雷属性の上級魔法。射程は短いがその分火力に特化している。

MP:100

効果①:雷属性のダメージ(<知識>×3)

効果②:対象に【感電】状態を付与

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! うーん、元々足りないステータスを圧倒的なPSでカバーして戦ってるのに、そこにステータスが加わったら…ねぇ? 狙いの見えてる奇襲ほど、対処のしやすい攻撃もないですからね…初…
[一言] 強力な助っ人!
[良い点] 案外ステータスの暴力って感じじゃなかったな 相手が弱すぎた [一言] よく考えたら怪盗と手品師ってやりたいこと矛盾してね?
感想一覧
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