1-10 作戦会議と悪だくみ
【レイちゃんねる】
【第3回配信】
・わこつ
・わこつ
・わこつ
・ってかタイトル適当すぎん?w
「おっと、みんな来るの早いね。タイトルについては……うん、まぁそのうち考えるよ」
レイが『ToY』にログインして配信を開始すると、怒涛の勢いで視聴者数が増えていく。その様子に少し驚きながらも、笑みを浮かべながら今日の予定を話し始めた。
「今日はとりあえず【時限草】の確保をメインに、その後はレベル上げをしようかな。時間がそんなにないからどこまでいけるかは分かんないけど」
・おけ
・りょ
・まだ3時だよね?時間がないとは…?
・考えたら負けだぞ
「あはは、まぁでも本格的に走るんならちょっと心許ないでしょ」
・ヒェ…
・走るとか言いだしたぞ
・一体何時間やるつもりなんだ…?
・『きょうじん』の名はだてじゃないんだな…
「ぎゃう……」
当たり前の事のように言うレイにコメント欄は戦慄しながら突っ込みを入れる。その横ではじゃしんが呆れたようにやれやれと肩をすくめていた。
・そういえば昨日手に入ったアイテムは見ないの?
「あ、そうじゃん!教えてくれてありがと」
そういえばとすっかり頭から抜けていた昨日の戦利品についてレイは思い出すと、メニューからアイテム情報を確認する。
ITEM【欠けた満月の首飾り】
丸い満月の姿をした首飾り。ただ一部が欠けており、本来の姿は見えていないようだ。
効果①:不明
取り出して手に持つと、それは丸い形をした何の変哲もないペンダントだった。ただし三日月の形をした透明な箇所があり、名前の通り満月ではなく一部欠けている。
「なんだろ?もう一個この形のやつがあるのかな?」
・それっぽいよね
・セブンも持ってたけど分かってなかったぞ
・三日月型のペンダントなんて見つかってないし
・う~ん謎だ
コメント欄を見ても詳細を知っているものは現れない。ここで考えても仕方ないと感じたレイはアイテムをしまってもう一つの戦利品を手に取った。
WEAPON【撃鉄:因幡】
三日月の紋章が入った拳銃。軽量のためとても扱いやすくなっている分、威力は控えめ。
上昇値:-
要求値:-
効果①:10の固定ダメージ
※6発発射後リロードが必要
「お!メイン武器キタ!?」
詳細を読んだレイは喜びのあまり飛び上がる。そこには彼女にとって理想的なことが書かれていた。
「ステータスの要求値もないし、ダメージも腕力依存じゃない!リロードは気になるけど、それもまた味!何よりフォルムがかっこよすぎる!」
・わかる。銃いいよね
・そっかレイちゃん厨二病だったね…
・この武器でこんな喜ぶ人初めて見た
・ビッグフット倒せる奴は10の固定ダメージとかゴミだわな
コメント欄ではあまり好評では無いみたいだがレイは気にする素振りを見せず、メニューウィンドウを操作すると今現在装備している杖の情報を確認した。
WEAPON【初心者の杖】
何の変哲もない杖。可もなく不可もない。
上昇値:腕力+5
要求値:-
効果①:-
「うん、交代!」
・え~!
・ともにビッグフットを倒した相棒なのに!
・初心者の杖~!
有無を言わさずに装備を変更するとその銃を構えながら様々なポーズをとる。一頻り堪能したレイはうっとりとした表情でその銀色の銃を見つめていた。
「はぁ、もう最高すぎる……このゲームやっててよかった……」
・トリップしておられる…
・レイちゃん!ヤバい目してるよ!
・ヤンデレみたい
・でも可愛いからヨシ!
「ぎゃう!ぎゃう!」
「ん?じゃしんも触りたいの?」
「ぎゃう!」
レイは足元でぴょんぴょん飛び跳ねていたじゃしんに拳銃を渡す。すると先ほどレイがやったのと同じポーズをとって、どうやかっこいいやろ?と言わんばかりの決め顔をしていた。
・かわいい
・かわいい
・かわいい
・かわいい
「いや~、いい拾いものをしたね!これは【時限草】もいらないかもね!」
「ぎゃう!?」
レイのふとした一言に期待した目を向けるじゃしん。
「あ、ごめん嘘だよ。そんなつもり1mmもないし何なら今後どんどん使っていくから」
「ぎゃう!?」
レイのあまりに残酷な一言に膝から崩れ落ちたじゃしん。
・草
・草
・酷すぎるw
・可哀そう…もっとやれw
「そんなこと言ったってあの火力は捨てられないでしょ」
「ぎゃう~……」
コメント欄に少し不服そうな様子を見せたレイだったが、隣でさめざめと泣くじゃしんに少しばかり罪悪感が湧く。それをごまかすようにコホンと咳をして話題を変えた。
「ま、これは決定事項だから!ところで、【時限草】ってどこで手に入るか知っている人いる?」
・へイースト火山で採れるよ
・あそこレベル高いから無理じゃね?
・レイちゃんならいけるっしょ
・よゆーよゆー
「【へイースト火山】かぁ、できれば【ホワイティア】で手に入る方法が知りたいかな」
・市場にはなかったはず
・オークション?
・そもそもレイちゃんお金あるの?
「あ」
あまりにも盲点だったコメントを見つけ、レイは慌ててメニューを確認する。よく見るとステータス項目の上部に金額を表示する部分があり、そこには500Gと書いてあった。
「私、貧乏だわ……」
・知ってた
・そりゃそうだよ
・金策してないしな
・そもそも一週間デスマラソンする奴が悪い
「そこまで言わなくてもいーじゃん……」
コメント欄のあまりの言い草に思わず体操座りをしていじけ出したレイだったが、とあるコメントが目に入り、思わず首を捻る。
・裏路地の『闇商人』なら確か持ってたと思うよ
先ほどの流れから逸れるような発言にどういうことかと思考するレイ。目の前ではじゃしんも同じように首を捻っていた。
「でも私お金ないんだよ?『闇商人』って基本ぼったくってくるって聞いたけど……」
・レイちゃん、このゲーム基本何しても許されるんだよ?
・え?
・なるほどな
・どういうこと?
・あっ、そっかぁ(察し)
「ん?――あぁ、そういうことね」
コメントを見て初めはピンと来てなかったレイだが、次第にその顔は悪い笑みに染まっていく。この後、顔も知らぬ『闇商人』に災難が降りかかることが確実になった瞬間であった。
[TOPIC]
WORD【闇商人】
とあるプレイヤーの異名。
ホワイティアの裏路地を縄張り都とし、迷い込んだ初心者プレイヤーをカモにして荒稼ぎしている。
復讐を望むプレイヤーが後を絶たないが、強力な用心棒に守られており、迂闊に手を出すことが出来ない。




