0-2 まずは初期設定から
『おはようございます。気分はいかがでしょうか』
心地よいまどろみの中、不意に機械音声が聞こえ玲は目を開ける。
そこには淡く点滅する白い光に水色の羽が生えた球体が存在した。
『初めまして。総合管理AIのNAVI-001です。本ゲームにおけるチュートリアル及び各種設定について担当しております。どうぞよろしくお願い致します』
どうやらこの機械音声はふよふよと浮いている球体、NAVI-001から聞こえていたようだった。そこでようやく、玲はここがToYの中であることを思い出す。
『これよりアバター作成を開始いたします。まずはお名前を教えてください』
「あー、レイで」
名前を聞かれた玲は本名そのままの普段使いしているキャラネームを即答する。
『レイ様ですね、よろしくお願い致します。次に容姿の設定を行います。初期設定では現実の容姿と同じものとなっております。変更は可能ですが、身長や性別など身体的な特徴を変更致しますと現実との差異によって動作に違和感を覚える可能性があります。そのため大きな変更は加えず、目や鼻などのパーツのみの変更に抑える事をお勧めします』
「なるほど、じゃあ初期設定で問題ない……」
レイは基本的に、興味がないことは面倒に感じるタイプだった。
そのためいつも通り初期設定で済まそうとしたが、流石にネットリテラシー的にどうなのかと思い直す。
「NAVI-001、やっぱりちょっと変えたい。髪色だけ変更とかできる?」
『もちろん可能です。何色に致しますか?』
「現実は黒だから黒から遠ざけるとして、あんまし派手な色は嫌だし……白寄りの灰色とかって可能?」
『はい、承知いたしました。……こちらにサンプルを用意しましたがいかがですか?』
NAVI-001がそう言うと、なにもない空間からカツラを被った首から上だけのマネキンが現れる。
このマネキンが被っているカツラがサンプルなのだろう、そこにはレイの想像していた通りの明るい灰色であったが、光の影響からかどちらかというと銀色っぽく見えた。
それを見たレイはうんうんと頷く。どうやら満足いく色であったようだ。
「オーケー、その色で問題ないよ。じゃあ髪色だけ変えてもらって、それ以外はそのままで――あ、赤目かっこいいからこれだけやっとこ」
『承知いたしました。これにてアバターの設定は完了となりましたので、アバターの構築を開始いたします』
一通り設定を終えたレイが完了を告げると、強烈な光が目に差し込む。
その眩しさにレイは思わず目を閉じ、再び目を開けた時には等身大の鏡が置いてあった。
鏡には身長158cmで驚くほど肌の白い小柄な少女が立っており、セミロングの髪が銀色なのと瞳が真紅に染まっているのを除けば、完全に普段の玲の姿であった。
鏡の中の自分に違和感があるのか、しばらく唸っていたレイだったが、やがて面倒くさくなったのか『まぁいいか』と呟いて次の設定に進む。
『続いて職業選択を行います。初期に選択できる職業は【戦士】、【魔法使い】、【盗賊】、【神官】、【召喚士】となっています。まずはメインとなる職業を選択してください』
NAVI-001の声が聞こえると鏡がウィンドウに切り替わりそこには各職業の説明が記載されていた。
【戦士】
・近接武器と盾を装備して敵と肉薄する。その肉体は鋼にも勝るとも劣らない。
・メイン選択時ボーナス
⇒腕力と耐久にボーナスポイント+50
【魔法使い】
・魔法を使用し敵を殲滅する。その破壊力は他の追従を許さない。
・メイン選択時ボーナス
⇒知性にボーナスポイント+100
【盗賊】
・磨かれた感性で誰よりも早く危険を察知する。清濁併せ呑む強かさが必要だろう。
・メイン選択時ボーナス
⇒敏捷と技術にボーナスポイント+50
【神官】
・祈りで仲間を癒し敵を浄化する。その意思は神の御心のままに。
・メイン選択時ボーナス
⇒信仰にボーナスポイント+100
【召喚士】
・屠った者の魂から眷属を召喚する。蛇が出るか鬼が出るかそれはあなた次第。
・メイン選択時ボーナス
⇒【召喚の石板】を入手
ようやくゲームの内容に関する設定がきたことでレイは顔を綻ばせる。
念のためネットで調べた情報と差異がないか確認するために一通り目を通すが、特に問題はなさそうだったためレイはほっと一安心した。
この説明文を見ているとどの職業も魅力的で心惹かれてしまいそうだが、レイは自身の立てたプラン通りに【召喚士】を選択する。その理由は当然、【死霊術師】にクラスアップできるからであった。
『続いてサブ職業を選択してください』
こちらも迷わずプラン通り神官を選択する。これは【神官】の固有スキルが必要であるからだ。
『ToY』では職業ごとに取得できる固有スキルとBPを消費して取得できる汎用スキルが存在する。
汎用スキルは職業関係なく取得できる一方で、固有スキルは完全に職業依存のため、その職業以外では使用できないという仕様があった。
『……完了いたしました。設定に伴い、ステータスを表示いたします。次にボーナスポイントを割り振ってください』
ウィンドウが一度点滅したかと思うと、ステータス画面に切り替わる。
=======================
NAME レイ
MAIN 【召喚士Lv.1】
SUB 【神官Lv.1】
HP 10/10
MP 10/10
腕力 10
耐久 10
敏捷 10
知性 10
技量 10
信仰 10
SKILL 【懐柔】【祈り】
SP -
BP 100pt
========================
そこには初期ステータスが映されていた。
ステータス名称に関してはそれぞれ腕力(STR)、耐久(VIT)、敏捷(AGI)、知性(INT)、技量(DEX)という認識で問題ない。信仰はちょっと特殊だが、おそらく【魔法使い】と【神官】の性能を区別するためだろうとレイは考えていた。
レイが調べた情報によると、『SKILL』とは任意発動型のスキルのことを指し、『SP』は条件発動型のスキルの事を示している。その中でもレア度が存在し、特別な条件下でしか取得できない『ユニークスキル』と呼ばれるスキルも存在している。
またボーナスポイントとはステータス値を上昇させるものであり、1レベルにつき10ポイント取得できるようだった。
掲示板の有志たちによって、腕力や敏捷の現実で影響しそうなステータスに関しては10の時点で現実の体感と同一であるという検証結果が出てるらしい。
そのため初期値でも違和感なく動けるらしく、逆に値が高くなるほど制御が難しくなるようだった。
「信仰に10Pだけ振って、残りは全部敏捷で」
BPの振り方についてもレイは当然考えており、プラン通りに100ptを割り振る。
『初期ステータスを決定いたしました。これにて初期設定は完了といたします。最後にチュートリアルを行います。準備はよろしいでしょうか?』
レイが頷くとNAVI-001はその羽を大きく震わせる。そして再び感じた強烈な光に目を閉じると、今度は浮遊感を感じた。
=======================
NAME レイ
MAIN 【召喚士Lv.1】
SUB 【神官Lv.1】
HP 10/10
MP 10/10
腕力 10
耐久 10
敏捷 100
知性 10
技量 10
信仰 20
SKILL 【懐柔】【祈り】
SP -
BP 0pt
========================
『転送を開始します……』
[TOPIC]
NPC【総合管理AI『NAVI-001』】
『ToY』の世界のガイド役として役割を全うする自律型AI。
その他にもいろいろの色のAIが役割に応じて存在している。