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5-9 それは手品か盗人か


・待って、本当にどういう状況?

・『大怪盗』?説明求む

・なんとなく不穏なのは分かった


 思わぬ大物の登場に沸き立つ視聴者達。その正体に驚く者と正体を知らぬ者が半々ほど散見される中、『大怪盗』と呼ばれた少年は右手を水平にして額に当て、遠くを覗くようなモーションをする。


「おや、それは配信ドローンでは?わざわざ私の為にオーディエンスを用意して下さるとは恐悦至極。ここまでされて名乗らない訳にはいかないでしょう!」


「ッ!?」


・おっと?

・何が起きた!?

・夜になった…?


 そう宣言した少年がパチンと指を鳴らした瞬間、辺り一面が暗闇に包まれる。足元すらも見通せない光が断絶された世界に最大限の警戒を示すレイ、だがその耳に聞こえてきたのはどこか陽気なドラムロールであった。


 ダラララララララララ――……。


『神出鬼没の大怪盗、狙った獲物は逃がさない。不思議な魔術で人々を魅了する、その正体は!』


 聞こえてくるナレーションボイスに合わせて天からスポットライトのような赤青黄、三色の光源が地面を照らす。不規則に動いていたそれは次第に動きを小さくしていき、ある一点に向かって収束し始める。


 ダンッ!


 そして、一際大きなドラムの音と共にその光が照らした場所は――。


「『大怪盗』ダン・ハッチ!今日も皆様の笑顔を頂きに参りました!」


 やはり、相も変わらず屋根の上。そこに両手を大きく掲げた『大怪盗』――ハッチの姿があり、背後からは大量の鳩が飛び立っていく。……瞬間訪れる静寂。


「えっと……?」


「おや……?」


 ばさばさと飛び立つ羽の音だけが響く中、お互いが困惑するように首を傾げる。肩透かしを食らったレイがどうしたものかと悩んでいると、目の前の少年が何やら物欲しげにレイの顔を見ているのに気が付いた。


「え?何?私待ち?」


・さぁ…

・ぽいよ

・あれじゃね?拍手してほしいとか


「そんなまさか――え、マジ?」


 視聴者に相談して返ってきたコメントを鼻で笑って否定しようとしたレイだったが、目の前でそわそわし始めたハッチを目にしたことで、あながち間違いではないかもしれないと考え直す。そしてゆっくりとではあるが、拍手を始めた。


「ほら、リボッタも」


「あ、あぁ」


・88888

・88888

・888…なんだこれ


 いかんせん数が少ないせいかぱらぱらと疎らにしか音が響かず、逆に寂しく感じてしまうほどの拍手。ただそれでも鳴り響くその音に満足したのか、ハッチは満面の笑みで右手をお腹に当て、深々とお辞儀をする。


「えぇ、えぇ、ありがとうございます。今日のオーディエンスは優しい方が多いようですね」


「あ、これで優しいんだ……。あのー、ちょっといい?」


「はい、なんでしょう?」


 ニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべるハッチに対して、レイは乱され続けているペースを引き戻そうと言葉をかける。


「私達に何の用?まさか、自己紹介の為だけに来たわけじゃないよね?」


「もちろんです、『きょうじん』様」


 呼ばれた名前にレイは嫌そうに顔を顰める。明らかに知られている様子に身構える彼女に対し、ハッチはゆっくりと歩き始める。


 なだらかな傾斜のある屋根を一度もよろけることなく進むハッチ。やがてその縁へと辿り着き、屋根の上から足を踏み外す――かと思われた。


・え?あれ?

・浮いてる!?

・これがイリュージョン…


 ところがハッチの体は落下する事なく、寧ろ何もない空中を踏みしめるようにしっかりと足をつけていた。そのまま階段を降りるかの如く一段一段ゆっくりと降っていき、地面へと降り立つ。


「怪盗ってよりかは手品師だね……」


「えぇ、それも悪くないですね」


 ようやくレイと同じ地面に立ったハッチを改めて観察すると、彼女が思っていたよりも身長が低かった。レイであっても見下ろすほどの大きさはまさしく少年のようで、思わず油断しそうになるが、ピンと伸びた背筋に隙のない佇まいが、否が応にも彼が強者であることを証明していた。


「リボッタ、ここは任せてくれて良いよ。さっきも言ったけど先行ってて」


「あ、あぁ、分かった。だが大丈夫なのか?」


「もちろん、ここまでは予定通りだから」


「ちょっと、待ってもらえませんか?」


 視線を前方から逸らすことなく、端的にリボッタに言葉を告げるレイ。だがハッチはそれに待ったをかける。


「私の用があるのはその御方でして。追いかけるのも手間なので行かないでもらえると――」


「用があるのはこっちでしょ?」


 困ったように笑うハッチの言葉を遮ったレイはとあるアイテムを掲げてみせる。そこには先刻リボッタから受け取った【謎の地図】が握られていた。


「安心してよ、私がちゃんと付き合ってあげるからさ」


「――それなら。貴方ともお話したかったんです」


 それを見て笑みを深めるハッチの視線に、もはやリボッタは映っていない。それを感じ取ったリボッタがそそくさとその場を離れると、両者は睨み合いを始め――そこへ、地面を転がって火を消したじゃしんが苦しげに呻きながら起き上がってくる。


「ぎゃうぅ……」


「あぁ、おかえり。……そういえばさ、さっきじゃしんが燃えたのって貴方のせい?」


「えぇ。私のサブは【魔術師】なので。こういうこともできますよ?」


 それを見てふと思い出したかのようにレイが尋ねると、ハッチはどこからともなく黒色のステッキを取り出して、ぽんぽんと掌を叩く。瞬間、雷が迸った。


「ぎゃうぁ!?」


 ――もちろん、じゃしんに向けて。


・じゃしん!?

・今度は雷か

・もうやめたげてよぉ!


 プスプスと煙を吐きながら再び地面に突っ伏すじゃしんに対して流れる同情のコメント。だがしかし、その首謀者とも呼べる二人はチラリと一瞥しただけで直ぐに会話へと戻る。


「へぇ、器用だね。じゃあさっき浮いていたのも?」


「はい、風属性の魔法で足場を作るものがあるんです。魔法関連は調べておいて損はないですよ」


 そこまで言って一つ息を吸うと、ただ、と言葉をつけ加えてハッチは続ける。


「私は『大怪盗』ですので。見せ物の対価として、欲しい物を奪わさせて頂きますがご容赦を」


「……へぇ、やれるもんならやってみなよ」


 宣戦布告とも言えるその言葉と共にハッチは手に持ったステッキをくるくると回す。それに相対するレイも怖気付いている様子はなく、寧ろ迎え撃つように獰猛に笑っていた。


[TOPIC]

NAME【ハッチ】

身長:147cm

体重:43kg

好きなもの:怪盗、マジック、人の驚く顔


マジシャンのような恰好をした金髪の少年。

そのほとんどが謎に包まれた見た目をしながらも、自らを『大怪盗』ダン・ハッチと名乗っており、それが浸透してか『大怪盗』の異名で呼ばれるようになった。

様々な街に出没しては『イリュージョン』と称して魔法をぶっ放し、その対価としてGやアイテムを勝手に奪っていくという、かなりはた迷惑なプレイヤーとして有名。

当然、懸賞金がかけられて追われる立場なのだが、それをものともしない所か『怪盗は追いかけられてこそ。むしろ箔が付いた』と喜んでいるらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] じゃしんが不憫すぎる
[良い点] 大怪盗君さぁ… なんで来たの?
[一言] 更新お疲れ様です! いやぁ、、、すごいなぁ、、、 それ貫く精神力の高さは凄いよ大怪盗さん、、、 厨二、、、ゲフンゲフン、少し共感性羞恥を覚える人もいそうな感じですけど、かなり強いプレイヤーで…
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