5-7 海賊は陽気に歌う
次話投稿ミスってしまいました。すまぬう……。
ということで、1日遅れですが投稿です。
「はぁ、取り敢えず座ってくれ」
「え?別にまだまだ暴れたりないし、やる気なら迎えうつけど?」
「店を壊すなって言ってんだよ」
一騒動終えた後、未だざわつく他の客に対してレイが獰猛な笑みを浮かべると、それに委縮したように顔を逸らして席に座る海の男達。その情けない態度を見た彼女はつまらなさそうに目を細めると、マスターの言葉に従ってカウンター席へと座る。
「ドリンクはオレンジジュースでいいだろ」
「え~、お酒は?」
「ガキに出すつもりはねぇ」
差し出された飲み物に対して不満を口にするも、そこは譲れない一線なのか、毅然とした態度で突っぱねるマスター。ぶつぶつと不満を口にしていたものの、結局彼女が折れる形でそれを口にした。
「それで、何が知りたいんだ」
「全部かな。今の所名前くらいしか知らないし。あ、うまっ」
「ぎゃう!」
問われた質問にレイが答える中で、口に広がる濃厚な果実の味に驚いていると、隣にいたじゃしんが羨ましそうな顔で彼女の前へと移動する。
「いや、あげないよ?」
「ぎゃう!?」
『一口ちょうだい』とでも言いたげな目に対して、無慈悲にもばっさりと切り捨てるとじゃしんは体を仰け反らせながらこの世の終わりかのような表情をして固まる。その一連の流れにマスターは呆れたように眉尻を下げながらも、もう一つオレンジジュースを取り出した。
「ぎゃう~!」
「あ、おかわりありがと」
「……ぎゃう~!?!?!?!?」
だがそれを受け取ったのは既に一杯飲みほしたレイであり、問答無用でごくごくと飲み始めた。突然の出来事に手を伸ばしたままの状態で固まってしまったじゃしんだったが、やがて事態を理解するとその目尻に涙を溜めながらレイへと噛みついた。
「いやぁおいしいね、これ」
・ひでぇ
・鬼!悪魔!
・まだじゃしん何もしてないのに…
「……そうかい、ありがとよ」
ガシガシと後頭部をかまれながらも全く意に介さない所か、まるで見せつけるかのように美味しそうに飲むレイ。その一連のやり取りを見ていたマスターは気の抜けたような視線を向けたものの、それ以上何かを言うことはなく本題へと話を戻した。
「それにしても、本当に何も知らねぇんだな。ならわざわざここに来る必要もなかっただろう。それこそ、港に行けば幾らでも教えてもらえるぞ?」
「あ?そうなの?でも今更だし、洗いざらいよろしく!」
満面の笑みでお願いをするレイの顔を見て、マスターは面倒くさいのに絡まれたという態度を微塵も隠さない。ただここまで来たら逃げられないと悟ったのか、ため息を零してぽつぽつと話し始める。
「つっても別に話せることなんかあんまりねぇがよ。お前さん、ここに来たのは最近か?」
「そうなるね」
「じゃあ『グリードの大冒険』っつー歌は知ってるか」
「いや、分かんない」
「じゃあそこからだな。おいテメェ等!いつも馬鹿みてぇに歌ってるアレを聞かせてやれ!」
少し考え込んだマスターはいくつかの問答を経て、未だに困惑する他の客に対して指令を出す。それを聞いた彼らは困惑しつつも歌い始め、酒の影響もあったのか、やがて楽しそうな大合唱へとなっていく。
<月明かりに照らされた最後の島
薪をくべて炎を灯せ さぁ宴の開始だ
酒を片手に思い出話 最高の肴さ
灼熱の太陽の元 度胸試しと滝に飛び込んで
遊び疲れた時は 巨大な樹の根で一休み
我らの誓いは一つの金貨に 最後はどこかに埋めてしまおう
あぁ素晴らしき冒険の日々 だが航海は今日でおしまい
さぁ帰ろう 地に足つけて 朝日が昇る前に
俺達の宝が待っている>
音程もリズムもない、下手くそな歌。それでもはっきりと耳に残るメロディーに聞き取りやすい歌詞のお陰で、繰り返し歌われる中、レイも自然と口ずさめるようになっていく。
「これはこの海に生きる者なら全員が歌える歌だ。大海賊キャプテン・グリードの冒険についての歌らしいが、どうやらこれが宝のありかを示しているらしい」
「らしい?」
「俺も親から聞いただけだからな。伝説なんてそんなもんだろうよ」
「ふむ、なるほど。みんなは知ってた?」
・これはネットにも上がってる
・知らんかった
・何かあるってずっと言われてる奴ね
野太い歌声が響く中、マスターから切り出された説明の裏付けをとるために、レイは視聴者にも確認をとる。返ってきた答えは概ねマスターと同じものであり、念のためリボッタの方を見ても首を縦に振るだけで、おそらく正しいのだろうと納得した。
「ねぇ、他にはないの?」
「他か……。確か『地図を探せ』ってうるさく言う奴がいたような――」
続いた言葉にレイとリボッタが反応する。それはまさしく彼女達が求めていた情報であり、自然とレイの姿勢が前のめりになる。
「地図?ちょっとそれ詳しく教えてくれない?」
「な、なんだ急に?悪いが、俺は知らねぇよ」
「俺は?って事は知ってる人に心当たりがある感じ?」
「まぁそうなるな。偶に来るんだよ、その伝説の『末裔』を自称する奴が」
「末裔?」
その単語をレイは繰り返す。確認するようにリボッタの方を振り返っても、先ほどとは異なりぶんぶんと首を振っており、レイと同じく初耳のようだった。
「あぁ。だがあんまり期待しない方がいいぞ。いっつも酔っ払ってて、足取りも言動も不安定だし、信憑性なんざ全くねぇ。金も持ってねぇしな」
「それでも大丈夫!紹介してくれない?」
「紹介は無理だ。なんせ何時ここに訪れるかも分からねぇ――」
明らかに重要参考人と呼べるべき人物にレイが身を乗り出して尋ねると、マスターは困ったように眉根を寄せる。――だが、丁度その時、スライドドアを開けて誰かが店の中に入って来た。
「ん?どうしたの?」
「お前らついてるみたいだな。丁度来たみたいだぞ」
「え、来たって――」
その人物を見て微笑むマスターに、事態が把握できていないレイはその真意を尋ねる。だがそれに応えるよりも前に、マスターは声を張り上げた。
「おい!オラジム!テメェに客だとよ!」
「んぁ?なんだぁ?」
気の抜けるような返事につられてレイは店の入口へと振り返る。そこには酒瓶を片手に赤い顔をした、毛むくじゃらな男がだらしない笑顔で立っていた。
[TOPIC]
WORD【BAR『海鳥の巣』】
『グランブルーム』の南側、より大人の世界に存在するとあるBAR。
屈強な海の男達が集まる酒場であり、名物は『ノロノロマグロの素揚げ』。
客層は厳つい見た目の割に手に職つけたまっとうな民間人。だが腕っぷしには自身のある者ばかりのようで、喧嘩も日常茶飯事。だだ一番強いのはマスターのようで、彼の一言が掛かればすぐさま大人しくなる。




