5-5 食べ歩きは探索の基本
【れいちゃんねる】
【第13回 海上都市からこんにちは】
「あ、あー。テステス。聞こえてるー?」
・聞こえてるー
・わこつ
・おひさ~
「うんおひさ~。火山のワールドクエストぶりかな?」
舞台は再び『ToY』の世界。配信を開始したレイはいつものように軽くマイクテストを行うと、手慣れた様子でリスナーに挨拶を始める。その背後にはより一層くたびれて老けたリボッタが立っており、その姿に当然視聴者から指摘が上がる。
・あれ、リボッタじゃん
・何でいるの?
・また厄介事か……
「あぁ、今日のゲストだよ。友達がいないみたいだから、仕方なく一緒に遊んであげようと思って」
「おい」
・は?許せん
・俺も一緒に遊びたいんだけど
・ずるくない?
「い、いや違うからな!?お前いい加減にしろよ!?」
レイの放った軽口を窘めようとするも、時すでに遅し。すぐさまリボッタに対してリスナーからのヘイトが向き、それに晒されたリボッタは慌てたようにレイに詰め寄る。
「えー、友達いなくて泣きついてきたのはホントじゃん。わざわざ別ゲーにまで呼び出してさぁ」
・おい、どういうことだよ?
・([∩∩])<シニタイラシイナ
・絶対に許さん
「ちょ、何とかしろよ!?」
全てわかった上で唇を尖らせ、もじもじとし始めるレイにヒートアップするコメント欄。明らかに火に油を注ぐ様な態度にリボッタが取り乱すと、それがツボに入ったのか、レイは腹を抱えて笑い出した。
「はははっ、冗談冗談。まぁ、またちょっと悪だくみをね」
・悪だくみ?
・なんだ、いつも通りか
・グランブルームに用事がある感じ?
「そういうこと。まぁひとまずは観光かなぁ」
「ぎゃう!?」
視聴者に向けてはなった説明の言葉に、頭上で暇そうにしていたじゃしんが前のめりになってレイの顔をのぞき込む。その瞳は爛々と輝いており、口からはよだれが垂れ、内に秘めた欲望が駄々洩れていた。
「はいはい、食べ物でしょ?ちゃんと探してあげるからさ」
「ぎゃう~!」
その姿に呆れながらも彼の意図を理解し、しっかりと喜ぶ案を提示するレイに、それを聞いて大はしゃぎするじゃしん。およそいつも通りのやり取りを終えると、レイは視聴者に質問しながらもゆっくりと歩き始める。
「じゃ、早速行こうか。どこかオススメある?」
・美味しいかき氷屋さんあるよ
・ソゲキウオの塩焼きオススメ
・どっかにトツゲキウミウシのステーキあったよね?
「おぉ、見事にご飯ばっかし……。でも全部美味しそうだし行っちゃおっか」
「ぎゃう~!」
・お~!
・お~!
・お~!
朧げながらも行き先を決めたレイは高々と拳を上げて『グランブルーム』の探索を開始する。その頭上には同じく拳を突き上げ、満面の笑みを浮かべた召喚獣と、背後には困惑しながらもその後ろを着いていくくたびれた商人の姿があった。
◇◆◇◆◇◆
『海上都市グランブルーム』は海の上に浮かんだとある島、その全体に存在する巨大な都市の事である。小さな丸と大きな丸が合体した瓢箪のような形が特徴で、小さな丸の方には生命線ともいえる多数の船が行き来する港が存在し、大きな丸にはこのフィールドならではの特別なアイテムや装備が売られている市場が存在する。
唯一海が存在するフィールドであるためか、名産と呼べるアイテムには海の幸が多く存在し、手に入るアイテムも海関連の見た目をしたものが多いようだった。現在、市場を歩く彼女の目に映るのもそういった類の物ばかりで、それらに興味を惹かれたのか、串を片手に忙しなく首を動かしていた。
「へぇ~、やっぱり魚系が多いんだね。お、あそこには釣竿売ってる」
「ぎゃう~!」
その頭上には相変わらずじゃしんが我が物顔で座っており、その手には何やら魚の刺さった串が握られていた。それを口に入れ、咀嚼する度に頬を抑え、幸せそうな表情を浮かべている。
・相変わらずじゃしんは美味そうに食べるな
・分かる
・そう言えばレイちゃん、じゃしん教ってどうやったら入れるの?
「じゃひんほー?――んぐ、えっと正直私管理じゃないからなんとも……。スラミンさんに聞いてもらってもいい?」
・はい~。今度面接しますので是非私のチャンネルへ~
・そういうシステムなのね
・売名乙
じゃしんと同じく串焼きを口にしたレイが困ったように有識者の名前を呼ぶと、間髪入れずにコメント欄にお目当ての人物が登場し、どこかへと誘導していく。おそらく言っていた通りその辺りの管理を全部やってくれるのだろう、色々と思う所がないわけではないが、何とかなるだろうとレイは丸投げすることに決める。
「詳しい話は全部任せてるから、気になる人はそっち行ってみて。……あ!じゃしん、かき氷あるよ!」
「ぎゃう!?」
そう言い切ると再び辺りを見渡し始めるレイ。一直線の狭い道の両端には所狭しと店が列挙しており、数多くのプレイヤーですし詰め状態となっていた。そんな中、コメント欄で指摘されていたお店の一つを指さすと、途端にじゃしんがぴんと耳をたたせて、『急げ!』と言わんばかりにレイの頭をぺしぺしと叩く。
「おじさーん、3つ下さい!」
「はいよぉ!味は何にする?」
「じゃあ……ブルーハワイとイチゴで!リボッタは?」
「……宇治金時」
尋ねられたリボッタがぽつりと呟くと、それを聞いていた店主のおじさんが大きく返事をしてガシャガシャと氷を削り始める。しばらくすると、レイの目の前に赤青緑の三色のかき氷が登場しており、それぞれ赤と緑をじゃしんとリボッタに手渡す。
「ぎゃう~!!!」
「あ、そんな急いで食べたら――」
「――ぎゃっ!?」
レイの注意も虚しく、口いっぱいにかき込んだじゃしんは突如として固まると、頭を押さえて天を仰ぐ。
・あるある
・辛いよね
・これ状態異常なんだよなぁ
「そうなの?だったら……」
当然の結果に呆れた表情を浮かべたレイだったが、コメント欄に表示された内容をチラリと見て、突如、同じように口の中にかき込んだ。
「ぎゃうあうあぁ!?!?!?!?」
「おー本当だ。痛くない」
・ひ、酷過ぎる…
・悪魔の所業だろ
・人間のやる事じゃねぇ!
「なぁ」
レイのとんでもない行動にじゃしんが頭を振って耐えている中、配信に乗らないようなひそひそ声でリボッタが話しかけてくる。
「こんな所で油売ってていいのか?もっとやることがあるだろ。それに配信なんかすると……」
「大丈夫大丈夫。あの地図を見せるつもりはないし、なるべくバレないようにしてあげるから。それにこっちの方が『大怪盗』も早く来てくれると思わない?」
「あ?おまえまさかおびき寄せ――」
一気にかき氷を食べ終えたレイはペロリと唇を舐めると、リボッタの言葉を微笑んで制する。
「とはいえ時間が無駄なのも確かだし、そろそろ本命にいこっか」
「本命……?」
「海、海賊、情報収集。そんなのが出来る場所と言ったら一つしかないよ!」
自信満々にそう言い放ち、ウィンクして見せるレイ。その姿にそこはかとなく不安を覚えたリボッタだったが、結局、文句を言うことはなくその後ろについていった。
[TOPIC]
STATE【頭痛】
効果①:軽度の行動阻害
効果②:属性耐性低下
効果③:状態異常耐性低下




