5-1 一島の主になりました
お久しぶりです。
二週間ほどお休みさせて頂いたので更新再開します。
なお、休んだ感覚は全くない模様。
ザザーン……ザザーン……
一定のリズムで流れるさざ波の音。遥か頭上からは燦燦と照り付ける眩い太陽に、眼前に広がる見渡す限りの大海原。そんなリゾートのような場所に一匹のモンスターが立っていた。
「ぎゃうっ!ぎゃうっ!」
わざわざ灼熱の砂浜に足をつけ、ピョンピョンと飛び跳ねているじゃしん。飛行能力はあるものの、敢えてそれを使わずに、その熱さすらも楽しみながら駆け出していく。
「ぎゃう~!」
その腰には赤と白の島縞模様の浮き輪を装着し、頭にはシュノーケルを被っている。まさしく準備万全と言わんばかりの格好のまま、じゃしんは海へと飛び込む。
「あんまり遠く行っちゃ駄目だからね~」
これでもかとはしゃぎ倒すじゃしんを遠目で見ながら一人、砂浜にパラソル付きの椅子に腰を下ろしてウィンドウを眺める少女――レイは緩く注意を促しながらもメニュー画面を開く。
=======================================================================
NAME レイ
MAIN 【邪教徒Lv.5】
SUB 【神官Lv.4】
HP 100/100
MP 200/200(100+100)
腕力 10
耐久 10
敏捷 60(10+50)
知性 10
技量 10
信仰 700((200*2)+100+200)
SKILL 【邪ナル教典】【邪ナル封具《神隠》】【神ノ憑代】
【祈り】【祝福の聖杯】【いなし】
SP【敬虔ナル信徒】【自己犠牲】【通過儀礼】
【精霊の加護】【両利き】
BP 0pt
称号 【月光組織の一員】【聖獣の良き隣人】
【世界樹に寄り添う者】【闇を振り払う英雄】
========================================================================
「結構増えたなぁ」
賑やかになってきたステータス欄を見たレイはだらしないニヤケ面を浮かべて感慨に耽る。相変わらずステータスは低いものの、最初期では考えられない程に充実した性能面は、明確に彼女の自信に繋がっていた。
「何よりもコレだよね……!」
ニマニマと嬉しさを隠そうともしないレイはステータス欄に存在するスキルの一つを表示させ、さらに口角を吊り上げる。
SKILL【神ノ憑代】
その身をもって神を宿せ。信奉の先に『尊キ御方』の慈悲はある。
CT:5400sec
効果①:基礎ステータスを召喚獣と同等の値に変化
効果②:自身にデスペナルティを付与
そのスキルは手に入れたてほやほやの最新スキルであり、現在のレイのテンションを押し上げている一つの要因でもあった。至ってシンプル効果ながらも途轍もない汎用性と爆発力を持ち、先の【邪神の因子】との戦いレイはニコニコと笑う。
「デスペナルティになるから使えない場面はあるけど。それでも破格でしょこれ。いやぁ、良いもの貰ったなぁ」
デスペナルティには『道中で手に入れたアイテムをロストしてしまう』という制約が存在する。これを解消するためには一度自身の設定しているリスポーン地点に帰還することでリセットされるが、逆に言えばそれまでは決していつでも紛失するリスクが伴っている、ということでもあった。
加えて『経験値も入手できなくなる』制約も合わさって、普段使い出来るかと言われると頭を捻ってしまう部分は否めないものの、ただそれを補って余りあるほどの力があるとレイは考えており、実際ボス戦においては破格の強さを誇っていた。そのため今後もお世話になるだろうとレイはご満悦な表情を浮かべる。
「後は使いこなせるように早さに慣れとかないと――」
「レイさん、楽しんでますか~」
「あ、スラミンさん」
鼻歌交じりにそんな事を考えていると、背後からレイの名を呼ぶ声が聞こえた。どこかぼんやりとした間延びする声にレイが振り替えると、砂浜を歩きながら向かってくる白衣の少女の姿が視界に映る。
「あ、うん。私よりもじゃしんの方が気に入ってるっぽいけどね」
「それなら良かったです~」
一人海上でバシャバシャと犬かきで泳ぎ回るじゃしんを横目に、レイが苦笑交じりで答えるとスラミンは穏やかに笑ってひらひらと手を振った。
「でも良かったの?こんなことの為に皆のゴールド使っちゃって」
「えぇ、クランとして活動する以上拠点は多いに越した事はないですし~。みんな同意の上なので、レイさんが気にする事はないですよ~」
「そう、かな?」
申し訳なさそうに眉を寄せるレイにスラミンが相変わらずのほほんと答える。だがその目の奥にはどこか『逃がすまい』とでも言いたげな猛獣の瞳を宿していた。
レイが現在いるのは【ポセイディア海】と呼ばれるフィールドに存在するとある島。そしてこれから、【じゃしん教】というクランが活動していく為の基盤となる場所であった。
【ポセイディア海】はその大部分を海で囲われたフィールドであり、陸地と呼ばれる島の多くは小島になっている。そのほとんどが無人島なのだが、一つ特徴としてその島を買い取れるという物が存在する。
当然、その額は馬鹿に出来ない、どころかおよそ個人では手が出ないレベルのGを要求されるため、基本的に共同でお金を出し合って買い取ることがセオリーであり、その先の使い道は多岐に渡っていた。
「今はまだ何もない島ですが、これから色々と準備をしてるんですよ~。個人的にはスライム触れ合い広場とか作ろうと思っていて~」
「あ、あぁ、そうなんだ」
これからの展望をキラキラとした目で語るスラミンに対し、レイは若干顔を引きつらせながら言葉を返す。だが途中でどこか後ろめたくなったのか、スラミンに向けてある提案をした。
「……やっぱりさ、スラミンさんがクランリーダーやったら?私は別にやりたい事とかないし、皆に返せるものもないし――」
「いや、それだけは無いですね~」
それをばっさりと、いとも容易くスラミンは両断する。それから諭すような口調でレイに言葉を投げかける。
「レイさんだがら皆集まってるんです~。もし辞めるというなら解散という形をとるしかないですので、私は全力で止めさせてもらいますよ~」
「でも私、何もできないよ?」
「いてくれるだけでいいんですよ~。それだけで私の登録者も――げふんげふん、皆が幸せになれるんです~。なんて素晴らしいんでしょ~」
若干、内にある本心が見え隠れした気がしたが、それでも本心を口にするスラミン。その言葉を聞いてレイはどこか呆れたような眼を浮かべた。
「……なんか宗教みたいだね」
「宗教ですよ~?名前忘れたんですか~?」
そうして放った単語にスラミンはしてやったりといった具合でにやりと笑う。
「寧ろ、教祖様に貢ぐスタイルの方が名前に合ってる行動かもしれませんよ~。それが嫌ならみんな神様に仕えてると思ってもらえれば~」
「神様」
「そう、神様~」
スラミンが指した先には満面の笑みで海水浴を楽しむじゃしんの姿。どこが神様かと突っ込みたくなったレイだったが、楽しそうに泳ぐ姿を見て急に悩んでいる自分がばからしくなり思わず吹き出す。
「ふふっ、何それ」
「そんな気構えなくていいんですよ~。レイさんは今まで通り好き勝手やって、我々もそれに倣う。それでどうでしょう~?」
「……そうだね。そうしようか」
改めて提案された言葉にレイは少しの間考え込み、こくりと首を縦に振る。それを見たスラミンは両手を上げて喜びを露わにした。
「という事は、これにて公認という事で~?正式発足バンザ~イ」
「ただし、変な人入れるのはやめてよ?後、人に迷惑が掛かるのはナシで」
「分かってますよ~。しっかりと面接した上でやりますので~。あ、そうだ。そう言えばぺけ丸さんが加入しましたよ~」
「え、ぺけ丸さんが?」
そうして彼女達はクランについての話に花を咲かせる。彼女達の表情は終始楽しそうで、意外にも満更ではないようだった。
[TOPIC]
AREA【ポセイディア海】
『ToY』の世界で唯一海が存在する島。全体の八割を海、残りを浮島で構成されている。
移動手段は主に船を使用しており、『海賊』と呼ばれる人種が出没することも。登場するモンスターは全て海に関連したモンスターとなっており、近距離専のプレイヤーは苦戦を強いられることになるだろう。




