1-9 日常の一コマ
なんとVR日間1位になりました!
まさかこんなことになるとは…!
見てくださっているみなさん、ありがとうございます!
「んむぅ…?」
時刻は12時をとっくに過ぎ、そろそろ短針が2時を指そうという所でレイはようやく目を覚ます。
「んん~……まだ眠い……」
ベッドの中で猫のように伸びをしたレイはまだまだ覚醒には程遠い目を数回瞬かせると、のっそりとベッドから起き上がった。
「お腹すいたな~」
12時間以上何も口にしていないため、部屋を出ると階段を下りて真っ先に台所へと向かう。
一階にたどり着いても人の気配は全くしない。おそらく仕事にでも行ったのだろう、そう考えたレイは気にする様子もなく冷蔵庫を開けた。
「なんて~素敵な~生活なんでしょう~」
陽気に鼻歌を口ずさみながら冷蔵庫から卵と白ご飯の入ったタッパー、そして醤油を取り出す。
続いてタッパーを電子レンジに入れて加熱を始めると、その間にポットに水を入れて沸騰ボタンを押した。
「あ、スマホスマホ」
そこでレイは部屋にスマホを忘れたことを思い出すと小走りで階段を駆け上がって自分の部屋へと入る。
「えーっと、どこ置いたっけ……あ、あったあった」
きょろきょろと部屋を見渡したレイは机の上に目的の物が置いてあるのを見つけると、スウェットのポケットに入れる。
そうして部屋を出ると遠くから電子レンジの加熱が終了した音が聞こえてきた。
「やば、いっそげいっそげ」
トンットンッと軽快な足取りで階段を降り、台所に到着したタイミングでポットの水が沸騰した合図も聞こえてくる。
「おー、大忙しだ」
そう呟いたレイはまず電子レンジからタッパーを取り出す。それを机の上に置くと今度はカップラーメンを棚から取り出してお湯を注いだ。
「これでラーメンの方は良し。あとは……」
カップラーメンは机の上に放置するとスプーンとお茶碗を用意する。
そのまま椅子に座るとタッパーの中に入った白ご飯を茶碗に移し替え、生卵と多めの醤油を入れて一気にかき混ぜた。
「いただきまーす」
こうして出来上がった卵かけご飯を、スプーンを使って口にかき込んでいく。
「うまぁ……!」
幸せそうな表情をしたレイはその手を止めず、あっという間に卵かけご飯を平らげる。
「ふぅ……」
ひと息吐いたレイはお腹を少しさすると、まだ満足していないのか椅子から立ち上がり、箸を取りに行くついでに茶碗とタッパーを流しにおいて再び椅子に座る。
「やっぱカップ麺は固め、なんだよなぁ……!」
まだ3分経っていないが、玲は構わずふたを開け麺をすする。
「はふ、はふ……。この体に悪い感じ、たまんねぇぜ……!」
へっへっへと人知れず悪い笑みを浮かべながらカップラーメンを食べ進めていく。
そうして汁まで飲み干したところで、ふぅともう一度息を吐いた。
「ごちそうさまでしたっと。あ~美味しかった」
そう言いいながら椅子にもたれかかり、ポケットからスマホを取り出すと、とあるサイトにアクセスする。
そこは彼女が配信している【レイちゃんねる】のトップページであり、登録者数の所には3万の文字があった。
「うぇへへへへ……」
その数字を見たレイはだらしなく顔をゆがめる。
彼女自身ここまで活動がうまく行くとは微塵も思っておらず、所詮自己満足の趣味みたいなものになるだろうと思っていた。
しかし蓋を開けてみれば、実際に多くの人に見てもらえており、今の状況はまさに彼女が目標にしていた有名配信者になりつつあると感じて、どこか感慨深い気持ちになっていた。
「はじめはどうなることかと思ったんだけどなぁ」
レイは非常に濃密だった一週間を思い出す。
まだそれだけしか経っていないのかと驚くとともに、一時期辞めようかと思っていたことが嘘のように今は1秒でも早くログインしたい気持ちでいっぱいだった。
「だめだめ、今日は一日課題する日って決めてるんだから」
逸る気持ちを抑えるために大きく首を振るレイ。
彼女が高校生の身でありながら昼間まで寝てぐーたら出来ているのは夏季長期休暇だからというのに他ならなかった。
当然学校側から課題が出されている。休みの期間にはまだ余裕があるのだが、まだ半分ほどしか手を付けていないレイは今日を機にすべてを終わらせて、残りの休みはすべて『ToY』につぎ込もうと考えていた。
「とりあえず洗い物終わらせて、それからシャワーを浴びてっと……」
食後の休憩を終えたレイは椅子から立ち上がると流し台の方に歩いていく。またスマホを横向きにすると、自身のアーカイブを流し始めた。
「あ、じゃしんこんな風になっていたんだ」
スマホにはビッグフット戦の最後の場面が映っており、上空で待機を命じられていたじゃしんはビッグフットとレイの戦いをはらはらした様子で見つめていた。
その様子を見てレイは思わず苦笑する。
「おっと、このままじゃ一生終わらないって」
食い入るように見つめていたためか、スポンジを握り、水を出しっぱなしの状態で固まっていたレイは気を取り直して茶碗とタッパーを洗い始める。
それでも所々よそ見しているせいか何度も同じところを洗いながらも、ゆっくりと洗い物を進めていく。
「今度はレベル上げと【時限草】の確保……あ、昨日手に入れたアイテムも見なきゃいけないか」
『ToY』の動画を見ている影響か、洗い物を続けながらもレイは今後の『ToY』での予定も考える。
考えれば考えるほどゲームの欲は抑えきれなくなってきており、そうしていてもたってもいられなくなったレイの思いはやがて爆発する。
「決めた!3時間だけ頑張って、あとは『ToY』しよ!」
そう宣言すると、洗い物を終えたレイは浴室の方に歩き出していく。
彼女の頭の中はすでに『ToY』のことでいっぱいであり、彼女を止めるものもまたいないようだった。
――一応記録しておくが、当然課題の方には全く集中出来ず、そのうえ1時間ほどで切り上げたため、進捗はほぼ0であった。
後程、彼女はきっと地獄を見ることになるだろうが、それはまた別のお話。
[TOPIC]
PLAYER【レイ】
身長:158cm
体重:50kg
好きなもの:ゲーム全般、TKG
いわずと知れた『きょうじん』ゲーマー。本名は深見玲。
もともとのゲームセンスがかなり良く、多くのゲームをやり込んでいるためか、どんなジャンルでも高水準のプレイを魅せる。
現実の方は学校内で噂になるくらいの美少女ではあるのだが、あまり周りと関わろうとしない性格のため若干浮き気味。本人はその方が気楽だと強がってはいるが、本心の方では…?




