4-48 世界を救った英雄のその後
[デスペナルティ中のため、経験値は取得されません』
[<ワールドアナウンス>プレイヤーネーム:「レイ」がワールドクエスト【その鳴き声に目を醒ますのは】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]
[称号【闇を振り払う英雄】を獲得しました]
[ITEM【不死鳥の羽根】を入手しました]
[ITEM【風化した鍵】を入手しました]
[ITEM【酉の紋章】を入手しました]
[ARMOR【消エヌ炎ノ羽衣】を入手しました]
「ふぅ……」
そのアナウンスを耳にして、レイはようやくほっと息を零す。
『終わったか。ご苦労だった』
「うん、老烏もお疲れ様」
『何、儂達は何もしておらんよ』
そこに多数のカラスを引きつけながら老烏が寄ってくる。かけられた労わりの言葉に、レイは照れ臭そうに笑った。
『犬っころにも感謝を。お主達は真の英雄だ』
「えぇ?褒め過ぎだって」
「ぎゃう~?」
仰々しく感謝の言葉を述べる老烏に対し、レイが謙遜するように困った顔をする一方で、彼女から顔は見えないものの、その声色から確実に調子に乗っていることが手に取るように分かった。
「よくそんな態度を――いや、今回はじゃしんがMVPかも……?」
「ぎゃうっぎゃうっ」
ただそれを否定できる材料が今回は特別少ないため、レイはそれを特に咎める事はしなかった。じゃしんが更に調子に乗ってバシバシと頭を叩かなければ。
「……いつまで乗ってるのさ!」
「ぎゃうっ!?」
我慢の限界を迎えたレイが頭上に居座るじゃしんを掴むと、地面に向けて全力で叩きつける。
ビターン!とまるでメンコのように地面にへばりついたじゃしんを見て、老烏は穏やかに笑う。
『はははっ、お主達は本当に仲が良いんだな』
「そんなことないと思うけど……。老烏達はこれからどうするの?」
その言葉にピンとこないのか、どこか不満そうな顔をしながらも、レイは気になっていた事を老烏に尋ねる。
『コウテイ様と共に世界を回ってみる予定だ。未だ嫌な予感が消えんからな』
「コケ―」
神妙な顔をした老烏はそう説明し、ちらりとコウテイの方を見る。そこには同意するように一鳴きするコウテイの姿があり、その言葉にレイも納得したように頷く。
「そっか、結局アイツには逃げられちゃったしね。うん、頑張って」
『分かっておる。お主達も狙われないとは限らないからな。十分注意するんだぞ』
「はーい」
気の抜けた返事をするレイに少し眉を顰めたもののそれ以上追及することはなく、羽を羽ばたかせて停滞させていた体を浮かせ始めた。
『ではそろそろ参るとする。また何処かでな』
「うん、きっとすぐ会うことになると思うけど」
『? そうだな、必ず会おう』
意味深に告げられた言葉に対し更に眉を顰めた老烏だったが、社交辞令だろうと判断して大人な対応を返す。
そしてコウテイの後についてどんどん高度を上げていくと、やがてその姿は雲の中に消え、完全に見えなくなった。
「ん~!終わったぁ!ほらじゃしん、早く起きなって」
「ぎゃう……」
そこでようやく、すべての終わりを実感したレイはぐっと背中を伸ばしながら、未だに這いつくばるじゃしんの体を起こす。
「今日はもう疲れたし、時間も時間だからログアウトかな。一旦町に戻るよ」
「ぎゃうぅ?」
「そんな顔しないでってば。ほら、団子くらいはかってあげるから」
「ぎゃう!?ぎゃう~!」
始めは責めるような眼で見ていたものの、レイの甘言に見事に惑わされたじゃしんは飛び跳ねながら喜びだす。その様を見て単純だなと感じつつも、レイは温かい目を向けた。
「い――!――だ!」
「ん?」
「ぎゃう?」
そして町に向かって歩き出そうとしたその時、その方面から叫び声と地鳴りのような足跡が聞こえてくる。
一体何事かとレイが目を凝らすと、そこにはちょんまげに袴を着た、如何にも武士といった見た目のNPCが大量に向かってきている様だった。
「あ、もしかしてこういうイベントだったのかな?耐えればNPCによるサポートがあるとか」
「ぎゃう~?」
その光景にレイは一つ仮説を立てる。
確かに先程のワールドクエストの難易度は異常であり、じゃしんの覚醒がなければ危うい部分が多々あった。それが実は時間制のものであり、一定時間経過でフォローがあるものだと考えれば幾分か納得いく。
考えれば考えるほどそれが正しいような気持ちになり、血走った眼で殺到する彼らに終わったことを伝えようと口を開いたところで、彼らが叫んでいる内容が耳に届いてくる。
「いたぞ!奴らが罪人だ!捉えろ!」
「は?」
「ぎゃう?」
思わず耳を疑う。
理解不能な単語を前に思わずレイの脳は一瞬フリーズし、再起動した後には慌てて叫び声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って!なんで私が罪人なのさ!」
「お前には二つの容疑がかかっている!一つは城から【八咫鏡】を盗んだこと!そしてそれを利用して世界を混沌に陥れようとしたことだ!」
「はぁ!?」
半ば言いがかりも甚だしいその容疑にレイは絶句する。そしてその憤りをぶつけるように叫び返す。
「ちょ、違うって!盗んでなんか――」
だが、そこで気付いてしまう、間違っているのは半分であるという事に。
前半の盗んだという部分は間違いなく真実であり、例え後半が事実無根であろうとそれを否定するのは一苦労しそうだった。
「何故押し黙る!やはり事実なのだな!?」
「いや、なんていうかその……!」
必死で考えるも上手い言い訳が出てこない。
この場にコウテイや老烏が留まってくれていればもしかしたら何とかなっていたかもしれないが、覆水盆に返らず、考えた所でたらればの話でしかなかった。
「ええい、話は奉行所で聞こう!神妙にお縄につけぃ!」
「くっ……!じゃしん、取り敢えず――」
「ぎゃ、ぎゃう!」
もはや聞くそぶりも見せない武士達は問答無用でレイ達に迫る。その勢いに、少し後退ったレイはじゃしんに声をかけると――。
「――逃げるよ!」
「ぎゃう!」
「待たんか!重罪人め!」
踵を返し、全速力で駆け始めた一人と一匹。
「もう、なんでこうなるのさぁ!」
「ぎゃう~!」
もはや日常となりつつある理不尽に思わず嘆きの言葉が漏れるも、その顔はどこか楽しそうに笑っている。どうやら彼女達の旅には休息の文字はなく、まだまだ続いていくようだった。
世界が終わりを迎える、その時まで。
[TOPIC]
MONSTER【コウテイ】
各地に現れた邪悪な神の使いに対し、それぞれの役目を果たすために聖獣は立ち向かう。
その中でも特別な力を宿した不死鳥は癒しの光を用いて破滅に抗った。彼の認めた英雄と共に。




