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4-39 その鳴き声で目を醒ますのは①


 ドロドロと湯水のように湧き出る黒い液状の何かは辺り一面をすごい勢いで染めていく。


(逃げないとっ……!)


 その光景を前に、このままではまずいと判断したレイは全力で動く。だが、その動きにあわせて黒いジェルは流動し、中々思うようにはいかない。


 そこで今度はメニューを開いて【火口の召喚石】を取り出して転移しようと試みるも――。


「ッ!?」


「おっと、何ですかこれは?」


 それを手にした瞬間、手首を圧迫するような感覚にレイは思わず手を開く。そこからするりと【火口の召喚石】が抜けると、先ほどと同じようにクラールの手に渡った。


「おやおや、悪い子ですね。面白いのはここからですのに」


(クッソ……)


 手にした【火口の転移石】指で摘んで眺めるクラールをにレイは鋭い目を向ける。


 だが抵抗らしい抵抗もそれくらいしか出来ず、もはや打つ手がなくなった状態でレイは必死に思考を巡らせる。


(ワールドクエストが出た以上、このままゲームオーバーになるなんて信じられない……ってことは何かのイベントだけど待っているだけでいいのか……!?)


 鏡から流れ出る黒いナニカは未だにその勢いを増しており、既にクラールの膝丈の位置まで達している。


 このまま展開が進むのを期待するしかないが、その状況がレイの中の焦りを余計に募らせていく。


 その時だった。


「まぁこれ以上動かれても困りますからね。邪神様、ソイツを消し去っても――」


『ガアッ!』


「なっ!?」


 隙の糸を縫うように黒い烏がクラールめがけて空から飛来する。その突然の出来事に初めてクラールは驚き、狼狽する。


「一体どこから――」


『去ね!』


 落下の勢いを利用しながら一直線に襲い来る老烏の奇襲は防がれることなく成功し、その嘴がクラールの腹部を貫通する。


(え!?死んだ!?)


 その光景を眺めていたレイは凄惨な光景に思わず目を見開く。だが、それで終わるほど甘くはない。


「邪神様、あの者に救済を」


『ッ!?』


 ()()から聞こえてきたクラールの言葉と共に、地面を満たす黒いナニカが槍のような形を形成し、その先端が老烏へと延びる。


 真っすぐとその頭を狙った一撃は済んでの所で躱したお陰で致命傷は避けられたものの、その片翼を貫いた。


「少し驚きましたよ。どこに隠れていたのですか?」


『くっ、化け物め……!』


 老烏がふらふらとよろめきながらも振り返ると、そこには変わらず笑顔を浮かべるクラールの姿があった。


「ふふふ、私の体は邪神様と一体化しておりますので。残念でしたね」


 薄く微笑みながら優しく諭すような声音で話すクラールがパチンと指を鳴らすと、老烏が貫いたクラールだったモノがドロリと黒い液体に代わり、地面にたまるナニカと混ざって消える。


「さて、秘策は失敗してしまったようですが。まだ諦めませんか?」


『ふん、最初からこの程度で何とかなると思っとらんわ……!』


 煽るような一言に老烏は満身創痍ながらもクラールのことを睨みつけ、口から石の様なものを吐き出す。


「それは……。あぁ、最初からそれが狙いだったんですね。これはしてやられました」


『貴様は必ず成敗してくれる……!』


 それはレイの持っていた【火口の転移石】であった。


 奪い返されたことにクラールは感心したように呟くと、老烏は捨て台詞を吐きながらアイテムを使用し、それと共に老烏とレイ、じゃしんが光に包まれる。


「えぇ、楽しみにしていますね」


 それを阻むことなく微笑みながら見送るクラール。その余裕に満ちた態度に苛立ちを覚えながらも、レイ達3人は【枝分かれの溶岩洞】の入口へと転移する。


『く、そ……』


「老烏!大丈夫!?」


 限界を迎えたのか、老烏は掠れた声を吐きながら地面へと倒れ伏す。


『我はもう、長く、ないようだ……』


「ちょっと、そんな冗談いいってば!」


 その弱り切った様子に、レイは慌ててポーションを取り出し老烏に使用する。


『無駄だ……。邪神の攻、撃には……【神蝕】と呼ばれる、特殊効果がある……これは決して、治ることは、ない』


「そんな……」


「ぎゃう……」


 だが彼の状態が改善されることなく、どんどんとその声から力が失われていく。


『済まぬ、我の我儘を聞いて、くれないか……』


「……何?」


『コウテイ様を……救ってくれ……』


 最後の力を振り絞り、レイに思いを伝える老烏。レイはそれを唇を噛み締めながら黙って聞く。


『【八咫鏡】…、あくまでも、封印する力……それ、さえ壊せれば……、コウテイ様は復活……できる』


「分かった。任せてよ」


「ぎゃう!」


『頼ん、だぞ……』


 強く頷いた一人と一匹に老烏はふっと笑うと、こと切れたように動かなくなる。それを境に目を覚ますことはなかった。


「……じゃしんいこう、取り敢えず町に戻って人を集めるよ。絶対に、失敗できないから」


「ぎゃう……!」


 老烏を腕に抱えたレイは決意を込めた瞳でじゃしんに声をかけ、じゃしんも潤んだ眼を拭いながらそれに同調する。


「急ごう、あの様子だとどうなるか……」


『おや、どこへ行こうと言うのですか?』


「ッ!?」


 そこに聞こえてくるはずのない、聞きたくもなかった男の声が響く。


『折角特等席で見れるんですよ。遠慮せずに戻ってきてはいかがでしょうか?』


 その声に導かれるように振り返ったレイの視界にあるのは【枝分かれの溶岩洞】の入口のみ。その先には果てしない迷宮が続いており、クラールの姿は見えないものの途轍もない不安に駆られる。


 その時、声に紛れてレイの耳に届いたのはわずかな振動音。それと共に、()()()()()()()()()が聞こえ――。


「まずい……!イブル!【簡易召喚】!」


『んあ?突然ですが了解でさァ!』


 即座に反応したレイは腰に携えた本を抜き、そのベルトを外してスキルの発動を命じる。そして黒色の魔法陣が浮かび上がった後に、アイテムポーチから取り出した【申の紋章】をイブルに与えると、それと共に紫色の雷が迸った。


『ここは……あぁまたか』


 数秒後、煙が晴れた先には金色の紋様を体中に纏った黒いゴリラ――ゴウグの姿があった。


 2回目と言うこともあり少し慣れた様子を見せるゴウグに対し、レイは切羽詰まった様子で指示を飛ばす。


「ゴウグ!背中に乗せて!それから、あっちに向かって全力で走って!」


『何だ急に――それはコウテイの所の使いではないか!?一体何があったのだ!?』


「説明してる時間はないの!急いで!」


『後で説明してもらうぞ!』


 状況が理解できてないゴウグだったが、それを解決する前にレイとじゃしんは大きな背中に飛び乗る。


『おや、聖獣ですか。丁度いい、それも頂きましょう』


 ゴウグが動き出したのと共にまたもやクラールの声が響き、それにあわせて振動音が増していく。


 そして、【枝分かれの溶岩洞】の入口から黒いナニカが殺到した。


[TOPIC]

STATE【神蝕】

効果①:最大HPの1%の継続ダメージ(1%/1sec)

効果②:回復無効効果付与

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 問答無用で箱庭を使えば時間稼げたのでは?今回でクラールと邪神が一体化してるって分かってるしなおさら箱庭対応しない理由がわからん。ここで使えないような制限箱庭にあったっけ?
[一言] 2日ほど前に知ってようやく最新話に追いつけました。めっちゃ面白いです。 これからどうなるのやら
2021/05/24 23:00 しおりすぐ無くす読書好き
[一言] 更新お疲れ様です! こんな光景を見てしまったあなたはSANチェック 1d3/1d10です。 そして、、、老鳥、お疲れ様。 うわぁ~!邪神水の洪水やぁ~(白目 さぁ、チェイスフェイズだ! 更新…
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