4-34 後始末の後は
「あれ、もう終わり?もっと色々考えてたのに……」
余韻もなくあっという間にいなくなったカイエンに対し、少し残念そうな声を口にするレイ。といっても名残惜しさは微塵もなく、すぐに興味を失うとくるりと振り向いた。
「お疲れ。もう終わったみたい――ってどうしたの?」
「いやぁ、幾ら向こうが悪いとはいえ、ちょっと同情しちゃうっすね……」
若干引いたそぶりを見せる【じゃしん教】の面々の気持ちを代弁するようにましゅまろが口を開く。
「いやいやまだ優しい方でしょ」
「え?」
「え?」
それを冗談と受け取ったレイが笑いながら言葉を返すと、思った以上にガチトーンの疑問符が聞こえ、つられてレイも疑問符を口にする。
何故か溝が深まっているような気がしたレイが慌てて弁解しようと口にしようとした時、スラミンがコホンと咳払いした。
「まぁまぁ、レイさんが狂人なのは今に始まったことではないでしょう。とりあえず我々の役目は完了したって事でいいんですよね」
「え?あぁ、うん。皆さんありがとうございました」
その発言にいまいち釈然としないレイだったが、そんな事よりもと集まってくれたリスナーに頭を下げる。
「全然問題ないよ!」
「うんうん、レイちゃんの為なら何でもするさ!」
「ん、今何でもするって……」
・俺達もいるぞ!
・荒らしも一気にいなくなったわ
・完全勝利!
顔を上げると笑顔でそう返してくれるリスナー達。ふとコメント欄を見ると元通りの平和な光景に戻っており、その暖かさにほっと胸を撫で下ろした。
「俺なんて元いたクラン抜けてまで入ったし――ウッ」
「え、そんなことまで?じゃあ早く解散して……」
「まぁまぁまぁまぁ。それはまた今度ゆっくり話し合いましょう。そんな事よりもあっちにいった方が良いのでは?」
一人のプレイヤーがぽろっと不用意に発言した言葉にレイは顔を曇らせる。
自身の都合でそんなことまでさせてしまったことを申し訳なく感じ、今すぐにでも仮組のクランを解散しようと提案したが、それはスラミンによって有耶無耶にされた。
さらにごまかすようにある点を指さすと、そこにはギークとセブンが睨み合い、ココノッツが仲裁している光景があった。
「うわっ、やばいやばい!ごめん行くね!」
「えぇ、どうぞ。こちらも話があるので」
そう言ってスラミンの元を離れ、今まさに喧嘩が始まろうとしている面々の元へと急ぐレイ。
「なぜ貴様がここにいる?いや、そんな事よりも【英雄の旗印】を返せ」
「返せって言われても。ほら言うじゃん?私の物は私の物、お前の物は私の物って」
「よくもぬけぬけと……!」
「ちょっと待った~!」
セブンの煽りにギークが軍刀に手をかけたタイミングで、なんとか間に合ったレイが間に割り込む。
「あぁ、レイちゃんよう来たなぁ」
「レイちゃんやっほ~」
「おい!どういうことだこれは!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
緩やかに挨拶をする女性組に対し、怒りを前面に向けてレイに詰め寄るギーク。
「何故この女がここにいる!聞いてないぞ!」
「えっと、最悪負けそうになった時にちゃぶ台ひっくり返してもらおうと思って。ほら、そんな事セブンさんにしかできないでしょ?」
「それはっ!そう……かもしれんが……っ!」
これ以上ないくらい説得力のある言葉に何も言えなくなったギークの肩に、ぽんとセブンの肩が置かれる。
「だってさ、レイちゃんは君よりも僕の方が頼りになるらしいよ?」
「なっ、今すぐ切り捨ててもいいんだぞ!?」
「そんなことないですって!二人とも本当に助かりました!」
すぐさま喧嘩に発展しそうになる2人の間にレイは何とか間に割り込んで防ぐ。やはりこの二人は水と油だなと思っていると、どちらかというと油側の人間が話しかけてくる。
「で、レイちゃん。本当にこのクラン貰っちゃっていいの?」
「はい、正直もう関わりたくないので助かります。あ、でも今すぐ渡せるのはクランアイテム位になると思いますけど」
先ほど言っていた商品はあくまでの口約束であり、仕様上の制約があるわけではない。クランハウスの場所は分かっている以上、アイテムだけは確実に手に入る筈――なのだが、それは叶わないことをレイははまだ知らない。
「あぁ、それについては大丈夫。クランメンバーについてはもう話はついてるから。後は全部ほったらかしでいいよ」
「? 一体どういう……」
「僕には僕のコネクションがあるって事。これ以上は秘密かな」
意味深に含んだ言葉にレイは首を傾げるものの、セブンが大丈夫というのであれば大丈夫なんだろうとそれ以上聞くことはしなかった。
「あ、それにここにあるアイテムは全部持って行っていいよ。これはレイちゃんが勝ち取ったものだからさ」
「い、いいんですか?」
「もちろん、協力してくれたリスナーさんと山分けでもしたら?」
「ありがとうございます!そうします!」
セブンから出た思わぬ行為に、レイはさすがだなと尊敬の念を強める。だがそんな物は既に存在しておらず、それを指摘できる者はここに存在しない様であった。
「なぁ、話し終わったん?」
「ん?あぁ良いよ」
話が一区切りすると、今度はココノッツが声を上げる。背後からの声に気付いたセブンは道を開けるように横に逸れた。
「かんにんな、レイちゃん。助けてあげられんで」
「あぁいえ。用事があったのなら仕方ないですよ」
申し訳なさそうな表情を浮かべるココノッツに、レイは慌てて手を振りながら慰める。それでも気が済まない彼女はとある提案を口にする。
「いやいや今回もなんもしてへんし、このままじゃ気ぃ済まへんのやんな?」
「そんなに気にしなくても……」
「そやから決めたんよ。レイちゃんお城に入りたいんやん?入り方、教えたろか?」
「え!?」
「おい、ちょっと待ってくれ!」
思わぬ言葉にレイは目を見開き、それを横から聞いていたギークが割って入ってくる。
「何?やかましいなぁ」
「やかましいじゃない!それとこれとは話が別だ!」
「そんなん言うて、あんたがちゃっちゃと対処しいひんのが悪いんやん?文句言える立場にあると思うてるん?」
「それは……っ!」
自身の姉とも近しい存在にジト目で睨まれ、ギークは言葉を詰まらせる。そこに背後から忍び寄ったセブンが耳元に口を近づける。
「いいじゃんいいじゃん、介入しちゃいなよ。このゲームやったもん勝ちだぜ?ほら、こっちに来なよ……」
「えぇい、やめろ!囁くな!」
天使と悪魔、二方面から声をかけられ、悩みに悩んだ末にギークが出した答えは。
「……聞かなかった。俺は何も聞いてない。【DA・RU・MA】を倒してそこで別れた」
「え、でもこれ配信のって――」
「うるさい!知らないと言ったら知らないんだ!」
聞き分けのない子供のように耳を塞ぐと、それ以上会話を聞かないようにさっそうとその場を去っていく。
「あーあ、逃げたね。大丈夫なのかな、クランでの立場とか」
「まぁええんちゃう?そないな事よりレイちゃん、それで許してほしいんやけどあかん?」
「いや、是非よろしくお願いします!」
面倒くさそうなしがらみは自分から消え、断る理由がなくなったレイはその提案を快諾する。それに対してココノッツはほっとしたような顔を見せたが、少しだけ顔を曇らせた。
「そやけどあの鏡は手に入れるの、ちょっとややこしい思うで?なんかえらい大事そうに飾ったったし」
「なるほど、入手方法とか知ってます?」
「どうやろ?珍しいものが好きそうやし、レアなアイテムやらと交換できるとは思うけど、そないなアイテム持っとる?」
「……いや、どうでしょう」
中に入ったその後の展開にうーんと二人が頭を悩ませていると、それを聞いていたセブンがレイの肩に腕を回す。
「それなら僕にいい考えがあるんだけど。どうせなら派手にいかない?」
その顔はニヤリと弧を描いており、レイをもってしても碌でもないんだろうなぁと思わせるほどのあくどい顔を浮かべていた。
[TOPIC]
NAME【スラミン】
身長:148cm
体重:46kg
好きなもの:スライム、スライム、スライム
黒髪黒目に科学者のような白衣を身に纏い、大きな瓶底眼鏡が特徴の登録者3万人ほどの中堅配信者。
スライムをこよなく愛し、スライムの布教活動の為に配信していると言っても過言ではない。
ここ最近面白そうな配信者を見つけたため配信率は低下気味だったが、クランの設立に伴ってじわじわと伸び始めており、それを見て今後の立ち振る舞いを決めたとか。




