4-31 裁きという名の無差別テロ
「こっちくんなって!」
「バカ、止まんじゃねぇよ!」
「うわぁぁぁぁぁ!?!?」
無差別に行われるテロ行為に、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がる。
爆発の連鎖はふらふらと動き回る爆心地によってランダムに、それでいて定期的に行われ、【DA・RU・MA】の拠点を容赦なく破壊していく。
「くそが……!止まりやがれっ!」
「ぎゃう!?」
カイエンは元凶に向けて【金剛棍】を振り降ろす。ガンッ!と鈍い音を立てヒットするものの、当てられた本人はその箇所をさするだけで、特別ダメージを負っているようにはみえない。
「なんなんだこの化け――ッ!?」
――ドガンッ!
どれだけ悪態をつこうがその爆発が止むことはなく、どうしようもない災害を前にカイエンの中に焦りだけがひたすらに募る。
「ちょっとちょっと!何が起きてんすか!?」
「もう滅茶苦茶っすよ!」
そこに金銀の髪をした取り巻きの二人がリスポーンを終えて戻ってきており、この状況に理解が追いつかずカイエンに詰め寄った。
「奴だ!あの女の差し金なんだよ!それくらい分かれ!」
「はぁ!?どうすんすかじゃあ!」
「うるっせぇ!今考えてんだよ!」
ぶっきらぼうな物言いについ反論してしまう取り巻き。そのまま醜い言い争いに発展してしまうが、被害はどんどんと拡大していっており、改善する目途は見えなかった。
「ちっ、こんなことしてる場合じゃねんだよ――おい、拘束系のスキルもってる奴は!?」
「拘束系って……接触しないと発動しないんすよ!?まず近寄る方法を教えてくださいよ!」
「使えねぇな!じゃあスキル封印系は!あれなら触らなくてもイケただろ!?」
「はぁ?あれスキルじゃないっすよ?なんでそんなことも知らないんですか!」
「あぁ!?テメェ誰に――」
今までゲームの仕様や攻略については全てスカルに丸投げにしてきた弊害が一気に襲い掛かかる。呆れた表情をする取り巻き達にプライドが酷く傷つけられたが、じゃしんの向かう次の目的地を見て顔を青くする。
「おいおいおい、そこだけはやめろっ!」
「ぎゃう?」
制止の声にじゃしんは首を傾げながらも襖を開ける。そこには今まで他プレイヤーから奪い取ってきた戦利品が所狭しと放置されていた。
武器や防具のみに留まらずレアなアイテム、果てには大量のお金が入った箱が存在しており、まさに『クランとしての心臓部』と言っても差し支えない場所だった。
「頼む!ここだけはやめてくれっ!『クラン資産』にだけは手を出すなよっ!」
「ぎゃう~?」
カイエンはじゃしんに対して必死で声を張る。ただそれは、決してクランの為という訳ではない。
『クラン資産』とはその名の通りクラン内で所有している共有の資産の事である。持ちきれないアイテムを格納できるという機能の他に、権限を与えられたクランメンバーであれば誰でも自由に使用することができるというものであった。
【DA・RU・MA】においてその権限を持っているのはクランリーダーたるカイエンと、彼の右腕であるスカルのみで、実質その全てがカイエンの資産といっても過言がないため無様にも縋るように言葉を発する。
「ぎゃう~……」
「何でもするっ、お前の主人にも謝るから!だから、な?」
彼にとっての『大切なモノ』を前に、全てをかなぐり捨てて全力で下手に出るカイエン。それに対してじゃしんは腕を組んで考え、そして。
「ぎゃう!」
「!? やめ――」
振り返ってサムズアップをかましたじゃしんは躊躇なく室内に飛び込む。
必死に伸ばしたカイエンの右腕は無念にも空を切り、室内に爆炎が迸る。やがて煙が晴れたその先には、やり切ったと言わんばかりに良い笑顔で額をぬぐうじゃしん以外、何一つとして残されていなかった。
「うわぁ……」
「これは酷い……」
あまりの惨状にひきつった顔を浮かべている取り巻き二人に対し、カイエンは俯きながらこれ以上ないくらい拳を握りしめる。
「許さねえ……ぜってぇぶっ殺す……!」
ありったけの怨嗟を込めたその言葉に取り巻き達は標的にならないようさっと目を逸らす。だが、そんな彼に怯えることなく真っすぐに視線を送る者がいた。
「ぎゃう~?」
「うわ、こっち見た!」
「取り敢えず逃げましょうよカイエンさん!」
「……そうだな」
その大きな目でカイエンたちを捉えると、『次はお前だ!』と言わんばかりに両手を突き出してじゃしんが近寄ってくる。
今すぐにでも目の前の害獣を消し去りたい衝動に駆られるカイエンだったが、現状その術はなく、ぐっとこらえて踵を返し、出口に向かって走り始める。
「……そういえば緊急用のポータルストーンは?」
「それが、どこにもないんすよ!カイエンさんが持ってるんじゃないんすか!?」
「知らねぇよ……!」
何一つ上手くいかないカイエンは走りながらもギリリッと歯を喰いしばる。それでもここさえ乗り切れば必ず復讐できると、そう信じて心を落ち着かせていた。
長い長い廊下を走り抜けていると、辺りの壁が木造からごつごつした岩肌へと変わっていく。
やがてうっすらと明かりが見え始め、外へと通じる出口が見える。そこから脱出し、すぐさま場所を変え、体勢を立て直そうとカイエンは目論んで――だがしかし、それは叶いそうになかった。
「やっと出てきたか」
「ほんまやね。あれが達磨はん達?」
「【WorkerS】……!」
洞窟から抜け出したカイエン達の視線に映ったのはずらりと取り囲むように軍服を着たプレイヤーの群れであった。
本来であればプレイヤーなど滅多に通ることのない筈の僻地に待ち構えられていたことから、全て掌の上で転がされていたことを改めて認識し、カイエンの怒りはさらに増していく。
「こんな穴倉に住んでいたとはな、道理で見つからないわけだ。名前もネズミに変えたらどうだ?」
「ちょい、それやとネズミに失礼ちゃう?」
プレイヤー達の先頭で漫才のようなやり取りを繰り広げる二人に、カイエンは目を細め、怒りを抑え込めながらも代わりに警戒心を強める。
「……おい、そこをどけ。テメェ等に構ってる暇はねぇ」
「はっ、お前になくても我々にはある。禊を受ける時が来たんだよ」
「ほんまなら町で好き勝手してくれたお礼をして上げる所なんやけど……今回ばっかりは役不足やさかいね」
「何言って――」
「ほな、主役の登場やで」
ココノッツの言葉と共に軍服のプレイヤーが波のように割れると、その奥から一人のプレイヤーが歩いてくる。その姿を目にした瞬間、抑え込んでいた怒りが一瞬で湧き上がった。
「テメェ……!」
「はは、ははへはへ」
そこには、口いっぱいに草を咥えた『きょうじん』が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
[TOPIC]
WORD【クランハウス<隠れ家>】
各種フィールドに存在する隠しスペース。
その名の通り基本的に人目につかない場所に存在するため、見つけるのが困難である代わりにフリーの土地であるためクランハウス設立にお金が掛からないという利点があり、単純にロマン目的で探し求める人も多い。




