4-29 反撃の狼煙
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〇レイ@れいちゃんねる
@0_channel
今日17時から、3日ぶりに配信します。
午前10:00 · 20XX年9月26日
372件の反応 7883件のイイネ!
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「い、意外と大事になっちゃったな……」
時刻は16時50分を過ぎ、約束の時間に近づいてきた頃。スマホを開いて予め投稿していた内容を目にしながら玲はぽつりと呟く。
思った以上に反響が多く、スマホの通知が鳴りやまないことに若干気圧されつつも、ほとんどが歓迎の内容で溢れており、少し安心しながらも気持ちを入れ直した。
「ま、まぁ気にしても仕方ないか。やることは決まってるし」
すーはーと何度か深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着かせ、黒色の大きな椅子に腰を掛ける。
「よし、行こう」
最後に他の誰でもない自分に向けて言葉を発すると、頭上にあるヘルメットを被る。そのまま体を椅子に預け、眠気が増していき――……。
「ん……」
「ぎゃう!」
そしてレイは目を覚ます。体を起こすとそこは6畳ほどの和室となっており、殺風景な室内の中にじゃしんが心配そうな声を上げながら膝の上に乗っていた。
「あ、じゃしん久しぶり。あの後大丈夫だった?」
「ぎゃうぎゃう!ぎゃう~?」
「私も大丈夫だよ。元気になったから」
こくこくと頷きながら様子を窺うように上目遣いをするじゃしんに、レイは笑顔を浮かべながらその頭を撫でる。目を細めながら気持ちよさそうな顔をするじゃしんを見つつ、レイは配信メニューから配信の開始を選択する。
【レイちゃんねる】
【第13回 おまたせ】
・わこ
・待ってた!
・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!
「みんなおまたせ。それにしても、今日も元気だねぇ。暇なの?」
相変わらず登場する荒らしコメントに余裕な態度を見せるレイ。その姿に視聴者から疑問の声が上がる。
・もう大丈夫なの?
・雑魚のくせに調子乗ってるwww
・反応しない方が……
・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!
「ごめん、こんなの我慢できるほど私大人じゃないからさ。もうとっくに我慢の限界なんだよね」
沸々と湧き上がる怒りを覚え、それでも悟られまいと極めて冷静に言い放つ。
「【DA・RU・MA】を潰す。今日で全部終わらせるよ」
・え?
・まじか
・やっちゃえ!
・本気?
・無理に決まってんだろ
覚悟を決めた宣言に同調や困惑、疑念など様々な反応が溢れるも、レイは強気な態度を崩さない。
「まぁ見てて。全部分からせてあげるから。ね、じゃしん?」
「ぎゃう!」
ちらりとじゃしんを見ると、『任せろ!』と言わんばかりにシャドーボクシングを始める。その変わらない姿に少し救われながら、部屋を出て外へと向かう。
「さてと、おーい。早く出てきてくれない?」
・ん?何してんの?
・誰呼んでんだ
・まさか…
「へぇ、良い度胸じゃねぇか」
宿屋から出るやいなや、レイは何者かに対して呼びかける。それに視聴者から疑問の声が上がる中、道を挟んだ先の茶屋から反応する声が聞こえてくる。
現れたのは勿論赤い法被を着た男達。それも一番最初にレイに絡んできた剣と杖と槍を携えた男達であり、相変わらずへらへらと気色の悪い笑みを浮かべていた。
「もう戻ってこないのかと思ったぜ」
「ははっ、面白い冗談どうも」
杖を持った男が代表としてレイに声をかけ、レイはそれに微塵も感情の籠ってない返答をする。
「で?またイジメられてぇのか?」
「イジメられた記憶はないんだけど、少なくとも君達みたいな雑魚にはね」
「……減らねぇ口だぜ」
まさに一触触発といった雰囲気が流れる中、それでも法被の男達はニヤリと笑う。
「ま、何を考えてるのか知らねぇが、正直関係ねぇんだわ。テメェを潰すのが上の方針らしいんでね。恨むならこんな所までのこのこやって来た自分を恨むんだな」
「――っぷ」
決して冗談を言ったわけではないのに突如噴き出すレイ。そこでようやく、男達は不気味そうに眉を顰めた。
「……何が可笑しい?」
「いやぁ、ごめんごめん。こんなブーメランな事ある?と思っちゃって」
「? なんだお前?舐めてんのか?」
「だからさぁ、こっちのセリフなんだって。私のこと舐めてんの?」
返す刀で発せられた脅し文句。レイの鋭い視線に法被の男が怯んだ瞬間、場は急速に動く。
「行け」
「あ!?な、なん――!?」
掛け声と共にどこからともなく現れた軍服のプレイヤー達が、統率の取れた動きで法被の男達を取り囲んだかと思うと、何もさせることなく組み伏せる。
「がっ!?なんだよこれっ!?放せって!」
「こうも簡単に捕まえられるとは。今までのは一体……」
「それは知らないけど……」
何とか振りほどこうと暴れる男達の前に一人の男がやってくる。ゆっくりと歩きながら疲れたように言葉を発するその顔を見て、男達は目を見開いた。
「ギーク……!?」
「まぁ捕まったからよしって事にしようよ」
「……それもそうか。おい、あれを」
「はっ!」
男達の存在を否定するかのように、顔すら合わせないギークは近くにいた【WorkerS】のメンバーに声をかけて何かを持ってこさせる。
その手には銀色に輝く腕輪があり、軍服の男は手慣れた手つきで組み伏せられている赤い法被の男達の腕にそれを嵌めていく。
「これが【決闘の腕輪】?」
「そうだ。対になったリングをそれぞれ装備すると、お互いに位置を把握できるようになる。ログアウトすら禁止とするから、逃げるのも不可能だろうな」
「なるほど、これでコイツ等をキルすれば拠点を洗い出せるって訳か。外れる条件は?」
「両者の意思で外すことを選択するか、一定時間か。長くても1時間で勝手に外れるようになっている」
「は、ははっ!」
レイの問いかけに答えたギークの言葉を聞いて、法被の男は勝ち誇ったように笑いだす。
「そんな事かよ!無駄無駄!俺達は別の宿屋にリスポーン地点を設定してある!こんなことしたってクランハウスまでは辿り着けねぇよ!」
「あぁ、知っている。貴様達のリスポーン地点は【山楽】だろう?」
「ッ!?」
ギークの口から出た正確な情報に法被の男はピシリと固まる。
「今回はここにいると分かっていたからな。メンバー総出で張り込ませてもらった。油断したな」
「そ、それがどうした。それが分かった所で――」
「『クラン化』という仕様を知っているか?」
震えた声で虚勢を張る男を一瞥したギークはそれに割り込むようにとある単語を口にする。
「このゲームにおいて、クランハウスを設立するにあたり2つの方法が存在する。1つは純粋に新しい土地を探し拠点を設立すること。もう一つは既に立っている建物にお金を払うことでそこにいるNPCごとクランにしてしまう方法だ。これを『クラン化』という」
それなりの額がかかるがな、と肩をすくめるギークに対し、その意図を掴めずに黙り込む法被の男。
「さて、この場合当然宿屋も指定できるのだが、もしそこにリスポーン地点を設定しているプレイヤーがいる場合に『クラン化』したらどうなるか、気にならないか?」
「な、何を言って」
「検証した結果、リスポーン地点が他者のクラン所有になった場合、クランに属しているものはクランハウスに、そうでない者はホワイティアの噴水前に飛ばされることが分かった。勝手に最初の街に飛ばされてしまうのは気の毒だが――良かったな、帰る場所があって」
そう言いながらギークは腰に携えた軍刀を引き抜く。その様に、その言葉に全てを察した男は声にならない呻き声をあげた。
「あ、あ……」
「ご協力、感謝する」
容赦なく振り下ろされた軍刀は法被の男の首を断ち、3人をポリゴンに変える。そこに先程【決闘の腕輪】を持っていた男がウィンドウを開きながらギークに膝をついて報告した。
「ギーク様、場所が分かりました」
「ご苦労。だ、そうだが?」
「了解。じゃあ私は先にあそこに寄るとして――うん、出番だよじゃしん」
「ぎゃう?」
急に声をかけられたじゃしんは『俺?』と自身を指さす。そして満面の笑みで告げられた作戦を聞くと、引き攣った笑みを見せながらもどこかへと飛び立っていく。
「さぁ行こうか。私に喧嘩うったこと後悔させてあげなきゃね」
じゃしんの背中を見送りながらレイはぽつりと呟く。その眼は獰猛かつ冷酷に、まるで捕食者のように笑っていた。
[TOPIC]
ITEM【決闘の腕輪】
とある街の決闘士が使用する二対の腕輪。お互いの誇りをかけて、その命尽きるまでぶつかり合う。
効果①:お互いの位置をマップに表示
効果②:ログアウト不可効果
※解除方法:1時間経過 or 両者が解除する




