4-25 赤達磨の頭
「ふぅ、ここまでこれば大丈夫かな」
町を抜けたレイはフィールドの少し外れ、モンスターのポップが少なくプレイヤー自体があまり来ない場所に腰を落ち着けていた。
幸いなことに町から付いてきているDARUMAクランのプレイヤーは居らず、先ほどあった視聴者が食い止めてくれているのだろうとレイは心の中で感謝する。
・ここまでこればなんとかなりそう
・あーあ、お前のせいで町が滅茶苦茶だよ
・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!
・これからどうする?
・取り敢えずログアウトは?
「そうだね……別のフィールドに行こうと思ってる。問題の先送りにしかならないけど、このままここにいたって出来ることはないしね」
未だに蔓延る荒らしコメントに全く触れることなく無視する視聴者とレイ。思う事は多々あるがぐっとこらえて言葉を続ける。
「うん、やっぱり今日は一旦ログアウトしよう。それで後日【WorkerS】の人にコンタクト取って――」
「おいおい、そんなつれないこと言うなよな」
その時、背後から声がかかる。このタイミングで割り込んでくる相手に嫌な予感しかしないレイは辟易しながらも振り返る。
「……誰もいない?なんだ気のせいか」
「おい!見えてんだろ!ふざけんな!」
視線を上空に彷徨わせてそう言うと怒声が響き渡る。そこで視線を下に向け、敢えて見ないふりをしていた人物を見る。
「えっと、中学生?」
「あぁ!?馬鹿にしてんのか!?」
レイが首を傾げると目の前には彼女より低い150cmほどの身長の少年が地団太を踏んでいた。上に羽織っている赤い法被と同色の坊主には稲妻のようなラインが入っており、目つきも併せてやんちゃそうなイメージを思わせる。
「俺は高2だ!」
「は?これで同い年……?」
「テメェ……!」
「リーダーめっちゃ舐められちゃってるじゃーん」
ぽろりと、つい漏れ出てしまったレイの言葉にきっと睨みつける少年。そこに揶揄うように笑いながら同じ服装の男達が集まってきた。
「うるせぇよ、ボケ」
「おーこわいこわい。そんなにカリカリしないでよ」
少年の隣に並んだ金髪にピアスをした男以外は、3人を取り囲むように一定の距離を保って位置取る。もはや逃げるという選択肢を失ったと悟ったレイは覚悟を決めたように意識を切り替えると、トーンを落として問いかける。
「で?そこのチビが代表って事でいいの?」
「テメェ本当にぶち殺すぞ!」
「うちのリーダー口喧嘩弱すぎワロタ」
煽りに顔を真っ赤にしながらまんまと感情をさらけ出す少年に対し、隣にいたピアスの男は面白可笑しそうにケタケタと笑いだす。その歪な関係にレイは眉根を寄せながらも言葉を続ける。
「いや名前知らないし。チビとホスト崩れとその他大勢以外になんて呼べばいいの?」
「んだとゴラァ!?」
「ざっけんなこのクソ女!」
「あははっ!もう限界!レイちゃん面白すぎ!」
鼻で笑いながらそう言うと周りを囲っていた男達が一斉に沸騰する。単純な奴等だなとレイが思う中、一人だけ腹を抱えて笑い始めた金髪ピアスの男だけが妙に鼻についた。
「あー笑った。んじゃま、とりあえず自己紹介からする?」
「別に覚える気ないから言わなくてもいいよ」
「まぁまぁそう言わずに。俺はスカル、【DA・RU・MA】の副リーダーね。んでこっちがリーダーのカイエンで周りがその他大勢のメンバー」
「おいふざけんな!」
へらへらと笑いながら言葉を放ったスカルに対しても周りからヤジが飛ぶ。それに対してニコニコと笑いながらも煩わしそうに耳を塞ぐ。
「あーあー、しょうがないじゃん。皆紹介してたら時間なくなっちゃうって。ねえリーダー?」
「……そうだな。別に仲良くなりにきたわけじゃねぇ」
声をかけられた赤毛の少年――カイエンは苛立った気持ちを落ち着かせるように深呼吸をし、腕を組んでニヤリと笑う。
「おいお前。何で襲われたか聞いてんだろ?さっさと全部寄こしな」
「……はぁ。はいって言うと思うそれ?」
再度提示された一方的な要求にレイは心底馬鹿にしたように吐き捨てるも、今度は強気な笑みを崩さないカイエン。
「言わねぇだろうな。まぁそれなら別にいいんだわ、正直そんなのどうでもいいし」
「……はぁ?」
返された答えにレイは一瞬理解が出来ず、呆けた声を上げる。
「何?じゃあ何が目的なのさ」
「俺は俺の楽しいと思う事をやれればいいのさ。例えばテメェらみたいな調子乗ってる奴等をボコボコにしたりとか最高だよなぁ?」
カイエンが周りに聞くように声を張り上げると、それに同調するように歓声と下品な笑い声が上がる。その提示された答えに、レイは失敗したと言わんばかりに露骨に顔を歪めた。
「……最悪。聞いたのが間違いだった」
「誉め言葉ありがとよ。んじゃ、覚悟は良いかぁ?」
してやったりとした顔をしたカイエンの両腕にポリゴンが現れる。やがてそれは先端に鬼の金棒のようなとげが付いた黒色のトンファーを形作った。
「……一人でいいの?」
「あ?まぁ別にいいだろ」
ぐるぐると腕を回したカイエンはなんてことなさそうに言うが、レイは警戒するように辺りを見渡す。全く信用していなかったものの、確かに周りのその他大勢とスカルにも動く様子はなく――。
「おい、よそ見してんじゃねぇよ」
「ッ!?」
「ぎゃう!?」
――その一瞬でカイエンとの距離がゼロになる。じゃしんが悲鳴を上げる中、振るわれたトンファーを背を反ることで交わし、二撃目を振るわれる前に引き抜いた拳銃を発砲する。
「おっと、やるじゃん」
「どうも。あんたの不意打ちも中々だったよ」
放たれた弾丸に即座に反応したカイエンはバックステップでもう一度距離を取ると楽しそうに顔を歪ませる。一方のレイも顔を歪ませていたが、決して良い意味ではとらえられそうになかった。
「ぎゃうっ!ぎゃう~!」
「お~予想以上に触り心地良いんだねぇ」
「なっ、じゃしん!?」
両者睨み合う中、再び響いた悲鳴の咆哮にレイが視線をやるとそこにはスカルの腕の中に囚われたじゃしんの姿があった。
「おいおい、だからよそ見すんじゃねぇって!」
「くっ!どういうつもり!?」
「あ?こういうのは一対一だろうが!」
再び距離を詰めてきたカイエンの攻撃を今度は拳銃で受け止めるレイ。最悪な状況の中、それでも戦わないという選択肢は残されていないようだった。
[TOPIC]
CRAN【DA・RU・MA】
いくつか存在するPKクランにおいて最大派閥のクラン。現在のリーダーは【カイエン】
『ダーティー・ルード・マーダーズ』の頭文字をとって名付けられており、メンバー全員が赤い法被を着ているのが特徴。目をつけられた時点で全てを失うと言っても過言ではなく、【セブンによる監獄襲撃事件】によってメンバーが大幅に増加し脅威を増している。




