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4-24 迫る鬼から逃げ出して


 趣を感じる古い街並みをレイは全力で駆け回る。


「待てやゴラァ!」


「逃げてんじゃねーぞ雑魚!」


 その背後から多数の罵声が追ってきており、その全員が赤い法被を着た男達なのに加え、移動するたびにその数が増しているようにもみえた。


・好き勝手言いやがって

・何なんだよコイツら

・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!

・何が目的なの?意味不明なんだけど

・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!


 レイの状況と荒らしているコメントに視聴者はどんどんストレスを溜めており、それはレイも例外ではなかった。ただそれでも気持ちを落ち着かせようとコメントを拾っていく。


「アレにまともな思考を求めない方がいいよ。そもそも生きてる世界が違うから。――ってそういえばギークさんとかココノッツさんって何してるか知ってる?」


・達磨軍団最強!達磨軍団最強!達磨軍団最強!

・確かに

・ココノッツさんは知らん。SNSやってないんじゃ?

・ギークって人はSNSでハンバーグ喰ってる写真上げてるわ

・※このコメントは削除されました※


「えぇ、使えな――じゃなかった、リアル忙しいのかな。なんてタイミング悪い……」


 一応頼りになりそうな人物が軒並み連絡が取れなさそうなことに、レイは顔を顰める。ただ文句を言っても仕方がないことであると認識しているのかそれ以上追及はしなかった。


「御用だ御用だ!」


 その時レイとすれ違う形で複数のNPCが現れ、赤い法被の軍団と向かい合う形で陣取ると、警告を飛ばす。

「テメェら!これ以上この町で暴れるようならただじゃおかねぇぞ!」


「そりゃ来るよね、憲兵NPC!」


 ちょんまげに十手を持ったまるで岡っ引きのような姿の彼らを見て、レイはとあるシステムを思い出す。それは各主要都市に存在する町を守る存在であり、害悪プレイヤーに対する運営が用意した回答の一つでもあった。


 当然、どんなプレイヤーにも対処できるようにかなり強く設定されており、並みのプレイヤーでは勝てない存在のため、これで時間が稼げる――と考えたレイだったが。


「はっ!うるせぇよNPCごときが!退け!」


 だがしかし男達はこの展開自体に慣れているのか、決して怯むことなくむしろ加速する。そのまま自分たちの武器を振りかざすと躊躇なく振り下ろした。


「ふん!愚か者――」


「まだまだぁ!」


「なにっ!?」


 初撃を難なく防ぎ、返す刀でプレイヤーを屠った憲兵NPCも留まることなく押し寄せる赤い波に徐々に押されていく。圧倒的な『個』の力に対して『数』という答えで対抗するDARUMA軍団は一人、また一人と数を減らしながらも憲兵NPCを倒していく。


・確か憲兵NPCにキルされるとレベルダウンしなかった?

・する。強制的に1にされるからマジでメリットない

・※このコメントは削除されました※


 コメントで指摘があったように、通常のデスペナルティである『1時間経験値取得不可』や『取得していたアイテムのロスト』に加え、憲兵NPCにキルされた場合も『レベルリセット』という特別仕様が存在していた。


 その名の通りメインサブ問わず全てのレベルを初期化し、ステータスさえ戻してしまうかなり重たい仕様のためかなりの抑止力になっていた。ただし、()()()()()()()()()()()()という注釈がついてしまうが。


「だから言ったでしょ、私達とは違う世界に生きてるんだよ。楽しみ方が違うんだって。そんなことよりも……」


 レイがどうでもよさそうに吐き捨てると、ちらりと周りを窺う。その先は地獄絵図と化していた。


 憲兵NPCとDARUMAクランによる乱闘、それに巻き込まれるプレイヤーにNPC。先ほどまでの平和な状況が一変した景色で、間接的とはいえ原因となってしまったレイは悔し気に顔を歪める。


「とにかく急いでフィールドに行かないと。このままじゃ周りの迷惑に――」


「はっ!こっちは行き止まりだよバーカ!」


「残念だったなぁ!」


「っ!?」


 後ろに気を取られ、疎かにしていた前方に先回りしたのか赤い法被を着た連中が現れて道を遮る。


「あと少しなのに……!ここは無理やりにでも――!」


「ぎゃ、ぎゃう!?」


 前後共に挟まれる形になったレイは最後の手段と言わんばかりにじゃしんの後頭部を掴む。そのまま走りながらも投擲のモーションに入ろうとし、そこで頭上から何かが飛来した。


「ぐプッ」


「ばぼおぉ!?」


「え?」


 どぷんっと前方にいた男達を飲み込む形で降り注いだその黒い液体は、ぷるんと楕円の形で固体化する。中に囚われる形となった男達は苦しそうにもがくもやがて息絶えてポリゴンと化した。


「え?な、なにごと?」


「ぎゃ、ぎゃう?」


「どうもこんにちは」


 突然目の前の障害が消え去ったことに思わず立ち止まってレイとじゃしんが困惑の声を漏らしていると、背後から女性の声が聞こえてくる。


 青みがかったおさげの髪に大きめの瓶底眼鏡。さらには白衣を纏っており、どこか理系のような雰囲気を醸し出す少女の姿にレイは心当たりがあった。


「もしかして……スラミンさん?」


「えぇそうです。実際に会うのは初めましてですね、レイさん。といってもご活躍はかねがね――」


「ちょっとスラミンさん。そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが」


「そうっすそうっす。電電さんの言う通りっす。あ、自分サイン貰ってもいいっすか?」


「おおい!?言ってることとやってること違うんだが!?」


 その背後から初心者装備に毛の生えた程度の装備をした青年と、電電と呼ばれた鎖帷子に口元を黒い布で覆った忍者のようなプレイヤーが現れる。その話しぶりから察するに敵という訳ではなさそうだが、その関係性が分からずにレイは困惑する。


「えっと、後ろの二人は……?」


「あっ、俺達は――」


「視聴者AとBで問題ないですよ」


「ちょ、自己紹介位させてくれない!?」


「まぁまぁ間違ってないからいいじゃないっすか」


 声を遮るように口を挟んだスラミンに突っ込みを入れる電電。確かにその名前をレイは配信で見た覚えがあり、そこでようやくその正体に察しが付く。


「あ、ちなみに俺はましゅまろって言うっす。いつも応援してるっす」


「あ、ありがとうございます」


「てめっ、どさくさに紛れて――」


「電電さん、その辺にしてください。そんなことしてる場合じゃないでしょう?」


「そうっすよ、細かいことは気にしちゃダメっす」


「えぇ、俺が悪いの……?」


「ふふっ!」


 ちゃっかり自己紹介と握手を済ませたましゅまろに食って掛かろうとした電電は逆に攻められて意気消沈する。その様子に思わず吹き出してしまったレイを見てスラミンがしたり顔で呟く。


「やっと笑いましたね。その調子です」


「やっぱ推しには笑っててほしいっすもんねぇ」


「え、えっと?」


「つまりそういう事ですよ。我々はレイちゃんのファンとして助けに来たんです」


 電電から告げられた言葉にレイはハッとする。その言葉をそのまま受け取るのであれば、配信を見てくれていた彼らがわざわざ駆けつけてくれたことを意味しており、レイは少し震えた声で問い直す。


「……いいんですか?」


「勿論、そのために来たんですから。ここは任せてください」


「――分かりました、ありがとうございます!」


 その問いに三者三様でありながら自信満々に頷く姿を見て、レイは笑顔でお礼を言う。そのまま脇を抜けて走り出す後姿を見送った3人は各々の武器を構えて前を見据える。


「さて、格好つけた手前頑張んないとっすね。ちなみに俺は本当に初心者なんでよろしくっす」


「元から期待してないので安心しろ。出来るだけフォローしてやるから」


「周りに被害を出さないようにってのも忘れないでくださいね。さぁスライムちゃん達~、出番ですよ~」


 前方からは憲兵NPCをすり抜けた害悪プレイヤー達が邪悪な笑みを浮かべながらなだれ込んでくる。だがしかし彼らの目に怯えはなく、むしろ推しを害した敵に対する怒りでギラギラと輝いているようだった。


[TOPIC]

WORD【憲兵NPC】

各拠点と呼ばれるエリア(ホワイティア、キーロ、ゴールドラッシュなど)に存在する自警団のようなNPC。各地の特色に合わせて姿や能力、数は異なるが、根本的な役割に差異はない。

出現条件として『エリアにおけるNPCに危害を加える』及び『エリア内におけるプレイヤーの私闘』が存在し、どちらかに抵触した瞬間どこからともなく現れた後、該当プレイヤーがデスするまで行動を続ける。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! まぁこういうお仕置き系はいるよなぁ、、、 ギークさぁ、、、仕方のない面はあるけど、こう、なんかもうちょっとどうにかならなかった、、、? おぉ!視聴者の助っ人、、、! まぁ…
[良い点] 視聴者登場……かっこよすぎんだろ
[一言] やっぱね〜うん観てる実況者、配信者の人には笑ってしてて欲しいもんな まぁ・・・乙見て嗤うのも一興って言ったらその通りなんだけど基本的に笑ってて欲しいよ まぁ・・・つまり、視聴者助っ人三銃士を…
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