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4-19 乗り越えたその後は


「じゃ、じゃしん、ありがとね。お、お疲れ様」


「ぎゃう……」


 あの後、ゴウグの手によって引っ張り上げられたじゃしんは全てを悟った穏やかな目をしていた。レイがいくら謝っても『ええんやで』と言わんばかりに微笑みを浮かべる姿を見て、レイはぞっとする。


 その後も肩を揺らしてみたり、顔の前で手を振ったりとあの手この手で正気に戻そうと心みるレイだったが、依然として変わる様子はなく、遂には諦めたようにぽつりと呟く。


「まずい、これは重症かも」


・レイちゃんのせいで…

・あ~あ、壊れちゃった

・よくもったよ…


『大丈夫か』


 不気味なものを見るような眼でじゃしんのことを見ていたレイに、ゴウグが背後から話しかける。


「あぁ、うん。ほっとけば治るでしょ」


『……二人が良いのならそれで良いのだが』


 先程のは何だったのかと思う程にいとも簡単にケロッとした様子に戻ったレイに対して、ゴウグはそれ以上突っ込むことなくスルーすると、くっくと喉を鳴らして笑い始めた。


『相変わらずだなお前たちは。それで、これは一体何なのだ?』


「私の能力だよ。ほら、前ラッキーを召喚したでしょ?」


『ラッキー――あぁ、ネズミのか。そう言えばそうだったな。それで今は何をしていたのだ?』


「今?今は試練やらされてたんだよね。ゴウグ知らない?白いペンギン」


『白いペンギン?何だそれは?』


 軽い雑談を交わし始めたレイが、ふと伝えた情報に対して意外な反応を見せるゴウグ。想定と違った様子にレイは眉を顰めた。


「え?いるでしょ、聖獣の仲間で白色のペンギン。ほら、コウテイって言う」


『いや、いない筈――待てよ、コウテイ?』


 投げかけた質問に困惑した様子を見せるゴウグに、質問した側であるレイも困惑する。ただ、続けられた名前には心当たりがあったようだった。


『白色と言ったな?それならば心当たりがあるが……ペンギンになっていたのか?』


「うん、なってたよ。ねぇみんな?」


・そだね

・あれはペンギンだった

・間違いなくね


『そうか……』


 レイの確認を取るような言葉に同意するコメントが流れる中、ゴウグは思案気に顔を伏せると、不思議に思いながらも言葉を続ける。


『我が知っている奴はそんな姿ではなかった筈だ。おそらく何か問題があったのだろう。……レイ、我儘を言うが出来れば力を貸してやってほしい』


「もちろん、任せてよ」


 律儀に頭を下げるゴウグにレイは笑いながらサムズアップを返す。それを見たゴウグは安堵するように微笑みを浮かべていた。


「にしてもそんなことまで気にするなんて。聖獣同士って仲良かったりするの?」


『仲が良い、というほどではないが。鳥のはよく世界樹の実を盗みに来ていたからな。少なからず知り合いではある』


「……ん?」


 そのまま続けていた会話の中で、小骨のように引っかかったような嫌な感触を覚えたレイは念のため確認をとる。


「今、『盗む』って言った?」


『うむ、昔から世界樹の実――それと精霊樹の実に目がなくてな。何度追っ払ってもやってきて大変だったぞ。あの執念は恐ろしくも見習う所があると感じたな』


「……私、貰った世界樹の実盗られたんだけど」


『……あー』


 その一言ですべてを察したゴウグはどこか居た堪れない表情を浮かべ、さっと顔を逸らす。


「ちょっと何その反応!?私の世界樹の実は無事だよね!?ねぇ!?」


『なんだ、その……頑張れ――』


 ガッと詰め寄ったレイに視線を逡巡させながら言葉を探したゴウグは最後に一言そう呟くと、タイミングよく紫の雷に打たれる。


 それよりも前に離れて顔を覆ったレイが再度目を開けた時には既にゴウグの姿はなく、土煙が立ち上っているのみだった。


「そ、そんな……私の世界樹の実が……」


・ま、まだ確定したわけじゃないから!

・気をしっかりもつんや

・まぁ無理そうだけど(小声)


 がっくりと肩を落としたレイを励ますようにコメント欄が流れ始める。一部例外があったものの、それに言葉を返そうとして――バサバサと羽ばたく音が聞こえた。


『まさか本当に倒してしまうとは……』


「……はっ!舐めないでもらえる?」


 レイ達を頭上から見下ろす形で飛んでいたのは試練を宣言した老烏であった。どうやら驚いてるみたいだったが、レイにとってはそんな事どうでもよく、威圧するように言葉を投げかける。


「それで?試練はクリアってことでいいんだよね?ささっとアイテム全部、返してくれるかなぁ!?」


『ま、まぁ、待て。落ち着くのだ』


・こわい…

・輩やん

・ブチギレイちゃん


 ドスの利いた声に少したじろいだ老烏は何とか宥めようと落ち着いた声音で話し始める。


『もちろんアイテムは返そう。ただ、今すぐ渡せないのだ。できれば先程の『皇帝の間』まで来てくれんか?』


「『皇帝の間』?――あぁ、さっきの所か」


『うむ。そこに全ての貢物は置いてある。約束していた通り、好きなだけ持って行ってもらって構わん』


「……まぁ、そういうことなら」


 伝えられた条件に渋々ながらも納得するレイ。その様子にほっとしながらも老烏は伝言を続ける。


『それから、試練を乗り越えたお主達にコウテイ様より頼みたいことがあるそうじゃ。詳しくは『皇帝の間』で話す故、先に行って待っておるぞ』


「お願いってことはワールドクエスト進行してるって考えでよさそう――あ、待って!」


 次の展開に頭を捻ってひとり呟いたレイは飛び去っていこうとする老烏に向けて大事なことを尋ねる。


「ねぇ、私のアイテムに手を付けてないよね?具体的には世界樹の実とか!」


『……先に行って待っておるぞ!』


「またんかいコラァ!」


・草

・オイコラァ!

・『抗争民』でちゃってるよ!


 質問に答えずに急いで身を翻した老烏にあらん限りの罵声をぶつけるレイ。しかしそれで戻ってくるはずもなく、やがてその姿が見えなくなるとはぁはぁと肩で息をした。


「あの烏、ただじゃおかないからな……!さっそく行こう!」


・今から?

・もう6時だよ

・そろそろ学校でしょ?


「うぇ!?もうそんな時間!?」


 仕切り直して――とはいかず、伝えられた時間に驚いた顔を見せたレイはしばし悩み、いかにも苦渋の決断ですよと言った渋い顔をしながら視聴者に告げる。


「……しょうがない、続きは明日だね」


・おつ

・その方がいい

・学校頑張ってな


 そうして意識した瞬間から、頭痛すら感じるようなボロボロの体を引きずって町へと歩き始めるレイ。その顔はアドレナリンが切れたように、どっと疲れた顔をしていた。


[TOPIC]

AREA【皇帝の間】

へイースト火山の代名詞とも呼べる中央の赤巨山の火口に存在する謎の広間。

代々守り神として崇められた『ヒノトリ』が住む場所と言われており、暁城町民の間では神聖な場所として語り継がれている。

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― 新着の感想 ―
[一言] "抗争民"ってやっぱ人格形成に影響するんですね…() やはり"孤島"の記憶と同じようなものなんですかね…(他作品すみません)
[一言] すごい殺意湧いてきたんだけど。えっ、僕がプレイヤーなら聖獣だろうがシメるよ?
[一言] あ、だめなやつだ
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